353log

主に映画の感想文を書いています

映画「SING/シング:ネクストステージ(2021)」吹替版感想|坂本真綾と稲葉浩志の世界線が交わっただけで満足

2016年公開『SING/シング』の続編にあたるSING/シングネクストステージ』を日本語吹き替え版で観てきました。『怪盗グルー』シリーズなどのイルミネーションによるCGアニメーション作品です。

前作に引き続きマイスイート坂本真綾さんがメインキャラクター・ロジータの吹き替えをしておりますが、彼女の声優仕事を追っているわけではないわたしとしては(少なくとも吹き替え版は)スルーの可能性も高い作品でした。ただ、事件が起きます。稲葉浩志(B'z)声優デビュー」なんじゃそら!

わたしの坂本真綾ファン歴は10数年、B'zファン歴は20年強。しかしこれまで交差することのなかった世界線*1ハッシュタグで#坂本真綾と#稲葉浩志が並ぶことなんて今後あるか?!ねえな!!ってなわけで記念鑑賞です。なお公開日は夜から大雨。坂本真綾さんも稲葉浩志さんも生粋の雨女雨男。何度ライブでカッパを着たことか。そりゃそうなりますわな。


映画「SING/シング:ネクストステージ」ポスター
映画「SING/シングネクストステージ」ポスター


さて本作、続きものではありますが特別置いていかれるようなこともないので前作未見でも大丈夫です。前作で絆のできた仲間たちが、今作ではより大舞台に挑戦する。でも障壁だらけで一体どうなっちゃうの〜〜〜、っていうごくありふれたストーリーです。

どちらかというと今作はお話自体よりも、目の前に広がる映像世界やキャラクターたちの魅力を楽しむほうに重点が置かれているかもしれません。未来都市のごとく煌びやかな「レッド・ショア・シティ」、エンタテインメントの限りを尽くしたSFミュージカルの舞台セットと演出、絵面だけで笑いが込み上げてきてしまう全年齢対応型コメディ描写。イルミネーションすげえなと唸らされました。モップがけしてるだけで客席の子供たちがクスクスクスクス止まらなくなるのよ。完全に掌握してるじゃん。

冒頭まずブチ上がったのは、マイスイート坂本真綾さんが声を当てているピンクのブタさん「ロジータ」の歌声から映画が幕を開けること。前作はすっかり記憶が薄れてしまってるのですが多分いや確実に今作のほうが坂本さんフィーチャーされてます。歌手・坂本真綾ファンは絶対に映画館で観たほうがいい。幸せになるから。どうだ子供たちよこれが坂本真綾だ! 以後お見知り置きを!


声優・坂本真綾のずるい魅力って、「坂本真綾の声」をクライアントに求められてるとこだと思うんですよね。七色の声じゃないの。わりといつでも「坂本真綾の声」なの。今作でも特にロジータが「舞台上で演技」してるシーンなんかは完全に坂本真綾そのもので。星々を巡って航星日誌を記録するとこなんて至高でした。ああ坂本真綾の声好き。坂本真綾の声ほんと好き。

はい。そしてもうひとつ、稲葉浩志さんですね。現在57歳にして初の声優チャレンジというビッグニュース。観測範囲ではファンのなかでも反応は両極端だったかなという感じですが、わたしは単純にすごく嬉しい、楽しみ、と思っていました。「坂本真綾稲葉浩志が同じ世界線に?!」ってのがまずありますし、前作『SING/シング』の日本語吹き替え版が蔦谷好位置さんプロデュースでかなり作り込まれているらしいと評判を聞いていたことによる「巻き込み事故案件ではない安心感」もあります。なお今作も同じ布陣です。


日本語吹き替え版プロデューサー蔦谷好位置さんと日本語歌詞監修いしわたり淳治さんのインタビュー。


稲葉さんが声を当てているのは、今作のゲストキャラクターにあたる「クレイ・キャロウェイ」。表舞台から姿を消した伝説のロックシンガー役で、オリジナル版ではU2のボノが声を当てています(で、U2の曲を歌うわけです)。

先に書いておくと、声優・稲葉浩志が適役だったかどうかは正直微妙なところです。クレイのビジュアルはどっしりと体格のいいライオン。稲葉さんも通常よりかなりしゃがれた低めの声色を作っていて悪くはないのですが、あのライオンの図体から発される声としては細いのか高いのか、なんかしっくりこないなという印象を受けました。そのへんはやはり本職声優さんのほうがもっとビジュアル寄りなキャラ付けはできたでしょうね(最新いっこ前の本予告で本職声優さん版のクレイが聴けます)。

ただ。本職声優さんにもできないかもしれないキャラ付けがあるとすれば、それは「伝説のロックスター」というところ。もちろん稲葉さんは、っていうかB'zは常に最先端から加速し続けている超現役ミュージシャンですが、メディア露出度が低いことから世間一般的にはある程度の「神秘性」がある「ロックスター」なのではないかと、ファンなりの客観視として、思います。さらに、その神秘性の向こう側を知っているファンからしても今回の声優起用は未知のこと。半信半疑な感情が伴います。

その点からするとクレイの役どころに「稲葉浩志」をあてるのは非常に適役と感じました。「あの人が本当に出てくるの?」「あの人が本当に歌うの?」「あの声が本当に聴けるの?」——観客のそういった戸惑いと期待に真っ向から応えられる唯一無二の歌声、映画館の観客が「クリスタル・タワー・シアターの観客」と同じ興奮を味わえる特徴的な歌声、それは、B'z稲葉浩志の歌声、しかなかった、と言っていい、と思う!(主観客観あっちこっち)

多分ね、これボノの歌声でも物語的に感動は当然できるんですけど、日本人的にはあそこで「稲葉浩志の声」がくることによる「うわあ(どっちの意味だとしてもね)」のほうが勝ると思うんですよ。エモーションのローカライズってことですね。まあ今回「クレイ=稲葉浩志」を表舞台に出してしまったので今後二度と同じ映画体験はできないんですが、その貴重な一回がこの作品でよかったです。クレイが出てくるたび子供たちがトイレに行きがちだったのは少々気になったけど。ライオンさん怖かったかな?

そんな感じで、とても楽しみました。鑑賞直後はあまりにも現実味のないコンテンツに「夢かな?」ってなりましたが、交わらないはずの世界線が交差していく体験はいつ何度してもよいものですね。また上記インタビュー記事によれば「自分の声で伝えられる可能性がまだあったのかと思えて、うれしかった」と稲葉さんが言っていたそうで、人生の可能性という大きなところでも希望をもらえた作品でした。ぜひ映画館でご覧ください。

(2022年43本目/劇場鑑賞)

*1:ちなみにキャスト発表直後に坂本真綾さんが更新したFCブログによれば、小中くらいの頃ファンクラブに入りたいほどB'zが好きだったらしく、「時を経てまさかこんなふうに接点ができるなんて」と大興奮されておりました。そんな話初めて聞いた。