韓国のサスペンスホラー映画『箪笥<たんす>』を観ました。別冊映画秘宝「韓国映画究極ガイド」内の韓国ホラー特集にてこの場面カット(↑)と共に紹介されており、これは好きそうと思っていた作品です。単純に「あ、可愛い」っていう、それだけの理由です。
誌面での紹介文は「継母にいじめ殺された姉妹の古典幽霊談『薔花紅蓮伝』を端正な映像美で焼き直した」という簡潔なものでしたが、このビジュアルで「端正な映像美」ならそれはもう当たりだろうと。そして期待通り、大当たりでした。
てなわけで、この場面カットを見て「好きそう」と思った方、きっと好きです。作風でいうと、パク・チャヌク監督の作品などお好きな方はストライクじゃないでしょうか。
以下、やや濁しつつネタバレも含みます。ご興味があって未見の方は鑑賞後に読んでいただいたほうがよろしいかと思います。
ただただ性癖に刺さる
直感が的中したときは嬉しいもので、予想通り刺さる刺さる!と大喜びの本作でございました。ふたつ前の記事で『ミスミソウ(2018)』にちょっと微妙な反応をしてしまったのですが、今思うとどちらもキービジュアルが似ていますね。
このビジュアルから『ミスミソウ』に期待していた(が、あまり得られなかった)ものは、もしかしたら本作『箪笥』のそれだったのかも、なんてめちゃくちゃ勝手なことを思いました。足りないものを求めて本作に手を伸ばしたのかも。
同じように刺さった作品として、最近ではパク・チャヌク監督の一連の作品があります。特に『渇き(2009)』『お嬢さん(2016)』あたりで見られる女性のフェティッシュな描き方は大好きなところでした(ついでに「壁紙」が印象的なのも通じます)。
わたしのフェチ心をくすぐる要素に「衣装の質感」というのがありまして、そういえばかつて『ゲーム・オブ・スローンズ』にハマった理由のひとつにも衣装の美しさがあったなあなどと思うのですが、それもこれらの作品に共通していますね。とにかく女性が魅力的に、より具体的に言うならば妖艶に撮られている作品が大好きなわけです。
なお、本作で妖艶担当なのは先ほどから出ている少女ではなくて「継母」のほう。劇中では悪役となるわけですが、あまりにも「好い」のでむしろ好きになってしまい物語を味わう上で支障をきたしました。
皆様におかれましては、わたしの好みをすっかり掌握されたことと思われます。こういうのが好きです。性癖をこれ以上さらけ出すのもあれなので、同志の方はぜひ本作ご覧ください。
気持ちのいいミスリード
ホラー特集で紹介されていた作品なのでまあホラーだろうとおっかなびっくり観ていたのですけど観終わってみるとホラーよりはサスペンス要素のほうがメインかつ非常に面白い作品で、決定的な種明かしがされるシーンでの「なんか変だと思ってたんだよ!!」感は不思議と気持ち良かったです。
本作のミスリードは巧妙というより少し粗を見せたものになっていて、まずなんといっても冒頭。「二人も乗ってたの?!」っていう。あれは明らかに違和感を覚えさせる部分でしたから、種明かしがされたときの「だよね?!」が強くて、鬱屈とした物語ではあるもののそれなりにカタルシスを得られるつくりだったのがエンタメとして秀逸でした。
「あらすじ」が加担しているところも大きいと思うんですよね。例えば最初に引用した別冊映画秘宝の「継母にいじめ殺された姉妹の古典幽霊談『薔花紅蓮伝』を端正な映像美で焼き直した」という紹介文。またはWikipediaの「田舎の家に帰ってきた姉妹と継母との確執、崩壊していく家族」。映画.comには「人里離れた家に住む一家の継母と美しい姉妹の確執」とあります。DVDのパッケージ等に書かれた公式のあらすじも大体似たような内容です。
これらのあらすじは「これから何かが起こる」印象を与えるもの。しかし実際は時系列が異なるし、そもそもあらすじ自体が正確ではない。しれっとテキトーなことを言うあらすじ、もしかしたらホラー映画の常套なのかもしれませんが(あまりコテコテのを観たことがないので分からないのですが)、してやられたなあと。
種明かしされたとて全てが腑に落ちるわけではないけれど、個人的にはすごく好きな予想外でした。ただでさえ性癖には刺さってるわけですからね。文句のつけようがございません。最後に数枚、場面カットをダメ押ししておきましょう。
(2021年26本目/PrimeVideo)