映画「猫は逃げた(2022)」感想|城定秀夫×今泉力哉コンビによる、不貞な男女と猫の群像物語。
『アルプススタンドのはしの方(2020)』などの城定秀夫さんが脚本を担当し、『愛がなんだ(2019)』『街の上で(2021)』などの今泉力哉さんが監督を務めた映画『猫は逃げた』をあつぎのえいがかんkikiにて観てきました。
「今泉力哉×城定秀夫によるR15+のラブストーリー」というこの激アツなコラボは「L/R15」と銘打たれ、脚本と監督が入れ替わった『愛なのに(2022)』もほぼ同時公開されています(ここまですごいコピペしちゃった)。
『愛なのに』を観たのはもう2ヶ月も前で、この『猫は逃げた』もその後すぐ公開されていたのになんか時間が合わず新宿武蔵野館を何度素通りしたことか。kikiさんの最終上映でやっと滑り込めました。
どんなお話かというと、ざっくり「倦怠夫婦もの」でしょうか。若い夫婦なのであんまりウディ・アレン的な感じとも違うんですけど、まあとにかく「離婚届押印待ち」みたいな夫婦と、ふたりをかろうじて繋いでいる猫のカンタ。加えて、それぞれの不倫相手。4人の男女と猫1匹の群像劇でございます。
子を持たない夫婦の「かすがい」となっている猫カンタが本作すごく大きな役割を担っており、一般的な映画における「猫」よりはだいぶ主演度が高め。あれ、これ人間が主役だと思ってたけどもしかして猫映画??と途中から思うようになりました。実際テンポ感もかなり猫で、不貞行為こそ始終しているものの、展開としては大した起伏もなくゆるっと進んでいくわけです。
ただ、ゆるゆるっとじわじわっと積み重ねていった先には「今泉印」な大団円の修羅場がしっかり用意されておりまして、まさに『街の上で』ラストの交差点みたいな肩震わせ感が幸せなのでした。「泥棒猫が猫泥棒」って言いたいだけの映画なんでしょ!と思わなくもない。
もちろん本作の脚本は今泉監督ではなく城定監督なので、意図的に「当て書き」された「今泉印、風」。インタビューによれば、以下のような経緯があったとか。
城定:『猫は逃げた』のラスト近くのシーンも、今泉さん、こういうのいつもやるだろうからと、5ページぐらいかけて一生懸命書いたんですが、観たら10ページぐらいのシーンになってた(笑)。
今泉:城定さんは、今泉映画によくある長回しで撮るだろうなと山場を書いてくれたんです。
城定:そう。山場を書いたらちょっと足りなかったという(笑)。
今泉:結果、倍ぐらいになってた(笑)。
城定:これだけ書けば十分だろと思ってたんですけどね。足りなかった。
(L/R15『愛なのに』『猫は逃げた』城定秀夫×今泉力哉 自分が書いた脚本が変わっていく面白さ【Director’s Interview Vol.195】(CINEMORE) - Yahoo!ニュース)
「ハリボーじゃなくてコンペイトウだった」とか、他にもいろいろ面白いエピソードが語られていました。なるほど、あのシーンは本来コンペイトウが降ってくるはずだったのねと(笑)
倦怠夫婦ものといえば先日ブルース・ウィリスの『ストーリー・オブ・ラブ(1999)』を観ましたが、倦怠しているにも関わらずの、倦怠しているからこそ?の胸キュン感は通じるところがありました。山本奈衣瑠さん演じる亜子がマッサージを受けながら一瞬涙ぐむシーンや(カットの切り替わる寸前なのがにくい!)、カラオケでの表情など、のちの展開を納得させてくれるディテールがとてもよかったです。
あと、一度そういう関係になってしまった男女の間柄といいますか、ああいう感じが個人的に好きなので終盤の展開はすごく爽やかでした。これからあの4人は案外仲良くやっていきそう。わたしは手島実優さん演じる真実子推しです。楽しい人生を送ってほしい。
ひとつ惜しい点を挙げるとすれば、この企画が「R15+」縛りだったことでしょうか。『愛なのに』は濡れ場あってこその面白さだったのでむしろいいんですけど、こちらは絡み無しでも十分いけただろうなあと思って。不倫の話とはいえ全体的にのどかな猫テンポが心地よかったこの映画、お茶の間で観れないのはちょっともったいないなと、思いました。それと、ジェンダー論とかのぶっ込みが取って付けたように感じなくもなかった。
まあそれはそれとして、劇場公開してるうちに両方観れてよかったし、この交換スタイルはぜひもっといろんな組み合わせでやってほしいです。おもしろかったです。
(2022年86本目/劇場鑑賞)