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主に映画の感想文を書いています

アトロクのスタジオへ行ってしまった話 〜TBS潜入の記録〜

前回の記事にて、映画『ピアノ-ウクライナの尊厳を守る闘い-(2015)』に関連して、ウクライナ難民支援上映のことでシネマ・チュプキ・タバタ代表・平塚千穂子さんがアトロクに出ますよ〜なんてお知らせを他人事のようにしていたのですが、すみません、じつは同行させてもらっていました。



チュプキとの出会いはほんの1年少し前。アトロクことTBSラジオアフター6ジャンクション」の音声ガイド特集を聴いたことから興味を持って、調べていくうちに辿り着いた映画館でした(その特集で直接紹介されていたわけではありません)。

コロナ禍で何かしたい気持ちが高まっていたこともあり、およそ自分らしからぬ積極性を出して飛び込んでみたところ温かく迎え入れてくださって、いろいろお手伝いさせていただくなかで大林宣彦監督作品『海辺の映画館-キネマの玉手箱(2020)』の音声ガイドを書くことに。

何を隠そう、大林宣彦監督との出会いもアトロクでした。それまで1本も観たことがなかったのに、亡くなられる前後の特集を聴いて一気にのめり込み、40作品以上を観るほどのフリークと化します。アトロクきっかけで興味を持った二つのもの「大林宣彦×音声ガイド」の合体は奇跡でした。そのことをアトロクに送ったら宇多丸さんに読んでもらえたりもしました。

そんなわけでチュプキ平塚さんからは「宇多丸さんは私たちのキューピッドだねえ」といつも言われていたのですが、まさかキューピッドに直接会いに行ける日が、こんなに早く来るなんて。番組出演オファーを受けた平塚さんから同行のお誘いをいただき即答したはいいものの、緊張で胃酸の逆流しそうな日々が続くことになるのでした。

以上を前置きといたしまして、ううんまあ、書くか少し迷ったのですけども、わたしは書かねばならぬ人なのでこの記憶も文章化しておくことにします。TBSラジオ潜入記、生暖かくお読みいただければ幸いです。

そもそもアトロクとは何ぞやという方へ

アトロクの魅力をまとめた記事、書いてますのでご参照ください。ここから1年と数ヶ月で、こんなことになってしまうとは……。

TBSラジオ潜入の記録 〜2022春〜

仕事を早退した。というか、1時間半前倒しで出勤して、1時間半早く退勤した。なるべく平常心を保ちながら小田急線に乗る。Spotifyで数日前のアトロクを聴く。気持ち悪くなってきたので再生を止め、イヤホンを外す。

赤坂は夜の5時。サヨナラSunshine、そうツイートして天を仰ぐ。やたら文化的な匂いのする駅構内を抜け、エスカレーターを上がりきるとTBS放送センターがずどんと立っていた。いつかBLITZに来たことはあるけどこっちは見向きもしなかった、そういえば。

17時半、平塚さんと合流する。18時過ぎにお越しください、とのことらしいのでBizタワーのおしゃれなカフェで軽くお茶をする。水ぐらいしか喉を通らない、と言いつつ奢ってもらったグレープフルーツジュースは、しかしストローを2回も吸えば飲み切れてしまう量だった。某作品の上映が決まったよ!とチュプキの作品選定について教えてもらったが、やや上の空だったことは否めない。

18時。radikoをつけてみる。いつものようにアトロクが始まる。わたしはまだ外にいる。平塚さんが出演するコーナーは18時半からなのだが、この時間にゲストがまだTBS入りしていないことに驚いた。そんなものなのか。

18時5分過ぎ、正面玄関からTBS放送センターへ入る。消毒用アルコールで人知れずびっしょびしょになる。受付で平塚さんが入館証を受け取る。「9階、第6スタジオへお上がりください」の声が聞こえてきた。TBSラジオ第6スタジオから生放送でお送りしているアフター6ジャンクション、第6スタジオ……第6スタジオ……、頭の中で第6スタジオがこだました。来てしまった。早くも憔悴しきったわたしを見て平塚さんが笑う。

一流企業のエレベーターは瞬く間に9階へ到着した。開局70周年記念の巨大寄せ書きがエレベーターホールの壁にあった。帰りに落ち着いて見よう。ふと気付くと、フロアには生放送中のアトロクが流れている。親の声より聴き慣れた宇多丸さんと日比麻音子アナウンサーの声、なぜかいきなり遠い世界の声に思える。

