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主に映画の感想文を書いています

坂本真綾 25周年記念LIVE「約束はいらない」レポート 〜言いたいことはいろいろあるけど〜

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2021年3月20日,21日に横浜アリーナで開催された坂本真綾の歌手デビュー25周年記念ライブへ行ってきました。とてもとても素晴らしい2日間だったのでしっかり記録に残しておきたいのですが、このとめどなく溢れ出る想いをそうそう一本のレポートに纏められるもんではないぞと怖気付いてもいる冒頭部です。

でもまあ、今しがた観た庵野監督の『プロフェッショナル』に比べればなんてことはないでしょう。とりあえず正攻法で順を追って書いていくことにして、出たとこ勝負でいきます。──とカタカタ打ち始めたのが22日夜。ようやく書きあがった今現在、25日夜。大変な分量になってしまった。

とりあえずレポート調に文体を変えて、ここから15,000文字ほどお付き合いいただければ幸いである。

会場のこと

アリーナ規模のライブは久しぶり。場外整理のメガホンすら懐かしく響く。2日目は台風のような荒天だったが初日は晴天だったのでちょっと歩くだけで知り合いに会えて、そうこれが生ライブよ、と懐かしさを覚えた。まずは会場のことを書いていこう。

コロナ禍・緊急事態宣言下でのライブということで、今回の観客数は上限5,000人。横浜アリーナのキャパは17,000人だから3分の1以下である。入場は時間指定の分散入場となり(終演後は規制退場)、COCOAアプリがチェックされ、サーモカメラを通過し、電子チケットをセルフでもぎり、両手のアルコール消毒まで済ませてようやく入れる。

座席は最低1席空けで、スタンド席は下半分のみ使用。空席には「私は今日あなたを幸せにするためここに来ました!」と坂本真綾から手書きのメッセージが貼ってあり、早くもこみ上げてくるものがあった。オープニングSEに『幸せ5』の気配がしたのは、5つどころではない幸せを追求したライブだったからだろうか。

公演中の発声は当然禁止だが、リストバンド型のフリフラ(消毒済とアナウンスあり。帰りに回収される。20周年の時と同モデル)と空席用の固定フリフラが用意されているため黙っていてもそれなりにビカビカ盛り上がってくれる。

ステージは両サイド(長径側)に花道を伸ばした円形センターステージ仕様で、どの席からも比較的等しい距離感で観ることができたはず。わたしは2日間ともアリーナ席下段(横アリでは所謂1階スタンド席部分をアリーナ席と呼ぶ)で、ステージ床面とほぼ同じ高さの目線からいい具合に全体を見渡せた。

バンドのこと

本編に入る前に、バンドメンバーに触れておきたい。

北川勝利(Band master & Guitar)
佐野康夫(Drums)
千ヶ崎 学(Bass)
奥田健介(Guitar)
扇谷研人(Keyboards)
毛利泰士(Percussion & Manipulator)
稲泉りん(Chorus)
高橋あず美(Chorus)

コーラスのお二方を除き、今回のバンドメンバーは2011年『You can't catch me』ツアーと同一だ。同年2月末から始まったこのツアーは3月11日の東日本大震災で中断を余儀なくされた(ただしその日キャラバンは福岡におり、状況がつかめないまま通常通りのライブが行われた)。

エンタメ全般の自粛ムードや節電などの観点からコンサートの類は軒並み息を潜めることになったが、そんななか坂本真綾は熟考を重ね、3月22日にはツアーの再開を発表した。批判も辞さない覚悟で決断を下した2011年の坂本真綾にとって、バンドメンバーたちの存在は大きな支えとなったことだろう。

坂本真綾はソロシンガーとしての利点を生かし、バンドを固定していない。北川勝利率いるこのバンドはファンからの人気も高いのだが、2012年を最後に大きなステージでの起用はなくなっていた。それが今回、2021年コロナ禍においてついに「再結成」されたのである。

