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ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」2021年版(明日海りお×千葉雄大)観劇レポート

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東京国際フォーラム ホールCにて「ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』」を観てきました(2021.02.13ソワレ)。

物心ついた頃からの原作ファンでありながら2018年の宝塚初演時には観ることが叶わなかった本演目。非・宝塚での再演となる今回もチケットは取っていなかったのですが、行けなくなってしまった方から直前に譲っていただき急遽行けることに!

心の準備が間に合わない……などと焦りつつ、最低限コミックスを読み返したりして久しぶりの国際フォーラムへ。ホールCは多分初めて。無機質で巨大なホールAと対照的に、ウッディな温かみのある劇場という印象を受けました。3階のいわゆる天井席でしたがとても見やすく、いいホールですね。

座席は全席開放。おっマジか、と一瞬たじろいだものの、喋らないでねとスタッフさんが終始アナウンスしてくれていたので不安は感じませんでした。チケットもぎりはセルフ、検温あり、休憩は長めの25分間、終演後は規制退場と、感染対策面でも総じて快適だったと思います。

さて、では本編の感想を。幼い頃から『ポー』を読んでいたことが今ここに繋がっているんだなと感慨深くなる素晴らしい公演だったというのが総括ですが、つらつら語ってゆくと際限がなくなってしまうので細分化して書いていくことにします。

演出、内容、キャストのことなどネタバレ要素を多分に含みますのでご注意ください。なお本作に限らず宝塚の生観劇経験はないため見当違いな箇所などあるかもしれませんがご容赦いただければ幸いです。

もくじ

非・宝塚ならではのキャスティング

正直、発表当初の印象として「宝塚ではない=男女混合」というのは少なからず期待値を下げるものではありました。映像で宝塚版を鑑賞した際に「思えば、萩尾作品の中性的なキャラクターと仰々しさを具現化する手段は宝塚しかないのでは」とわたしは感じたのですけども、そういうことです。

ポーの一族('18年花組・東京・千秋楽)

ポーの一族('18年花組・東京・千秋楽)

  • 発売日: 2019/12/01
  • メディア: Prime Video

しかし実際観てみるとそれは杞憂で、まず当然と言えば当然なのですが男性が男性役をやることに対してそうそう違和感は生まれないのだなと。男のビジュアルから男の声が出ているのは、普通にプラス要素でした(もし明日海エドガーが続投されていなかったら、もしアランが違うキャスティングだったら、そんなもしもは置いておくとして)。

また、性別以外の点で盲点だったのが「年齢」。子供の役を幼い役者が演じるという選択肢がある。老ハンナやキング・ポーを中高年の役者が演じるという選択肢がある。これは結構大きいなと。

と言いつつ今あれ?と思ったのですが、森に捨てられるシーンのエドガーってあそこだけは本物の子役に見えてたけどもしかして違う……?? どこにもクレジットがなくて疑わしくなってきたぞ。いや、でもあれは流石に明日海さんではないよな……。

ぶつぶつ書きながら調べて判明。エドガーの“決定打”となる花売り娘を演じていた田中なずなさんという方が、幼いエドガーも演じていたようです(それどころか全6役ですって)。19歳とお若くはあるも身長は156cm、そこまで低いわけでもない、のにあの完璧な「子供」感! すごい!

あともう一点、こちらも盲点というかなんというか「宝塚OGで豪華キャストを組める」。 昨年いくつか宝塚作品を映像で観ていた際に、幸か不幸か映像内のトップスターさんたちはほとんど卒業してらして、沼的な意味での命拾いをしたなと思ってたんですけども。何気に今回、そのあたりの顔ぶれが揃ってるんですよね。あれ?? 宝塚じゃないのに宝塚見れちゃった?? ていう。法の抜け穴的な。なんとも不思議な公演でした。[もくじに戻る]

セットや演出の違い

会場に入ってまず思ったのは、そうか銀橋がないんだ、と。おそらくマルグリッド・ヘッセンほか語り部たちの配置などがだいぶ変わったんじゃじゃないでしょうか。それから言わずもがな大階段のフィナーレがないのは、仕方ないとはいえ寂しいところです。

ホテル到着以降メインで文字通り使い回される回転セットは、宝塚版よりも豪華になっていた気がします。高さが増して、装飾や質感のディティールも細かくなり、存在感、高級感ともにアップしていたような。2018年にブロードウェイで観たマイ・フェア・レディ』のメインセット(ヒギンズ邸の回転セット)を彷彿とさせました。

まだ見比べていないので不確かですが、演出で特に印象的だったのは終盤シーラと男爵が消滅する場面。宝塚版はちょっとあっけないなと思った記憶があり、その点今回はだいぶ劇的になっていて良かったです。落ち演出だったけど天井席からでも裏は見えなかったですし、よくできてるなあと感心。

