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主に映画の感想文を書いています

映画「へんしんっ!(2020)」感想|身構えるものじゃなくて単純に面白いドキュメンタリー!

映画「へんしんっ!」ポスター「しょうがい者の表現活動の可能性」をテーマとしたドキュメンタリー映画『へんしんっ!』を観てきました。

自身も電動車椅子を使って生活する石田智哉監督が大学の卒業課題として制作した作品で、自主映画のコンペティションである「第42回ぴあフィルムフェスティバル『PFFアワード2020』」ではグランプリを獲得。6/19(土)よりポレポレ東中野シネマ・チュプキ・タバタを皮切りに一般上映が始まっています。

今回まったく予備知識がないままでの鑑賞となり、もしかすると感想に困ってしまうような「変な映画」なのかな?と少し身構えていたのですけども、蓋を開けてみれば単純にとても良質のドキュメンタリーで逆に驚きました。劇場公開が始まったばかりで言うのもなんですが、NHKなどでテレビ放映してくれたらかなり反響を呼ぶのではないかなと思います。

立教大学現代心理学部映像身体学科に在学中(当時)の監督は、「しょうがい」と「表現活動」をテーマにドキュメンタリー映画の制作を始めます。取材のため、視覚や聴覚にしょうがいを持つパフォーマー、しょうがい者や高齢者と活動を共にするパフォーマー、医療・福祉に携わる人たち、手話通訳者、共に映画制作をする学友など様々な人のもとを訪れる前半はただただ興味深さ満点です。

しかし、いまひとつ作品の方向性が定まらないと悩む監督。しょうがい者である自分が作る「しょうがい者の表現活動の可能性」を探る作品、果たしてこれでいいのだろうか。取材がてらそんな相談もしていたところに、ひとつの提案が舞い込みます。急転直下、あれよあれよと巻き込まれていく監督。「へんしん」って、その「へんしん」だったのか!

淡々としたドキュメンタリー的映像世界から突如浮き上がるように映画的メタモルフォーゼを遂げていくラストは、監督自身まさかこんなことになるとは思いもしなかったであろう、まさしく「表現活動の可能性」そのもの。おそらくは監督同様こちらも少なからず戸惑いつつ、とっても面白かったです。

ちょっと「変な映画」っぽく書いてしまいましたが全然そんな奇抜な作品ではないので(ここは強調しておきたい)、身構えずにぜひご覧いただけたらと思います。雑感あれこれは例によって箇条書きしておきます。おすすめっ!です。


はみ出し雑感

  • 観始めた時点では、登場する石田監督はじめしょうがいを持つ人たちのことを「しょうがい者」として、特別な存在として見てしまっていたのだが、観進めていくうちにいつしか普通の人としか思わなくなっていたかもしれない。先入観による壁は大きい。

  • 監督が「バリア」という言葉を何度も使っており、ついひとつの単語として捉えがちな「バリアフリー」という言葉の意味を再認識できたように感じた。バリアが、壁がなくなる、それがバリアフリーなんだ。

  • 視覚しょうがい者にとっての「杖」は「眼球」である。だから誘導のときに杖は触らないようにね、という話が非常に印象的だった。正直、考えたこともなかった。そうか確かに、言われてみれば、眼球なんだ……。でも言われなかったら、杖は杖としか思えなかったかもしれない。相互理解は大事。

  • 自分の持つしょうがいのことを人に知ってもらいたかったら、他のしょうがいのことも知っていかないといけない。そんな旨のことを全盲の美月めぐみさんが言っておられたが、その少しあとで美月さんがろう者の野﨑静枝さんと対面する際に手話で自己紹介をされており、すごく感動した。

  • 目の見えない人、耳の聞こえない人、肢体が不自由な人、いわゆる健常な人、日本語を発声して話す人、手話で話す人、手話を日本語に通訳する人、しょうがいのあるなしに関わらず表現活動に長けた人、様々な人たちが一堂に会して話し合う終盤のシーンがなんだかすごく好き。全員日本人だけど、まるで多国籍な集まりのように見える。かっこいい。

  • シネマチュプキのロビーで美月さんが言う「正直ウザっ!て思う」のシーンも大好き。〈「見(けん)」っていう字では確かに「見れて」ないかもしれないけど「観(かん)」っていう字のほうでは「観て」るよ〉。わたしもこの字は意識的に使い分けているのですごく頷けるし、身が引き締まった。あの顔出しパネルは今もチュプキにあります(やりました)。

  • 保健室のシーンも好き。先生のファンになってしまった。あの保健室に通いたい。同年代のスタッフたちもほのぼのしててよい。などなど語りたいことは尽きず、なるほどこれはリピーター特典ゲットも容易いかも。


(2021年96本目/劇場鑑賞)

明日(6/23)放送のアトロクことTBSラジオアフター6ジャンクション」には本作出演の美月めぐみさん&鈴木橙輔さんがゲストで来られるとのこと! 放送までに観れてよかったです。

追記:放送されました。『へんしんっ!』の話も沢山あり、とても濃く楽しい特集でした。 なおポッドキャストでは放送内で紹介される「映画本編+音声ガイド」の部分がカットされています。残念…!

さらに追記:舞台挨拶

シネマチュプキにて、まさにアトロクご出演の美月めぐみさん&鈴木橙輔さんが登壇される舞台挨拶がありましたのでホイホイ行ってきました(ちなみにお二人は、チュプキの運営母体であるシティ・ライツの役員さんです)。

舞台挨拶の様子

小さい映画館ならではの展開というか、「みなさん順番に感想言ってもらいましょうか」というまさかの無茶振りに冷や汗。上にも書いた「様々な人たちが一堂に会して話し合う終盤のシーン」について、「アベンジャーズみたいで格好良かったです」と表現してみたところ喜んでいただけたのでよかったです(笑)

チュプキへ通うようになってから文章ではなく口頭で感想を伝えることが増えたので、なんとなく頭の違う部分を訓練しているような気がします。