10年前と同様に、いやあのとき以上にコンサートの開催自体が不適切とされかねない時世。それでもなんとか時間と空間と音楽を共有したいと決意した坂本真綾がほかでもないこのバンドに並走を願ったのは、じつに物語があると感じる。

坂本真綾と北川バンドの物語はドキュメント写真集として残されている。今回の公式レポートを担当している上野三樹さんは、このツアーの全公演を共にまわって記録してくれたライターさんである。

個人的な思い入れを付け加えるならば、2011年3月31日、ツアー再開から間もない中野サンプラザにてわたしは初めて坂本真綾のライブに参加した。そんなこともあってこれから書き散らかす感想の端々にも「あれから10年」という極めて私的なフィルターが強くかかるであろう点はご承知いただきたい。

以上、本編に入るとあまりしっかり触れられなさそうな件を先に書いておいた。それでは大変長らくお待たせいたしました、おそらくほぼ定刻、暗転、SE。今となっては非常に貴重な、有観客のフィジカルなライブが始まった。

01. 約束はいらない

のっけからタイトルチューン。いきなりかよ!と思うも、この曲は『天空のエスカフローネ』のオープニングであり、歌手・坂本真綾のオープニングでもある。おまけに特別盛り上がるような曲でもない。この位置が最もふさわしいのかもしれない。

そんなことより、わたしは混乱していた。遠目に見える坂本真綾の頭部が何やら見慣れないのだ。次の曲あたりで真相がスクリーンに映されるのだが、なんと坂本真綾は髪を切っていた。大いにイメチェンをしていた。坂本真綾ワンレンボブ至上主義者としてこれは非常に由々しき事態である。前席のおじさん二人組が妙な揺れかたをしていることなども相まり、全く集中できない幕開けであった。

02. CLEAR

坂本ベリーショート真綾の衝撃は次第に和らぎ、初日も中盤に差し掛かる頃には晴れてワンレンボブ至上主義者から卒業。ご本人が「ルンバ」と称するケーキ型のドレスはたいへん美しく、新しい髪型とドレスの薄紫色がよく似合っておられた。立っているだけで2メートルのディスタンスを保てるのもポイントだ。なお初日MCではルンバのルの字もなかったので誰かに言われたのだろうか。

ところで、今回のセットリストは歌詞の内容に重点を置いて選曲したという旨の発言が初日にあった。セットリストだけ見るとあまり代わり映えがしないのだが歌詞を読み返してみると印象がだいぶ変わったので、以降ちょいちょい引用しながら進めていくことにする。例えばこの曲には「やっぱり生のライブっていいな。坂本真綾っていいな。」が詰まっていると思う。もちろん、個人の勝手な解釈である。

これって これって なんていう気持ちなの
熱くて 痛くて くすぐったくて 涙が出そう
泉がここにあるの 私をつかさどる源が
何があっても涸れたりしない
諦めたつもりでもまた 透明なもので満たされていく

坂本真綾 CLEAR 歌詞 - 歌ネット

03. スクラップ〜別れの詩

円形ステージを丸ごとカバーするように設置された八角形の可動式スクリーンが演出に応じて昇降する。この曲ではモノクロームで映し出される坂本真綾がたいへん美麗であった。そういえばこれは20周年ライブでも3曲目に演奏された曲だ。

あれがかけがえない季節なら 今も消し去ることは出来ない
もう二度と、二度と、さわれない熱と温もり

ちょっとこじつけかもしれないが、こういう歌詞にもはっとしてしまうのは今の時期ならではと言える。

君らしくあれ 自分のために

最初のMCで「今日は誰に遠慮するでもなく、自分のために楽しんでください」と坂本真綾は言った。よく見たら、歌詞にも同じ言葉があった。

坂本真綾 スクラップ~別れの詩 歌詞 - 歌ネット

04. ユーランゴブレット

川谷絵音氏の作詞だが、「今日は今日でしか生きれないから 私は歌う」「日常さえ奇跡的」「会いたい人には 会いに行くだけ」など刺さるワードは多い。変な歌詞だなと思っていた「友よ私はチケット2枚分優しくするつもり」にすら、今は意味合いを感じる。

