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映画「JUNK HEAD(2021)」感想|制作期間7年! 内装業の傍らコツコツ作られた日本製ストップモーション長編アニメ

シャケナツミソス! 映画「JUNK HEAD」ポスターアップリンク吉祥寺にて映画『JUNK HEAD』を観てきました。じつに7年もの歳月をかけて制作されたストップモーション・アニメです。

監督の堀貴秀さんは内装業を生業とする傍ら、2009年末に完全独学で本作の制作を開始。2013年には30分尺の短編『JUNK HEAD 1』を完成させ、紆余曲折ありながらそこに70分を加えて100分尺の長編としたのが本作『JUNK HEAD』。追加分の制作には出資を受けつつ、それでもスタッフ数は平均3名、週7日無休で作り続けて3年を要したとのこと。

端的にめちゃくちゃすごかったんですが、きっかけから順を追って書いてゆきます。ところでポスターのメインビジュアル、EL&P『恐怖の頭脳改革』を連想して仕方ないんですよね。

BRAIN SALAD SURGERY

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「アトロク」と「JUNK HEAD」

ストップモーション・アニメといえば今まさに『PUI PUI モルカー』が異例の大ヒット。わたしが『モルカー』を知ったのは例によって「アフター6ジャンクションアトロク)」だったのですけど、アトロクでは以前からストップモーション・アニメを取り上げており、2019年時点で『モルカー』の見里朝希監督に注目、そしてさらにこの『JUNK HEAD(短編版)』も紹介しています。

この放送音声は「ラジオクラウド」にアーカイブとして残されていますのでご興味ある方は探してみてください。ちなみに宇多丸さんは『モルカー』の放送前イベントにも出演していました。

2019年の特集はストップモーション・アニメを応援しよう!という趣旨のものでしたが、2021年まさかの『モルカー』大ブレイク。それに『JUNK HEAD(長編版)』の公開も合わさり、あらためて華々しい凱旋特集が先日放送されました。今回は両監督が出演しています。ちなみにナビゲーターの伊藤有壱さんは『ニャッキ!』の生みの親!

そしてそしてさらに、2021年4月一発目の「ムービーウォッチメン」課題映画が満を持して『JUNK HEAD』に決定。宇多丸さん曰く「ヤバいのが来た」というこの映画を、そんなタイミングでわたしもようやく観ることになったのでした。

昔モルモットを飼っていたので『モルカー』はたいへん懐かしく拝見しました。モルモットって本当にプイプイ、いやブイブイ鳴くんです。一度飼ったら忘れられないブイブイです。

7年あっても作れる気がしない

ひとつの事にこつこつ取り組む才能がわたしには全くないもので、観る前は失礼ながらちょっと変わり者を見るような興味関心だったんですけども。しかし実際観てみると「7年あってもこんなの作れる気がしない」っていう畏怖のほうになりました。すごいですこれは本当に。はい。

特にすごいと思ったのはクオリティが100分間ずっと均一に見えることで。だって、2009年に作り始めて、おそらくは制作休止の期間もあっての2021年完成じゃないですか。独学でいちから始めたならなおのこと技術の向上も目覚ましいでしょうし、最初に作った30分を後から全部やり直したくなったりとか当然するんじゃないかと思うのですよね。

でもそんなことをしていたら永遠に完成しないかもしれないし、出資者がついて商業映画として作ることになった以上、ある程度は妥協しつつ「初期の画風」をベースに残りの70分を作らないといけなくて、クリエイターとしてもどかしい部分も多々あったんじゃないかなあと。

逆に言えばスタートの時点から先を見据えた綿密な設計と技術の確立に重点を置いていたとも考えられて、つまり「作品が古くならないための努力」「あとから後悔しないための努力」が最初の30分=4年間には詰まっているのですよねきっと。

あくまで勝手な推測に過ぎませんが、とにかくこの「100分」を「7年もの歳月(実際は10年以上)」をかけながら「均一に見えるクオリティで完成させた」ということにまず感服です。

モカワ・スチームパンクSF

ここまで一切書きませんでしたけど、ざっくりの物語っていうか世界観はスチームパンクSFです。蒸気機関、油汚れとゴーグル、地下施設、ディストピア、そんな感じです。

ただ、想像していたようなゴリゴリのやつじゃなくてキャラクターは意外とポップでめっちゃ可愛い! キモカワでグロだけどトータルでは愛らしい! デル・トロ監督が絶賛するのも大いに納得できます。

