横田めぐみさんの北朝鮮拉致事件について描いた映画『めぐみへの誓い』を観る機会がありました。
この件は少し前にもNHKのドキュメンタリー番組『アナザーストーリーズ』で「めぐみさん拉致事件 横田家の闘い」という回を観ていましたし、池上彰さんの著書『そうだったのか!朝鮮半島』で読んだことも記憶に新しいです。
上記のドキュメンタリーでは横田家の方々はじめ拉致被害者ご家族にスポットが当たっていましたが、本作は拉致後の横田めぐみさんや北朝鮮の工作員など想像して描くしかない部分を敢えて「映画」としてかたちにしています。
元々は演劇だったそうで、2010年ごろから自主的に上演されていたものが2014年以降は内閣府拉致対策本部の主催公演となり入場無料で全国各地を回っているとのことです。
こういった題材を演劇や映画などに落とし込むことについて、とても納得できる説明が公式サイトにありました。
拉致被害者奪還に演劇?と思うかも知れません。が、現実は違います。講演や集会では伝わらない思いが演劇では伝わります。家族が可哀そうとか、そんな酷いことがとか感じるのではなく、北朝鮮で戦い我々の助けを待っている被害者の方々に思いが馳せます。集会には来ない方々が劇場には足を運びます。「この演劇を映画化することでもっと多くの方々の心を動かせば、何かが変わるかも知れない。」それが我々製作委員会メンバーの思いです。(プロローグ - 映画「めぐみへの誓い」製作委員会)
これは全くその通りだなあと思います。どんなかたちであれまずは知ること、身近に感じること、興味を持つことが大事です。仮に本作で描かれる「めぐみさん」が限りなくフィクションであったとしても今後この問題を考える際に思い浮かべるのは劇中の生き生きとしためぐみさんなわけで、思い浮かべるものがないよりはあったほうがいいに決まってます。
また本作では横田めぐみさんだけではなく、大韓航空機爆破事件の実行犯・金賢姫(キム・ヒョンヒ)の日本語教育係として拉致された田口八重子さんも登場します。若き金賢姫を聡明な少女に描いているのが印象的で、熱心に日本語を教わっているこの子があの事件を起こすことになるのか……と非常に複雑な、悲しい気持ちになりました。
日本側、被害者家族側の目線としては、これは確か『アナザーストーリーズ』で聞いた話だったと思いますが、身元不明の死体が出るたびに警察まで確認をしに行かなければならなかったというこちらは完全な実話。映像化されたそれを見ると、よくぞ耐えてこられたなと思うほかありません。
北の仕業だと分かりさえすれば日本が助けに来てくれるんだからなんとかそれまで生き延びよう!と希望を捨てないめぐみさん。対して皮肉にも、あまりに「未解決」なラストシーン。突き刺さるような幕引き。これが幕引きであっては断じていけないのですけど、さしあたり何もできないのでとりあえず感想を書きました。
「北朝鮮拉致被害者ってまだ帰って来てないの?」
「もう無理じゃないの。」
ご存知の様に5人の拉致被害者が帰国してからもう18年の歳月が流れましたが、その後、一人の被害者も取り返すことが出来ていません。横田めぐみさんは拉致をされて今年で43年です。(プロローグ - 映画「めぐみへの誓い」製作委員会)
(2021年71本目)
横田めぐみさん役を演じている菜月(笠菜月)さん、素晴らしかったです。朝鮮語で主体思想を爛々と暗唱するシーンから始まり、どれもこれも記憶に残る姿ばかりでした。