今回のライブにおけるこの曲は坂本さんのカメラ目線が見どころであった。いつからあんな演技派になったのか。あの囁きにKOされ、恐竜は絶滅したという。

坂本真綾 ユーランゴブレット 歌詞 - 歌ネット

05. オールドファッション

立つ立たない問題で毎度少なからず悩まされる坂本真綾のライブだが、今回はここから立つ、となんとなく決めていた。だってこの曲、座ってなんかいられないんだもの。

この曲が終わるまで君の恋人でいたい
楽しかった思い出に今は乾杯しようよ

このライブ中はずっと女神でいてくれた坂本真綾に乾杯。

坂本真綾 オールドファッション 歌詞 - 歌ネット

06. いつか旅に出る日

この曲だけは明確にコロナ禍の影響を受けて書かれた歌詞だが、それ以外の曲は、少なくとも『Duets』の曲以外は確実にコロナ禍とは関係のない歌詞である。しかしどの曲もある程度そう読み取れてしまうところに、歌詞というものの普遍性を感じる。

07. 独白/08. 躍動

ここはゲストコーナーへと繋がっていくFGOブロックと考えていいだろう。曲調が激しければ演出も激しく、いつかのB'z以来久しぶりに炎を見たのでちょっと嬉しくなった。花道に沿って設置された可動式LEDもこのあたりから使われ始める。目新しい照明機材ではないのだが、光というのは無性に人を感動させる力があるらしく、今回わたしはこの花道の可動式LEDに何度もいたく涙腺を刺激された。

09. 色彩(with 内村友美)

ゲストコーナーのトップバッター内村友美さんと、ご挨拶がてらの1曲目にデュエットバージョン『色彩』。元々これはla la larks名義での提供曲であり内村さんボーカルのセルフカバー版も存在するが、デュエットは本邦初披露である。

色彩 -Album Ver.-

色彩 -Album Ver.-

  • la la larks
  • アニメ
  • ¥255

内村さんは今回のゲストで唯一生歌を聴いたことがなかったのだけど(原さんもそうと言えばそうか)、よく通る声質に正確なピッチコントロール、端的にめっちゃ上手い。坂本真綾の声質は激しい曲になると埋もれがちなため、なるほどジェラスを感じるのも納得だ。緊張が解ける暇もなくリフトアップ&回転させられてあのクオリティを保てるのもすごい。

以下あえて特筆しないが、今回のゲストは全員が喉からCD音源の歌うまさんであった。耳福。

あたりまえの日々は何より美しい

坂本真綾 色彩 歌詞 - 歌ネット

10. sync(with 内村友美)

アルバム『Duets』のなかで特に好きな曲。リリース数日後にこれを生で聴けてしまうのはたいへんな贅沢である。個人的には「かっこいい曲」の括りだったのだが、坂本さん曰くla la larks内村友美の振り幅的には「かわいい曲」に該当するらしい(どうしても内村さんに「かわいい曲」を歌わせたかったのだとか)。

実際、生で聴いてみるとこれは存外ポップな曲で、サビに至ってはワイパーだ。こんなノリの曲だったのかと驚いた。どうやらフロントマンとしての重責が分散されることにより不思議とステージ上の空気も明るく軽くなるようで、坂本さんがこれまでのライブでは見せたことのないような笑顔を振りまいていた。

それからもうひとつ発見したことがあって、それは「カメラの有無でパフォーマンスは変わる」ということだ。先ほどの『ユーランゴブレット』然り「カメラ目線で歌うボーカル」の映像をわれわれは日頃目にしているが、当然ながら舞台上or至近距離にカメラがなければあのパフォーマンスは生まれないわけである。

なぜ今その話をするかというと、この曲の一番好きなポイントはCメロで坂本さんが言葉数多く畳み掛けるところなのだけど、その箇所でのパフォーマンスが2日間とも「カメラを見据えて歩きながら」だったから。これはカメラが入っていてかつスクリーンがなければ生の記憶としては残せないものであり、ホール規模を主戦場とする坂本真綾のライブにおいて普段はなかなか得難い良さみなのではないか。今回の坂本真綾ネクストレベルを感じたとしたら理由のひとつはこれなんじゃないか。っていう話。

