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ここ最近の鑑賞映画まとめて感想③|「梅切らぬバカ」他、いつぞやのチュプキ編

3週間前くらいのチュプキ鑑賞メモを超絶遅延で書きます(下書きに眠らせすぎました)。『梅切らぬバカ』『普通に死ぬ 〜いのちの自立〜』『人生フルーツ』の3本です。


「梅切らぬバカ(2021)」

自閉症の息子と、自身も老いてきたなか二人暮らしで介護の日々を送る母親の物語。自閉症の中年男性「忠さん」をドランクドラゴン塚地武雅さんが、温かくもシャキッと辛辣な母親を加賀まりこさん(なんと54年ぶりの主演作だとか…!)が演じます。

かつて監督は同様の題材を扱ったドキュメンタリー映画に関わっており、その作品の中で描けなかったことを劇映画であれば描けるのでは?という想いでこの映画を作られたのだそう。そこそこヒリついた出来事も起こりつつ、お涙頂戴的ドラマチック展開は避けた77分のコンパクトさが好印象です。

なお加賀まりこさんは(これはキャスティング後に知ったことなのだそうですが)パートナーの方のお子様が自閉症であるらしく、図らずも当事者キャスティングとなっています。脚本にもだいぶ関わられたとのこと。手放しに感動や笑いで消費できないテーマの作品なので、そういった話を聞くと安心できます。

チュプキにておこなわれた監督アフタートークの撮影とレポート、担当しました。ここには書きませんでしたが、あの「梅」は美術さん渾身の作品である、なんていう裏話も!

「普通に死ぬ 〜いのちの自立〜(2020)」

普通に生きる(2011)』の続編、だそうです。前作は未見。重度の障碍を持った人たちが、生まれ育った地でどれほど普通に生き、普通に死んでいけるかという、家族や福祉の葛藤と奔走を記録したドキュメンタリー。

これはわたし、感想なんて書けないなと思ってしまったのが一番の感想でした。この映画に出てくる重度の障碍者を偏見の目なく見ることは正直言って難しくて、映し出される状況に気持ちが馴染んでくるまで一時間はかかって。まず「普通に見る」ことができない。そんな自分が嫌だし、でもある程度仕方ない反応なのではと思わなくもないし。なのでこの作品に関しては、内容にどうこう言える段階じゃないなと。気持ちの準備ができた状態でもう一度観たらまただいぶ変わってきそうですが。

連想したのは少し前に観た『帆花(2021)』。今思うとあの映画はかなり「見やすい」作りになっていたのかもしれません。あとはこれあんま大きな声では言えないですけど、本作であっけなく亡くなっていく方たちを見ると、ああそういうことなのかなあと重い気持ちにもなったりしました。

「人生フルーツ(2016)」

90歳くらいの老夫婦を捉えたドキュメンタリー。畑仕事をしているようなシーンから始まるので、まあそういう豊かな暮らしのやつねと少し斜に構えながら見始めたのですが、これがどっこいなかなかインテリジェンスでちょっとハイカラで、えっすご、って感じでした。

じつはご主人さんのほうは、数々の都市計画に携わってきた敏腕の建築家さん。それが一線を退いて丁寧な暮らしをしてるわけなんですけど、能ある鷹が爪を隠してる感がものすごくて。あらゆるところから溢れ出るの。英語とか、イラストとか。いわゆる「おじいちゃん」では全くないの。奥さんのほうも几帳面で、終盤の箱詰めのシーンとか感動してしまった。全てにおいて整理整頓の行き届いた生活、もとい人生。は〜。

こんな人間でありたい、こんな歳の重ね方をしたい、誰もがきっとそう思うだろうし、でも同時に「もう手遅れだわ」とも思ってしまうであろう(笑)、いろんな意味で深いため息のドキュメンタリーでした。

(2022年72〜74本目/劇場鑑賞)