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映画「竜とそばかすの姫(2021)」感想|ミュージックビデオとしては、かなりいい。

細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を観てきました。前作『未来のミライ(2018)』をそういえば観ていなかったので、『バケモノの子(2015)』ぶりの細田作品となります。

細田監督の作品というと、やはりなんといっても『サマーウォーズ(2009)』です。一般的にもジブリに次ぐ国民的アニメ映画のポジションでしょうし、当ブログでも何かにつけて「この感じはサマーウォーズのそれだ!」みたいなことを繰り返し言っているくらいわたし自身大好きな作品です。


『竜とそばかすの姫』の特報映像を初めて観たのは今年に入ってからなのですが、『サマーウォーズ』で舞台となっていた「インターネット上の仮想空間」がどうやら再び登場するらしいことにとても驚きました。それも「二番煎じ」と揶揄できないくらい大胆なセルフオマージュもしくは連作、言ってしまえば『サマーウォーズ2』くらいの開き直りで作っているように受け取れたので、期待値がグンと跳ね上がりました。

というのもわたし『サマーウォーズ』は公開当時に劇場鑑賞できていなくてですね、レンタル解禁直後くらいにソフトで観たんです。そしたら冒頭の仮想空間シーンで大興奮してしまって。こんなに楽しい映画を映画館で観なかったなんて、あたしゃバカか!!!と悔やみまくったのでした。

ただしその後は細田作品のテイストがあまり好みではなくなり、なんだかんだ細田作品を映画館で観るのは今回が初のようです。そうだったんだ(意外)。では以下、いくつかの項目に分けて雑感を書いていきます。

映画「竜とそばかすの姫」ポスター
映画「竜とそばかすの姫」ポスター


仮想世界、大満足。

サマーウォーズ』の〈OZ〉同様に、今作でもインターネット上の仮想世界〈U〉を紹介するイメージビデオ的なものから映画は幕を開けます。没入感を期待して前方の席で観たのですが、期待通りもしくはそれ以上でした。端的に言って、めっちゃわくわくする。これだよこれ、これを映画館で観たかったのだ10年ちょい前のわたしは。

2009年の時点で〈OZ〉をフラットデザイン的に作っていた先見の明が功を奏し、今作の〈U〉もルックスは〈OZ〉を踏襲。お馴染みのフキダシや、群れを成して浮遊するアバター、無機質な電脳空間的バーチャル建造物など、ああこれを大スクリーンで観れるの幸せ。IMAXで観たらもっとゾクゾクするだろうし、もしIMAX3Dなんてあったら大変なことになっちゃう。

そんなわけで、わたしの悔いはひとつ供養されたのでした。

歌要素、予想外に大満足。

本作には「歌」要素があると聞いていて、正直不安でした。マクロスとか好きな身で何を心配するんだって話ですが、大丈夫かな、うまくいくかな、こわいな、って感じだったんですよね。でもそこも無事クリア。というか身構える前にいきなり歌ぶっ込んできてくれたのがよかった!


常田大希さん率いるmillennium parade(『攻殻機動隊 SAC_2045』でも素晴らしい仕事をされてました)と中村佳穂さんのコラボによるメインテーマ曲『U』、めちゃめちゃかっこいいです。劇中ではもっと世界観に寄り添った聴こえ方になっており、仮想世界のグラフィックとあわせて脳汁全開でした。

最たる懸念事項だったかもしれない部分を最初に潰してもらえたのはすごくラッキーで、まあ物語全体として引っ掛かる部分は多々あったわけですが少なくとも音楽パートに関しては予想外に120%楽しめたと思います。



アナ雪デザイン歌姫、大満足。

上述の「歌」を披露するのは、ヒロインのアバター「ベル」。そのキャラクターデザインはなんと、『アナと雪の女王』シリーズなどディズニー作品を多く手掛けたことで知られるジン・キムさんという方が担当。

よってぶっちゃけ超ディズニーな絵柄になっているのですが(歌うもんだから尚更)、これもやはり揶揄できないレベルのことをやってきたなあと(笑) ディズニーっぽいけど、仕方ないじゃんディズニーなんだから、みたいな。『アナ雪2』が猛烈ストライクだったわたし的には、本作の「ベル」パートも総じてお気に入りとなってしまいました。仕方ない。

おおかみこどもの雨と雪(2012)』以降どうにも苦手だったケモノ要素もあの『美女と野獣』的世界の中に入ってしまえば意外と美味しくいただけたし、映像の周辺がノイジーになってるデジタルな演出とかもピンポイントに好きだったので、このあたりは肯定しかない感じです。タイバニみたいなやつも嫌いじゃない。

ちなみに、全っ然関係ないんですけど、ジン・キムさんという方、プロフィール見てびっくりしたんですけど、1986年の『赤ちゃん恐竜 ドゥーリー』っていう韓国のアニメシリーズがアニメーターでの初仕事らしいんですね。これ、韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』劇中にずっと出てくるアニメじゃん!! 実在の作品だったんだ!! コ・キルドン!!

