気になっていた『サンダーバード55/GOGO』を観てきました。2015年にイギリスで作られた短編3本を軸に、この度『サンダーバード』日本上陸55周年を記念し樋口真嗣監督が日本版として再構成したものだそうです。経緯がちょっと複雑です。
『サンダーバード』は1965〜1966年に製作・放送されたイギリス発の特撮人形劇。1986年生まれのわたしも親の影響で幼いころよく観ていました。ただし今思えばごく限られたエピソードのみだったようで、覚えているのはとにかく「ファイアーフラッシュ号」と「高速エレベーターカー」、以上!という感じ。高速エレベーターカーが出てくるのは第1話っぽいのですが海底に沈んだファイアーフラッシュ号を4号が救助しに行くシーンの記憶もあるので、ファイアーフラッシュ号にまつわる2つのエピソードだけを繰り返していたのかも……。
さておき、幼少期にみっちり刷り込まれた「特撮」がわたしにとっては『サンダーバード』だったわけです。サンダーバードの特撮って質量感がものすごくてですね、実際使っていた模型もだいぶ大きいものだったようですがそれにしてもミニチュアという感じは全くしないような、2022年現在の目で見ても未だ超えるものはないのではというくらいの驚異的映像作品なんです。それにプラスしてスーパーマリオネーションと呼ばれるハイテク人形の、デフォルメされつつ妙にリアルな顔立ちから発せられる上流階級的言葉遣い 〜はいパパ!〜 がですね、なんとも唯一無二の魅力を醸していたのです。音楽も素晴らしく……等々語りたいことは尽きません。
で、本作はなんなのかというと、その1960年代当時の特撮技術を2015年に「完全再現」しようとした試みの作品なんですね。具体的には、当時レコードのみでリリースされていた音声ドラマを映像化しようという試みです。クラウドファンディングでファンから資金を募り、商業要素抜きで本当にそのまま「あの感じ」を再現しちゃおうというプロジェクトです。
そしてその産物を樋口真嗣監督が再編集した日本版はまず、簡単なメイキング映像から始まります。こんな最高にときめくものを最初に持ってくるなんてずるい。からの、期待高まる本編も当然ときめきの連続。メカたちの発進シーンなどはアーカイブ映像を使用しているのですが、それは単に「見慣れている」から分かるだけであって、撮り下ろされた映像の質感や人形たちの表情は半世紀前のそれと全く違いを感じさせません。ピント感やパン振りのカク付き、画面の暗さや独特な煙の色味までしっかり再現されていました。
お話自体はごく小さなもので、まあ元が音声ドラマですからどうしても会話劇の方向になるのでしょう、ペネロープとパーカー中心のストーリーになっています。ペネロープのオリジナル声優は黒柳徹子さんなのですけど、今回はかつて『トットてれび』で黒柳徹子役を演じたこともある満島ひかりさんにバトンタッチ。いや〜これが、良かった。お見事。ペネロープってこんな辛辣だったっけ、っていう(笑) 凸凹コンビのシュールなコメディを存分に楽しめました。日本版最大のイチオシポイントです。
途中途中にメカ図鑑的なものも挟みつつ、劇場版だと最後には『ネビュラ・75』という小品がオマケでついています。こちらは2020年代に入ってからロックダウン中のロンドンのアパートで撮影されたという、サンダーバードと同じスーパーマリオネーションの技術を使った特撮作品。サンダーバード以上にシュールなので、どちらかというとメイキングを見たかったかな。アパートでの撮影なんて絶対おもしろいじゃないですか。ていうかこれで終わらせようとしたの勇気ある。後味が微妙すぎる。
ここまでわりと熱量高めに書いてきちゃったのですが、元々がファンムービー的企画であることから、あくまでサンダーバードに思い入れのある人向けの作品であるとは思います。わたしは目を輝かせていましたが人によっては死んだ目になってしまう可能性も。サンダーバードを観たことがない方はまずオリジナルのテレビシリーズを観ていただいたほうがよいです。逆に「スクリーンであのオープニングを観れる、聴ける、それだけで胸アツ。」そう思える方であれば観て損なしです!
(2022年15本目/劇場鑑賞)
配信公開もされてます。劇場ではポストカードセットを貰えたのですが、3枚もあるのにわたしの好きな4号だけ描かれていなかったのがちょっと不満です。コンテナか?コンテナにおるんか?