11. あなたじゃなければ(with 堂島孝平

続いてのゲストは堂島孝平さん。今回の2日間、堂島さんの貢献度はあまりにも高い。ざっくり言えば盛り上げ上手ということだが、いかんせん「盛り上がりづらい」このコロナ禍において条件を満たしながら最大限の熱気を観客から引き出してくれた堂島孝平様には感謝しかない。

初日の堂島様は花道先端にうずくまったきりなかなかステージに来なかった。よく聞くと、「手拍子が……足りない……」と呻いていた。気付いた観客が手拍子のボリュームを上げていってようやく花道を渡りきった。手拍子の秘めたポテンシャルに5,000人が気付かされた瞬間である。

2日目には違う手を使った。序盤のMCで坂本さんが「私は今日みんなを幸せにするためここに来ました」と言ったことを受け、本当にそれでいいのか、みんなが今日幸せにしたいのはほかでもない坂本真綾なのではないか、と煽りに煽り、万雷の拍手で観客が思いを吐き出せたところでようやく花道を渡りきった。

ゲストに空気を作ってもらうというのも不思議な話だが、アリーナクラスともなると観客の恥じらいやリミッターを解除してくれる起爆剤がときに必要であり、発声禁止なことも気にならないくらい今回のライブが熱気を持てたのは多分に堂島孝平様のおかげだ。

そんなわけで間違いなく楽しい時間となったこのコラボタイム。ライブ映えする曲を、とのリクエストに応えて堂島さんが書いてくれた『あなたじゃなければ』は、音源の印象をはるかに超える「映え」っぷりで感服した。とてもリリース数日後の初披露とは思えないフィット感。どう作ればライブで化けるのかを知り尽くしているのだろう。

また、大いに笑わせてもらったのは2番Aメロでのこと。坂本さん扮する女が堂島さん扮する男に悪態をつくパートなのだが、坂本さんの歌にややフライングするかたちで堂島さんがいちいち歌詞のガイドを出してくるのである。あまりにもうざくて爆笑したし、コンチクショウてめえ鼻ぶち折んぞ、みたいな顔の坂本真綾が見られたのもたまらなかった。2日目よりも初日のほうがうまく(うざく)できていたのでソフト化の際はぜひ初日ぶんの収録をお願いしたい。

12. レコード(with 堂島孝平

もう1曲は、以前提供してもらったこの曲をデュエットバージョンで。前述のように今回のステージセットは円形のセンターステージなのだが、今更ながら補足しておくとその中心部はリフトアップ&回転できるようになっており、つまりこの曲ではレコードよろしく堂島さんと坂本さんが円盤の上でゆっくり回っていた。

キー的にあまりデュエット向きではなく惜しい部分もあったが(坂本さんがうっかり堂島さんパートを歌いかける場面などもあった気がするが)、まあ縁起物なのでどうでもよろしい。あんなハチャメチャのあとにこんなしっとりやられてしまうとますます堂島孝平に惚れてしまう。のでお帰りいただく。

【Day1】13. Be mine!(with 原昌和)

日替わりのゲスト3枠目、初日はお馴染みバンアパ原さん。時節的にも、登場した瞬間すごく庵野みを感じたのはわたしだけではないだろう。

この曲はあくまでベーシスト原昌和としての参加なのだが、どういうわけか気付けば中央でひとりリフトアップされていた。オルゴールのように回されていた。坂本さんはといえばそこらじゅう練り歩いて見向きもせず、曲中まるまる完全放置である。終わってから「めっちゃ格好良かった!」と雑に持ち上げてはいたけれど、いや、あれは、完全放置である。うける。

【Day1】14. でも(with 原昌和)

横浜アリーナ坂本真綾とデュエットすることになるthe band apartベース担当・原昌和。さあ一体どんなことになるのかと固唾を飲んでいたが、本人に緊張の様子は一切感じ取れない。どころか、黒いパーカーのポケットに片手突っ込んでマイペースに真綾さん⤴︎とおしゃべりしている。横浜アリーナの舞台上で。この人はただ者じゃない。