第6スタジオを探して少しうろちょろしていると、構成作家古川耕さんが出迎えてくださった。チュプキのサポーターもしてくださっている古川さんとは以前シティライツ(チュプキの運営母体)のML上でやりとりさせていただいたことがあり、まったくの初めましてでは、一応ない。とはいえ直接お会いするのは初めてである。いや、これも厳密には違う。

昨年12月のユニバーサル上映会にて、わたしがお手伝いをしていた物販コーナーに「99.9%古川さんであろう黒ハットの方」が立ち寄り、チュプキのオリジナルTシャツを買っていかれた、ということがあったのだ。0.1%を埋める自信がなく、お声掛けができなかった。ニューヨークステイトオブマインドをご存知ですか、の一声が掛けられなかった。しかしその後、古川さんがいらしていたと聞いてああやはり!と後悔したのだった。

さておき、古川さんと念願のご挨拶およびTシャツの件の認識合わせをさせていただいてから、導かれるまま第6スタジオがあるらしきエリアへ。憧れの場所はあっけなく現れる。気付けばそこに「アフター6ジャンクション生放送中の第6スタジオ」があった。

感染対策で開け放されたスタジオからは、宇多丸さんと日比さんの声が漏れ聞こえる。ふと見ると足元には真っ赤なムービーガチャマシーンが雑然と置かれている。もう20年近く前になるが、六本木のテレビ朝日までMステの観覧に行ったことを思い出した。当時毎週観ていたMステのスタジオは思いのほか狭く、ミカン箱のような印象を受けた。「裏側」のギャップに惹かれた。今もやはり、この雑然に興奮している。

興奮を隠しながら、前室的スペースにて出演直前の打ち合わせに同席。アトロクの台本を初めて見る。想像以上に細かく書いてある。宇多丸さんがよく冗談めかして言う「一字一句台本通りに〜」はあながち冗談でもないのかもしれない。

時間は結構差し迫っているのだが、落ち着いた調子で打ち合わせは進められていく(もちろん事前打ち合わせは済んでいる)。ウクライナ難民支援上映のプログラムを台本上は全作品紹介することになっているけれど実際はどの順番で紹介するか、尺が足りなくなった場合はどこをどんなふうに削るか。宇多丸さんと日比さんには事前にこの作品観てもらっていますので--、そういったことを詰めていく。わたしはといえば、OKB48プロデューサー古川さんのお気に入り赤ペンはさすがおしゃれだ、などと思いながら向かいの手元を見ていた。

いよいよ平塚さんの出演時間。CM中にスタジオ入りし、そこで初めて出演者同士が挨拶を交わす。なるほど、こんな感じなのか。古川さんは構成作家の席に陣取り、アクリルパーテーション越しに宇多丸さん、日比さん、古川さん、平塚さんの4人が着席した。

一応の名目上わたしは記録用の写真撮影担当として同行させてもらったのだが、いわゆる「サブ」、つまり卓とかがあってキューを出したりしているところに僭越ながら入らせていただけることに。サブは想像していたより広く、想像していたより機材に溢れていた。どこにいても邪魔になる気しかしなかったが、いろんなことを噛み締めながらありがたく撮影させていただいた。

スタジオの中では平塚さんの正面に古川さんが座り、時折カンペなどを出しながらトークを誘導していく。普段リスナーとして聴いているときも古川さんの声がたびたび聞こえていたので「そこにいる」ことは想像できたのだが、実際に見てみると無音のアシストがすごかった。

事前打ち合わせで決めた通り、トークの盛り上がりに応じて台本の進行を取捨していく。それを身振り手振りで必死に伝える。パーテーションがあるため宇多丸さんや平塚さんが古川さんのサインに気付かないこともあり、斜向かいの日比さんがサポートしたり、遅れて気付いた宇多丸さんが「ごめん!」と手を合わせたり、放送を聴いているだけではわからない「時間との戦い」がそこにはあった。