以上、取り乱しでした。

だが物語、お前はだめだ。

ま、だめとまで言っちゃいけないかもしれないけれど。でもnot for me以上ではあると思う。ドラマパート、つまり仮想世界以外の「現実世界」を描いた部分。ここはねえ、なんか、細田作品の苦手な部分を凝縮したような感じで、イコール絶対的な作家性なんでしょうけど、しんどいものがありました。

特に終盤の、虐待絡みのアレは、端的に「要るかね、それ」っていう。何か描きたいことがあったのならもっとしっかり描くべきだし、山場めいた謎の大捕物演出のためにあんな中途半端な使い方をしちゃいかんでしょうと思います。そもそも、そもそもさ、2021年にもなって「そばかす」がどうこう、とかいうのもね……。

あと、もはやどうでもいいんだけど〈U〉のテクノロジーレベルに対してあのローテク極まりない特定方法はなんなの、ていうかすずあなた財布持ったの?!みたいなのもあるっちゃありましたね。ほんとにもう、どうでもよくてシラけてましたけど。

そんでもってエンドロールがこれまたテンポよろしくなくて。オープニングであそこまでアゲられるんだから最後も辛うじて「終わり良ければ」でねじ伏せられるくらいのポテンシャルがあるはずなのに、なんだってあんな地味なエンドロールにしたのでしょう。

いや多分ね、余韻を楽しむほうのエンドロールっていう位置付けだと思うんです。でもあいにく楽しめるような余韻はなかったので。ていうかその仮説も違うかな、エンドロール直前に「じゃあ、いくよ!」みたいなフリしてたもんね。あのテンションからあそこまで落とさないよね普通。意図がわからない……。モヤッとしたまま終わるよりは強引にでもねじ伏せてほしかったよ、わたしとしては。

総括

仮想世界的な意味での『サマーウォーズ2』を求める人には間違い無くおすすめです。音楽も映像も素晴らしく、ミュージックビデオ/イメージビデオとしては満足度120%の出来栄えです。細田監督におかれましては仮想世界オンリーの映画を、とことん〈OZ〉や〈U〉の世界観で突き進む作品をぜひ作っていただきたいです。VRコンテンツとかでもいいです。そこの部分は、かなり好きです。応援してます。

が、この先も超メジャー監督としてシネコンを占有できる影響力の映画を作り続けるのであれば、もうちょっとノイズの少ない脚本にして欲しいなと思っちゃいます。

はみ出し雑感

  • 「昔の話」でiPhoneGaragebandがある世代の物語、か……。そう考えると思った以上に世代差があるので、理解できない部分があっても仕方ないのかもな、なんて思いつつ、いやいやいや騙されるな書いてるのは50代男性だぞ。

  • でも、幼少期からiPhoneGaragebandがあったらすごいよね。そりゃ新世代のアーティストが才能ぶっ飛んでるわけだわ。などと妙に納得したり。

  • 合唱曲で『心の瞳』がちょっと出てきましたね。わたしあれ中学の頃歌ったことあって。合唱祭で使う譜面の表紙に絵を描いたなあ。カシオペアの『Eyes of the Mind』のジャケを描いたなあ。今思うと嫌がらせのような表紙だった。

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  • 体育館のドラムセット、ハイハットにペダルがなかった気がする。そういうところを雑にしてはいけない(警察が来るから)。

  • 巨大なクジラが出てきて、ヒロインが『時かけ』的飛翔少女のポージングを決めて──などなど、細田作品って「作風」「作家性」「署名」といったものが思った以上に打ち出されてるんだなと今更ながら驚いた。声優へのディレクションも同じだものね。好みは別として、それ自体はすごくいいことだと思います。


(2021年117本目/劇場鑑賞)

追記:宇多丸さんのムービーウォッチメン('21.07.30)によれば、本作を理解する上で「歌詞の内容がかなり重要」であるそうな。なるほどなあ、歌詞は全く意識できていなかった。とすると、歌詞にまで字幕が付いているであろう海外で本作が高く評価されている(らしい)ことも頷ける気がする。