「なんか高級スナックみたいですごいっすね」。なんでもカラオケがお好きらしく、普段はサザンとかを歌ったりするそう。おかげで坂本さんが歌う『涙のキッス』と『赤いスイートピー』のさわりを聴くことができ、ナイス棚ぼた。

さあ、いよいよ『でも』が始まった。音源で聴くと繊細な印象の歌声だが、なんと、あの声質のまま声量がすげえあった。うわ、全然埋もれねえ、すげえ。その上ほんとに気持ち良さそうに歌ってる。パーカーのポケットに片手突っ込んで、片手でマイクを握りしめて。すげえしか出ねえ。

この日しか聴けないのが勿体なさすぎる超絶アツい演奏に乗せて、すげえ男・原昌和は満足げに帰っていった。

【Day2】13. ひとくちいかが?(with 土岐麻子

日替わりのゲスト3枠目、2日目は土岐麻子さん。アルバム『Duets』から強烈にグルーヴィーなナンバーを早速披露。この曲で揺れるのが今日の楽しみだった。至福。スネアを変えたのか、佐野さんのプレイもだいぶ音源に寄ったサウンドだった気がする。

今回の女性ゲスト2名は坂本さんより身長が高く、普段のステージではあまり感じることのない坂本真綾の華奢さに気付かされた。そして同時に、力強さもより際立っていた。

ここで、じつは翌日が土岐さんのお誕生日&Key扇谷さんはまさに今日がお誕生日&もう何日かすると坂本さんもお誕生日、ということでまとめてお祝い。「誕生日好き」の坂本さんは毎年のように誕生日を祝わせてくれるが、今年は珍しく何もないので貴重な機会だ。とはいえ「まだ40歳でいたいんですけど」とやや不服そうではあった。

サプライズのケーキ ほのお吹き消すたびに
生まれ変わった気がする

歌詞ではこう歌われているけれど、リハ時に行われた本当のサプライズではこのご時世なのでロウソクを吹き消すことはできず、お線香みたいに手ではたはたする羽目になったそう。

坂本真綾×土岐麻子 ひとくちいかが? 歌詞 - 歌ネット

【Day2】14. DOWN TOWN(with 土岐麻子

土岐さんは今回のコラボ以外に関連曲がないのでもう1曲をどうするのだろうと思っていたら、ふたりともカヴァーしたことがあるシュガーベイブの『DOWN TOWN』をやるときた。これは嬉しい。

DOWN TOWN

DOWN TOWN

前述したが、北川勝利さん率いる今回のバンドには思い入れがいろいろとある。『DOWN TOWN』はこのバンドの十八番であり、ギターを置いてタンバリンに専念する北川さんが見れると安心する。しかし前日には演奏されなかったのでちょいと残念だったのだ。それを言うと『eternal return』がセトリになかったのもやや残念ではあったのだが、20周年でも演ったしさすがに引っ張りすぎという感じなのだろうか。

なお土岐さんが捌ける際には前日の『でも』からアウトロ部と思わしきセクションがゴリゴリのバキバキに再び演奏され、それもまた嬉しかった。

15. gravity

楽しい楽しいゲストコーナーが終わり、八角形のスクリーンがステージを完全にカバーして坂本真綾は殻にこもった。ピアノ伴奏で歌われる『gravity』は会場の反響と相性が良く、アリーナクラスでのライブにふさわしい曲だと思った。

スクリーンに映し出された水泡のようなものが、まるでステージ上に巨大な水槽が置かれているようで美しかったのはこの曲だったか次の曲だったか。

16. 序曲

初めての自作曲がうやうやしく披露された2010年の15周年ライブから11年。もはや作詞作曲坂本真綾が特別視されることはなく、当たり前のようにセットリストの柱として機能するようになった。