また、サブのほうでもさまざまなキュー出しが飛び交っておりとにかく格好良い。ディレクター(おそらく長谷川さん)の指パッチン、本当にあるんだと見惚れる。BGMに肩を揺らしていたり、トークの笑いどころではガヤのような笑いが沸いたり、楽器でも演奏するかのように卓と向き合いながら合間では番組のツイートもされていたり。極め付けに、20時台ゲストのしまおまほさんがこんちは〜と現れ、去っていった。生の現場に圧倒された。

あっという間に、しかし濃密な出演時間20分が終わった。お礼を言ってサブをあとにする。本当に、本当に熱烈ヘビーリスナーなので、スタッフさんたちにこの気持ちを伝えられないのがもどかしい。プロに向かって応援してますも頑張ってくださいも変だし、いつも聴いてます、大ファンです、としか言えなかった。何より生放送中にそんなエゴでお邪魔はできない。

隙間時間で記念写真を撮らせていただけるということで、前室的スペースにて少し待機。日比さんが猛ダッシュでスタジオを抜け、消えていった。聴いている以上に、生放送の現場は息つく暇がないようだ。そんなときに貴重なお時間いただいて記念写真など、いいのだろうか……とますます恐縮する。

ところで、ふと気付く。すぐそこ、パーテーションで区切られた狭い角っちょに誰かいる。消去法で、しまおさんしかいない。なんかガサゴソしてるし。絶対しまおさんだ。てことは、そこが「二八スタジオ」なのか。びっくりした。ものすごい狭い。やっぱりラジオって好きだ。想像力でいくらでも豊かさを生み出せるメディアだ。

さて、恐怖のご対面時間となった。古川さん曰く、以前読んでいただいた『海辺の映画館』音声ガイドのメールを宇多丸さんも日比さんも覚えてくれているとのこと。その前提で、縮こまりながらスタジオに入った。一言二言交わしたような、気がする。すみません、全く記憶がない。いかんせん生放送中だしご迷惑はおかけしたくないという気持ちが全てを上回り、多分ほとんど何も言えていない。でも宇多丸さんが「オフ」モードな、静かな優しいお声だったのは覚えてる。帰り際に大きく両手を振ってくれたので、小さく両手で振り返した。

日比さんに何かちゃんとしたことを言えなかったのも後悔している。宇多丸チルドレンとして宇多丸さんへのひときわ熱い思いを持ってここに来たのは間違いないが、アトロクファンとして曜日パートナー5名への熱い思いもまた同じくらい持っているのである。日比さんがたまに「アフター!」してくれた日にゃお赤飯なのである。お手紙でも書いてくればよかった、今になって思い付いて、肩を落とす。日比さん、これからもどうか健康第一で。応援してます。

19時台ライブ&ダイレクトで全身グルーヴする窓の向こうの宇多丸さんを横目に、二八スタジオで引き続きガサゴソしているしまおさんを横目に、古川さんにお見送りいただいて再びエレベーターホールへ。寄せ書きパネルは大きすぎてうまく撮れない。頭が正常じゃないのでじっくり眺めることもできない。もうなんでもいいやとふらふらしながら、古川さんとお別れし、エレベーターのドアが閉じた瞬間「はいお疲れ様でした」と平塚さんに労われる。逆。

せっかくなので赤坂でご飯食べていこう、ということになるも、うどんくらいしか食える気がしないのでBizタワーのうどんをご馳走になった。赤坂は夜の8時。しばらくクールダウンして、平塚さんともお別れし帰路に。タイムフリーで今日のアトロクを頭から聴く。ああ、あそこにいたのか。変な気分だ。

〜おしまい〜

TBS放送センター9階。壁一面を覆い尽くす、大きな寄せ書きパネル。白地で、真ん中に大きな「TBS RADIO」の青文字。右上にはアトロク出演者エリアあり。
TBS放送センター9階、大きすぎる寄せ書きパネル。右上にアトロク出演者エリアあり。


はい、ということで長い長いTBSラジオ潜入記でございました。やっぱりこうなる、わたしの文章。ちなみに、この日サブから撮らせていただいていた写真がこちらです。

そしてあらためて、シネマ・チュプキ・タバタでは5/1(日)から「ウクライナ難民支援上映」が始まります。アトロク内でも話されていた通り、お客様が来ないと1円も寄付ができないということになってしまうこの企画。ぜひお近くの方は足をお運びいただければ幸いです。と言いつつ矛盾するようですが、全20席の非常に小さな映画館ですのでご来館の際は事前予約をおすすめいたします。