あと、どこだったかエドガーのソロパートでシルエットが巨大化したり縮んだり、といった照明(影)演出があって鳥肌ものでした。あれは以前からあったのかしら。配役の「エドガーの影(いっぱいいる)」は宝塚版からあったようなのできっとこの演出もあったんでしょうね。確認したいことが沢山。[もくじに戻る]

千葉アランについて

今回一番気になっていたのは千葉雄大さんのアランが一体どうなのか、というところ。個人的には発表の時点でなるほど男性を起用するとなればこれ以上ないキャスティングだと納得していたのでそこへの抵抗はなかったのですが、ミュージカルである以上、問題は「お歌」なんですよね。

その点、想像していたより数段よかった!です。しっかり声量があって明日海さんに全く負けていないし、言葉も聞き取りやすいし、ピッチ感やビブラートもミュージカル初挑戦にしてはかなり良かったと思うし、何より堂々としているのがよい。どう考えてもプレッシャーはものすごいでしょうに。さすが千葉きゅん。

アランというキャラクターとの相性も予想通りばっちり。言われてみればアラン・トワイライト=千葉雄大じゃん、って感じだったので。ちなみにこれは発表当時の感想。

しいて言えば、少年にしてはちょっと声が低かったかも。あとこれは柚香アランのときから思っていたことですが、あのウィッグはなんかイメージと違うんだよな。大人が演じると面長になっちゃうとかいうのもあるのかな。もうちょいシルエット的に丸顔のイメージというか……。この作品のなかでアランだけはどうも、根本的にしっくりきてない部分がじつはあります。[もくじに戻る]

明日海エドガーについて

念願の生・明日海エドガー。こちらはもう約束されていますから心配などあるはずもなくて、流石と言わざるをえない唯一無二のエドガーでした。幕が開いた瞬間から白い輝きのオーラが凄まじく、一番遠い席でありながらゾクッときました。

映像では拝見していましたが改めてすごいなと思わされたのは歌唱の安定感、声質の良さ。観客を不安にさせる要素が一切ない、圧倒的なトップスター感。はーこりゃ、すごいわ、と語彙力を失うばかり。

第一声を聴いて「エドガーの声だ」と思ったんですけどこれもすごいですよね。大山のぶ代さんがドラえもんに声を与えたときくらいの偉業を成し遂げてるわけですからね。

また、アランのことはときに「千葉くん」と思いながら見ていたのに対し、エドガーは終始「エドガー」としか見れなかったのも印象的。あの演目の間はエドガー・ポーツネル以外の何者でもなくて、でもカーテンコールに入った途端ただの明日海りおさんに戻るのが、うわあ(畏怖)って感じでした。

……願わくは、『おちょやん』でもゾクッとするような役を(劇中で)もらえるといいのですが。今のままのルリ子さんだと無駄遣いがすぎる。と、初めて生で拝見してその思いが強まりました。[もくじに戻る]

その他キャストについて

その他とか言ってすみません。便宜上!

リーベル綺咲愛里

綺咲愛里さんがメリーベル役なの、チケットを譲っていただいてから知りまして。初めて意識的に観た宝塚の映像が『キラールージュ』だったので、綺咲愛里さんから入ってるようなものなんですよね。だからすごい嬉しかったです。そんな綺咲さんのメリーベル、はい可愛い。文句なし。

旅を始めると、彼女にもシリアスな表情が出てきます。アランを噛もうとするエドガーにすんでのところで待ったをかけるシーンの切迫した演技には泣かされたし(あそこのセリフはオリジナルかしら。「未来」だと思ってたけど「未練」が有力っぽい)、いつどの媒体で見ても消滅シーンでは胸が痛みます。わたしの初恋はメリーベルかもしれない。

そういえば演出面でいうと、エドガーがメリーベルを噛むシーンでは照明が赤くならないんですね。白いまま。それがいいなあと思いました。

シーラ(夢咲ねね)

じつはシーラのキャスティング変更は当初ショックで。仙名シーラがあまりにもはまり役だったもので、なぜ?! キャスティングできるはずなのになぜ?! と腑に落ちなかったんです。なのでどうしても斜に構えた見方を今回してしまったんですけども。

実際、最初「永遠の愛」の時点ではこらあかんと思ったのですよ。声質も歌い方も、なんならピッチも怪しい……。でも驚いたことに、その後シーラが「一族」に入ったら全てがまるで別人のように変わったのです。つまり夢咲ねねさんのシーラも良かった!(よかった!)(ただし仙名シーラは殿堂入りです)