ああ なぜ暗闇もなく光を知り得るだろう
あれは最後の灯火
いいえ ようやく届き始めた来光

後述するが(し忘れたらどうしよう)、コロナ禍という暗闇でこそ見える光は今回のライブにもあった。2011年3月31日に初めて坂本真綾のライブを観たわたしも、震災直後の暗闇に坂本真綾という光を見出してここまでついてきた。有事の坂本真綾はいつも強く、どれだけ力をもらったかわからない。どう恩返しをすればいいのだろう。せめて、拙文をしたためる。

坂本真綾 序曲 歌詞 - 歌ネット

17. birds

さて、依然ステージ上の坂本真綾は殻にこもったままだ。この間にこっそり衣装替えでもするのかと思ったがそういうわけでもなかったのでやや謎タイム。ちなみに今回は衣装替えがなく(さすがにルンバは序盤数曲で切り離され、一着でドレッシー&パンツスタイルが二度美味しいピーターパン風味の衣装へと脱皮)、坂本真綾とバンドメンバーは2時間半一度もステージから捌けなかった。

謎タイムとは言ったが、この曲に関しては言うまでもなくの「鳥かご」タイムである。これまでも鳥かごを模した演出はあったけれど、ついにほぼほぼ完璧かつ物理的な鳥かごを実現したのだなと感慨に浸り、壮麗なミラーボールにもじんわり浸った。昨今急激に進化する配信ライブで未だ得られないのは光の立体感だと思う。空間を飛び交い壁面を照射する光を目で追うのが、個人的にはいちばん「ああ、ライブだ」と感じる。

25周年メドレー

選曲が大変になってきたので最近はメドレーに逃げている、と坂本さん。ライブも終盤に差し掛かり、名残惜しむように円形ステージをゆっくり回りながら、たっぷりめにトークをしてくれた。パーカーのポケットに片手突っ込む原さんをどうのこうの言ったあとでなんだけど、ここでの坂本さんもじつは片手をポケットだか腰だかにずっと置きながらぐるぐる歩き回っており、5,000人も見てるなかで堂々としてんなあと感心したりもした。

当て所なくうろうろ歩いてはいるのだけど話す内容はかなりしっかりしていて、10年前なら感極まっていたであろう場面においても言葉を詰まらせることすら一度も今回はなかった。人間ってこんなに成長できるもんなの?って、坂本真綾という人を見ていると折に触れて思う。

18. ループ

歌手・坂本真綾の第二のスタート地点であるこの曲は、キャリアが増すごとに味わいや深みも増してくる。

廻る奇跡のその果て
また向かい合うのだろう
向かい合うのだろう

坂本真綾 ループ 歌詞 - 歌ネット

19. ヘミソフィア

初日は佐野さんサイドだったので、急いでスネアを交換している佐野さんが見えた。という記憶だけがある。

それでもいったいこの僕に何が出来るって言うんだ
窮屈な箱庭の現実を変えるために何が出来るの
教えて “強さ”の定義
自分 貫く事かな
それとも自分さえ捨ててまで守るべきもの守る事ですか

坂本真綾 ヘミソフィア 歌詞 - 歌ネット

20. 逆光

圧倒的FGO率である。なおFGO曲ではこれがいちばん好き。

私はここにいる

この曲は歌詞を全文引用したい勢いだった。

坂本真綾 逆光 歌詞 - 歌ネット

21. 奇跡の海

この曲が持つ大御所感はなんだろう。坂本真綾とは無縁な派遣の場内スタッフさんとかに「えっ、この曲この人なんだ」と内心驚いてもらえてたらいいな、なんてことをいつも思っている。

君を 信じてる歓び
嵐は 愛に気づくために吹いてる

坂本真綾 奇跡の海 歌詞 - 歌ネット

22. Private Sky

坂本真綾らしからぬアッパーチューンだが、ライブで聴くといかんせん盛り上がってしまうので隅に置けない。

触れたい 超えたい 夢じゃないと言ってほしい

坂本真綾 Private Sky 歌詞 - 歌ネット

23. トライアングラー

ファンも坂本真綾自身もそんなに代表曲とは思っていないが世間的には代表曲とされがちな楽曲『トライアングラー』。なんとなくの感触だけど、今回のメドレーでようやく「人気曲」ポジションに馴染めたような気がする。キャリアを重ねて、それこそFGO曲とかクセの強い曲が他にもいっぱい生まれたからかもしれない。

