353log

主に映画の感想文を書いています

映画「盆唄(2018)」感想|帰還困難区域に代々伝わる盆踊りを絶やさないよう奮闘する福島の人たちのドキュメンタリー

映画「盆唄」ポスター東日本大震災から10年ということで、昨日観た『津波そして桜(2011)』に引き続き「アジアンドキュメンタリーズ」にて3.11関連のドキュメンタリーを観ています。

今日は2018年公開の『盆唄』。『ナビィの恋(1999)』などで知られる中江裕司監督による作品です。

原発からほど近い福島県双葉町は、帰還困難区域として現在も立ち入りが制限されています。住民ですら、身分証を提出した上で一度に5時間までしか滞在できないそうです。“かつて町だった区域”に入ると建物はそのままですが人の気配はなく、草木が存在感を増し、猪の親子が道に飛び出てきたりします。

この地区には先祖代々受け継いできた「盆唄」があります。しかし住民が散り散りになり一堂に会せない避難生活のなか伝統が途絶えてしまうのではと盆踊りの中枢メンバーたちは危惧。そんな折、100年以上前に福島からハワイへ移住した人々により「盆唄」が「フクシマオンド」としてハワイで独自の発展を遂げていることを知ります。

自分たちが生きているうちに双葉町へ帰ることはできないかもしれない。かといって震災を知らない子孫にそれを託すのもエゴではないか。そう考えた彼らはハワイへ赴き、現地の人々に「盆唄」の保存と継承を託します。これが第一部です。

序盤で登場するハワイのフクシマオンドがすごいんですよね。自由ではあるのだけど整然としていて(やぐらを中心にバークレーショットで俯瞰した映像が圧巻!)、熱気は日本以上。異国発祥の"BON DANCE"を本気で愉しむハワイの人々に、いわば「バックアップ」を取っておいてもらうというこのプロジェクト。いきなりスケールが大きくて、いい意味で予想を裏切られました。

第二部ではアニメーションなども交えて「盆唄」のルーツに迫ります。ハワイに「フクシマオンド」が定着したように、福島に「盆唄」が定着したことにもルーツがありました。夏になると何気なく見聞きしている「盆踊り」ですが、そもそもなんぞやという点で勉強になりました。

最後のパートでは、第一部でハワイに飛んだメンバーたちが今度はやはり自分たちで祭りを復活させようと一念発起するさまが描かれます。これがとても感動的で。本作の主人公ポジションである横山さんという方が仲間を呼び出し「やってみようと思うんだけど、どうかな」と持ちかけたところから一気に動き出すカタルシス。かつてのメンバーを再び誘い込み、運営側としても俄然盛り上がっていく高揚感。祭り前日、車に積んだ大量の機材を見つめる横山さんの表情。当日、設営をする横山さんの表情。本番中やぐらの上に常駐する横山さんの表情──。

ええ、そうです。横山さんの表情が、めっちゃいい。泣かされる。すっごく私事ではあるのですがわたしも5年くらい前に自分の所属吹奏楽団と他楽団さんとで合同演奏会の企画を立ち上げたことがあって楽団サイトのレポート記事、そのときの気持ちを鮮明に思い出しました。自分たちだけのことではない、ちょっと偽善的でもある「物語を作りたい」というような気持ち。不安いっぱいで迎えた本番当日が無事に過ぎていくのを見守る感慨と喜び。嗚呼、感情移入100%。

映画前半で横山さんたちが双葉に入り、初めて帰還困難区域の中で太鼓を叩いたり唄を歌ったりして「胸がいっぱいです」とこぼすシーンも印象的です。わたしの所属楽団も今年に入ってから緊急事態宣言下でずっと活動休止中。2月に予定していた演奏会も中止となり(有観客では2年連続の中止)、去年と合わせるともう半年以上は吹奏楽のない生活を送っているのですけども、なるほど確かに不要不急かもなという感じですっかり慣れてきてしまっていて。でもこのドキュメンタリーを観ていると、「不要不急」こそが大切なんだとあらためて気付かされました。

大切な何かを失った状態の日常にわたしたちは意外と順応してしまうことを知った昨今ですが、いやいや、やっぱり折をみて取り戻さないといけないんだと目を覚まさせてくれる、意外にも普遍的なメッセージの込められた作品でした。

(2021年46本目/アジアンドキュメンタリーズ アジアンドキュメンタリーズはドキュメンタリー専門の配信サービスです。よく「アトロク」でも紹介されており気になっていたのですが、このタイミングで加入してみました。月額990円のサブスクリプションのほか、単品購入でも視聴できます。