短編映画「愛してるって言っておくね」「隔たる世界の2人」感想|第93回アカデミー賞短編アニメ賞・短編映画賞受賞作
第93回アカデミー賞にて「短編アニメ映画賞」「短編実写映画賞」に輝いた短編2作『愛してるって言っておくね』と『隔たる世界の2人』をNetflixで観ました。最近ちょっと映画観る時間がないのよね、と思っていたところにちょうどいいのが来てくれました。
約10分&約30分と非常に観やすいサイズですので先に簡単な紹介をして、その後にネタバレ込みの感想を書いていくことにします。
「愛してるって言っておくね(2020)」
子供を亡くした両親の心の動きを、素朴なタッチのアニメーションで描いた作品。製作総指揮にローラ・ダーン。12分。
「隔たる世界の2人(2020)」
NYを舞台にしたスタイリッシュなタイムループもの。主人公の若い黒人男性は、ただ家へ帰りたいだけなのにどうしても途中で警官に殺されてしまうのだった──。29分。
どちらもサクッと観れる作品ですが扱っているテーマは重いので、夜寝る前とかに観るのがいいかもしれないです。では以下、もう少し踏み込んだ感想を。なにせ短いもので、あまり書きすぎると映画体験を削いでしまいかねません。ご興味ありましたらまずNetflixでどうぞ。
「愛してるって言っておくね」ネタバレ感想
ほぼほぼ言葉のない、サイレントな手描きアニメーション。なるほど、どういうわけかは知らないがこの夫婦は娘さんを亡くしてしまったのだなということが読み取れる序盤。
心温まるレコードのシーンで終わりそうにも見えて、やや変則的にそこから回想へ突入していき、Xデーが近づいてくる。大きな星条旗の掲げられた学校。静まり返った校舎。鈍い銃声。悲鳴。そうか、銃乱射事件で……。
タイトルの「愛してるって言っておくね」は、おそらくは彼女が逃げ惑うなか、かろうじて打って電波に託したメールの文章。『エレファント(2003)』で見た光景、図書室の本棚の裏に隠れた彼女の姿、そんなものがリアルに思い浮かびました。
たかが12分、されど12分。「短編」の力を思い知らされる、つらい作品。
「隔たる世界の2人」ネタバレ感想
これはちょうどWOWOWのアカデミー賞(字幕版再放送)をつけたら受賞したところで、スピーチが印象的だった作品です。「今日、警官は3人殺すでしょう」から始まり、こう続きます。
今日 警官は3人殺すでしょう
明日も3人殺すでしょう
あさっても そうです
警察は毎日 平均3人を殺しています
1年で約1000人です
その内訳は黒人が不自然なほど多い
ジェームズ・ボールドウィンいわく
“最も恥ずべきは人の痛みへの無関心”
どうか無関心でいるのをやめてください
私たちの痛みから目を背けないで
(第93回アカデミー賞授与式より 監督トレイヴォン・フリーのスピーチ全文)
スピーチからも分かるように、この作品はまさにジョージ・フロイド事件をきっかけに作られたもの。タイムループものという体でなんとシニカルな表現をしたものかと驚かされました。
何をどうやっても白人警官に殺されてしまう主人公。負のループを断ち切るべくついに「対話」を試みて、越えられない壁はありつつも一応成功か!と思いきや……。そして、この悪夢は実話なのであるという強烈なエンドロール。
意外なことに作品自体のテイストは比較的ライトでポップでスタイリッシュで、もしもBLMのBも知らないような人が観たら普通に楽しめてしまいそうな仕上がりなのがすごかった(そうでなくとも、うっかり楽しんでしまいそうになった)。
考えるきっかけを作ってくれる、初めの一歩として非常に適した30分かもしれません。
(2021年68・69本目/Netflix)
第93回アカデミー賞の受賞作品そのほか
『プロミシング・ヤング・ウーマン』が早く観たいです。