ちなみに歌詞はキスばかりでご法度。

24. マジックナンバー

花道に北川さんがやってきてとても嬉しい。これまでのいろんな積み重ねがあるから、この曲はめっぽう明るくて楽しくて寂しくて泣ける。こういう曲を持っているだけで坂本真綾は強いし、出会うべきタイミングで北川勝利に出会えた坂本真綾は幸せ者だ。

嬉しいとき笑って
好きなときに歌いだけなのに

坂本真綾 マジックナンバー 歌詞 - 歌ネット

25. 指輪

大団円かと思いきや、クールダウンしてメドレーは続く。この振り幅が坂本真綾。ステージの外周をゆっくりと斜めに廻る光のリングが印象的。

約束をしようよ

坂本真綾 指輪―23カラット― 歌詞 - 歌ネット

26. 光あれ

あまり手を振ってあげない宗派なのだが、今回に関しては手を振ってあげないといけないと思い、自然と手が挙がった。わたしは坂本真綾にせめてもの来光を見せなければいけない。メドレーはここまで。

もしもまだこの声が 誰かに届いてるなら
その人に誓いたい 僕は愛を忘れないと

2日目、未来にコメントを送った一幕はこのあとだっただろうか。

坂本真綾 光あれ 歌詞 - 歌ネット

27. 誓い

最後の一曲として「10年前」に言及しながら紹介した『誓い』。そうかもうこの曲も10年なんだ、と少し驚く。震災がなければ生まれなかった曲だが、個人的にはあまり震災と直結してはいない。終電を逃して八王子駅前のカラオケにひとり泊まった夜、ビタMで初オンエアされていたのを聴いた記憶のほうが大きい。あれから10年か。

楽曲の魅力はもちろん、演出としてもこの曲は今回の白眉だった。胞子のようにステージからふんわり舞い上がっていく光の粒。垂直に放たれる光の柱。雪解けのように花道からも蒸発していく光の粒。極め付けに、割れるとスモークが広がる無数のシャボン玉。目で見た景色もスクリーンに映る広角ローアングルの映像もあまりに美しくて、夢に出ると思った。

そして冬が終わる 憂いを振りほどいて

坂本真綾 誓い 歌詞 - 歌ネット

28. プラチナ

『誓い』を最後の曲と明言していたのでこれはアンコール枠なのだろう。前述のように今回は一度もステージから捌けることなく、アンコール一体型のセットリストとなっていた。このスタイルはすごくいいと思う。坂本さんの性格的にも今後これは定着しそうな気がする。

まだ見ぬ世界
そこで何が待っていても
もしも理想とちがっても 恐れはしない

初日はベリーショートに動揺したりしてあまり涙腺を緩める余裕がなかったのだけど、最後の最後でこの一節に耳が留まり、急にこみ上げてきた。2日目も同じところでこみ上げちゃおうと思ったのだがすっかり忘れて通り過ぎた。歌詞とはそういうものらしい。

ときに今回の『プラチナ』はいつもよりマイルドで落ち着いた印象を受けたのだが、これはもしかするとフィナーレゆえの解放感から来るものなのだろうか。でもそれでいて後半からは問答無用で無敵の高揚感と多幸感を撒き散らしていくこの曲の構成力にあらためて恐れ入る。

坂本真綾 プラチナ 歌詞 - 歌ネット

29. ポケットを空にして

いよいよ本編も全て終わり、『ポケ空』のマンドリンが聞こえてきた。坂本真綾ファンにとってこの曲は「歌う曲」である。そして今は「歌えない」ご時世である。つまりこの『ポケ空』はエンドロールのBGMにすぎないわけである。