素晴らしい!! 狂った輝きを放ち、不滅の意志と想像力が宿っている──ギレルモ・デル・トロ映画『JUNK HEAD』 公式サイト

独特の日本語字幕(キャラクターたちは謎のクチャクチャしたキモカワ言語を喋る)が生むシュールなユルさもたまらなくて、これは昨年話題になった中国アニメ『羅小黒戦記(2019)』なんかのギャグ要素とも(それこそ『モルカー』とも)通じる万国共通な魅力だと思いました。

それでいて終盤ではハリウッド超大作的な感動とアクション(笑ってはしまうのだけど)も用意されていて、いくら監督が映画好きだからとはいえ初挑戦の映画制作でここまで「それっぽい」絵面を、それもミニチュアで、コマ撮りで表現できてしまうというのは尋常じゃない観察眼とアニメーター的作画力です。

Filmarksなどで「脚本があまり……」という感想を複数見かけましたが、個人的には制作過程を踏まえるとどうしても「動いてるだけでえらい」の思考になってしまい、ストーリーが云々というところまでは意識が回りませんでした。というか単純に好みだったのかもしれません。「クノコの旅」エピソードとか見てるだけで幸せでしたし(クノコ自体はサイアクだけど)、サイレント映画的な愉しみがあったんですよね。

それと、これはパンフレットを読んでいてはっとさせられた点、抜粋で引用しますけども──

「コマ撮りはただ1秒歩かせるだけでも何時間もかかる作業なので」「無駄な撮影をしないよう実際の撮影段階でほぼ編集が必要ないくらいの映像にする

そうか確かに、実写はとりあえず素材を沢山撮っておいて、編集に時間をかける。でもストップモーション・アニメの場合は撮影に途方もない手間がかかるから、逆の考え方になる。ほんの数秒を不採用にするだけでも苦渋の判断……。なるほど……。そう踏まえると尚更あの面白さは筆舌に尽くし難いと、わたしは思います。

とにもかくにも、観終わった直後の脳内は「めーーーっちゃすごかった……!!!」で埋め尽くされていた『JUNK HEAD』。これは『カメラを止めるな!(2017)』的な特大ヒットも十二分に有り得る作品だぞという予感。あえてあまり事細かには書いていないので、ぜひ劇場で楽しんでいただきたいです。

そして鑑賞後に手に取っていただきたいのが──

パンフレットがすごい

本作のパンフレットはですね、こちらも監督の自主制作となっておりまして、1,500円と映画パンフにしてはやや高めなのですが、フルカラー55ページ、何より中身の濃さが、エグい! パンフというよりは同人誌ですね。監督自身によるストップモーション・アニメのメイキング同人誌。

本作を観て「知りたい!」と思うのは何より制作の裏側だと思うのですけど、このパンフはその好奇心を完璧に満たしてくれます。撮影に使われたカメラとレンズ、コマ撮り用の専用機材たち、撮影をスムーズにするための電子工作、真鍮を切り出すところから始まる人形の骨格作り、メインのミニチュアセットをなめるように見れるグラビアetc...、もうとにかくたまらない。好きな人は絶対200%好きなやつです。

アップリンク吉祥寺ではサンプルがあったので鑑賞前にチラ見して、これは買うだろうなと思いつつ一応買わずにおいたのですが、鑑賞後はもう買わない選択肢がありませんでした(エンドロールがまた、絶対パンフ買いたくなる映像なんですよ)。

パンフを買うと続編ができる仕組みらしいので、劇場で観て最高じゃんってなった方はぜひ売店にもお立ち寄りください。劇場さんはサンプル出しておいたほうが絶対にこれ売れるのでぜひお願いします。

以上、『カメ止め』以来の使命感に駆られた激推しでございました。

(2021年54本目/劇場鑑賞)

ちなみに短編版『JUNK HEAD』はYouTubeで現在も観ることができます。長編版との違い(足されているシーンがある)を見つけたり、「顔だと思ったら尻」が無修正なことにショックを受けたり(笑)、劇場鑑賞後に見比べるのが個人的にはおすすめです。