永遠の愛

永遠の愛

これ宝塚版の公演録音を聴いてみると仙名さんのときも「永遠の愛」とそれ以降では声質も歌い方も変わっていたので元々そういう演出だったようですが(初見時はシーラに思い入れてないので何も感じなかったのですね)、そこまで踏襲できる役者さんってすごいなあと。

ポーツネル男爵(小西遼生

メインキャラで最も宝塚版から印象が変わるのはやはり男爵でしょうか。男装特有の「人ならざる」感がないぶん普通の男性貴族の出で立ちとなっていましたが、小西さんのハスキー気味な声はアンサンブルの中で区別しやすくて良かったです。

老ハンナ/ブラヴァツキー(涼風真世

涼風真世さんの老ハンナ様、素晴らしかった…!! 初登場時のちょっとした歌い回しからもう格の違いがびりびり伝わってきて、これはすげえとぶったまげておりました。

早々に消滅してしまうので残念に思っていたらブラヴァツキーとして転生してきてこちらも痛快、お見事。喉を痛めそうなキャラクターでやや心配にはなってしまいましたが。彼女がホテルに到着したシーンの「(誰??)(誰??)」っていう率直すぎるコーラスが好きです(笑)

ちなみに涼風真世さんは宝塚在籍中の1986年に一度エドガーの扮装で雑誌撮影をしたことがあるとパンフレットに書いておられ、えー見てみたいと探していたところ当時の誌面を載せてくださってる方が!

エドガーのビジュアルが今と全く同じ方向性であることに、とにかく驚きです。35年の時を経て今の明日海エドガーが舞台に立っているのはすごいことですね……。なお余談も余談ですが1986年はわたしの生まれ年です。

キング・ポー/オルコット大佐(福井晶一

ライオンのキングもやったことがあるので、という福井晶一さん。上にも書きましたがこういうキャラ相応なキャスティングができるのは確実に「宝塚ではない」ことの魅力だと思います。とはいえ福井さん、実年齢は思いのほかお若くて驚きました。

消滅後は老ハンナ様と一緒に転生して再登場されますけども、ひとつ気になったのが、降霊術のシーンで同時に出てる時、あれ誰がキング・ポーやってるんだろう。

ジェイン/マルグリッド・ヘッセン能條愛未

元乃木坂メンバーの方だそうですが歌もお芝居もとっても良かった。ジェインってすごく魅力的なキャラクターで。『風と共に去りぬ』のメラニーみがあって好きなんですよね(メラニーみはシーラにもありますね)。

印象的なシーンは、メリーベル消滅時の絶叫。あんな感情表現をするとは思えないキャラクターなだけに切なくなりました。メリーベルの消滅ってだけでつらいのに倍つらくなるわ。

クリフォード(中村橋之助

この方、ビジュアルやキャラクターは宝塚版とすごく近くて良かったんですけど、お歌のほうがあまりいただけなかったかな……。配信で千秋楽観るつもりなのでその際にもう一度確認してみます。

アラン側の家族

純矢ちとせさんのレイチェル含め、あんまり印象には残らなかったのでこちらも配信で再度チェックしてみたいと思います。特に終盤の階段落ちがしょぼく感じてしまい、アランを動揺させるほどの「取り返しのつかないこと」には見えなかった。あ、笘篠ひとみさん演じるマーゴットはプンプン感が良かったです![もくじに戻る]

おわりに

演者の方々はもちろん全ての部門が完璧なクオリティの仕事をされていて、制限の多いこのコロナ禍によくここまでの総合芸術を作り上げたなと、プロだから当然かもしれませんが、プロのプロたる所以を思い知らされる舞台でした。

また観劇前は「明日海さんが続投なだけの、宝塚ではない何か」くらいまでハードルを下げていたのが正直なところなのですが、実際に観てみると「あの『ポー』」を観た感覚が非常に強くて。観れちゃったな、っていう。これはわたしがまだ生の宝塚を味わったことがないおかげなのかもしれないですけども。

とにもかくにも、子供の頃から萩尾作品に親しんできた身としては感慨深さしかないのです。1972年初出の『ポー』を読んで育った1986年生まれのわたし。それを描かれた萩尾望都先生はご健在で、その舞台版を2021年にリアルタイムで観ているわたし。しかも今回のチケットは自分で取ったわけではなく、別のつながりで知り合った方から譲っていただいたもの。一体このめぐりめぐる感じは何なのだろう。

そんなわけで思うことが多すぎるため観劇レポートというよりは雑感羅列でお茶を濁しましたがお許しを。まずは千秋楽まで無事に公演ができるよう祈っております!

千秋楽生配信(2/28 12時より)の詳細はこちらから。

一家に一組『ポーの一族』!