しかしここで不思議なことが起きた。『ポケ空』のイントロが流れ、いつものように手拍子が始まる。数秒が経過し、それがボーカルレス音源だと判っても、手拍子は止まらない。それどころか、曲のテンポに合った手拍子が頑なに続く。ステージ上では坂本真綾はじめバンドメンバーが挨拶回りをしているというのに、拍手ではなく手拍子が続く。どこからも歌声はしないのに。

これはつまるところ、みんな歌っていたのだと思う。あくまで自分のために、ライブの最後は『ポケ空』を歌いたかった。その気持ちが奇跡的にシンクロした結果の、数分間の規則的な手拍子。協調性があるとは言い難い坂本真綾ファンがあの数分間だけは暗黙の了解で全員一致の決断を下したことにわたしは感動した。

自分のツイートが一番しっくりくるので貼っておく。また、4日ほどかけてこのレポートを書いている間に上野三樹さんの素晴らしい公式レポートも上がってしまったのでモチベーションを急降下させながら拝読したところ、完全なる解釈の一致が見られたので泣いた。以下、引用させていただく。

いくつものライブでアンコールを彩ってきた「ポケットを空にして」だが、今回は坂本も観客も全員が心の中で歌っていた。今は歌うことができなくても、私たちには記憶の中のピースフルな大合唱が胸に響いていた。坂本 真綾 | 25周年記念LIVE「約束はいらない」ライブレポート公開! | FlyingDog

全くもってその通りで、あの横浜アリーナでわたしは大合唱をした記憶しかないのである。ここでもう一節『プラチナ』から引用したい。

歌うように奇蹟のように
「思い」が全てを変えてゆくよ
きっと きっと 驚くくらい

これはあの光景だ、と思った。

ちなみに初日は曲がもう少しで終わろうというところでフェードアウトしてしまい生殺しだったのだけど、2日目にはちゃんと1曲流しきれるように調節してくれていた。おそらく初日段階ではただのSE扱いだったのだろうが(それでもめちゃくちゃ感動したのだが)、2日目にはちゃんと最後の1曲として扱われていた。あれは間違いなくダブルアンコール、みんなで歌った『ポケットを空にして』だった。

『序曲』のところでちらっと書いた「コロナ禍という暗闇でこそ見える光」というのは、この『ポケ空』案件も含む、こういったこと。またしても自分のツイートを貼って済ませる。

感動すると同時に、当たり前に見える世界で今までどれだけ惰性の楽しみ方をしてきたのだろうかとも考えさせられてしまう経験だった。あの2011年から10年。たかが、されど10年。思いのほか10年でいろいろなことを忘れる。ああ、でもこれは覚えている。

10年前、ライブ終演直後のツイート。「またひとり、一生ついていかなきゃいけない歌手が増えた」。10年ついてきたから、この10年もきっとついていくはず。2031年にもこんな暑苦しいレポートを書いていたい。

ポケットを空にしてさあ旅に出ようよ

いつか旅に出る日が楽しみである。

坂本真綾 ポケットを空にして 歌詞 - 歌ネット

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

01. 約束はいらない
02. CLEAR
03. スクラップ〜別れの詩
04. ユーランゴブレット
05. オールドファッション
06. いつか旅に出る日
07. 独白
08. 躍動
09. 色彩(with 内村友美)
10. sync(with 内村友美)
11. あなたじゃなければ(with 堂島孝平
12. レコード(with 堂島孝平
【Day 1】
13. Be mine!(with 原昌和)
14. でも(with 原昌和)
【Day 2】
13. ひとくちいかが?(with 土岐麻子
14. DOWN TOWN(with 土岐麻子
15. gravity
16. 序曲
17. birds
【25周年メドレー】
 18. ループ
 19. ヘミソフィア
 20. 逆光
 21. 奇跡の海
 22. Private Sky
 23. トライアングラー
 24. マジックナンバー
 25. 指輪
 26. 光あれ
27. 誓い
28. プラチナ
29. ポケットを空にして

北川バンドで残された現状唯一のライブ映像。なお今回のライブはソフト化が明言されていますのできっと今年中には観れるはず!