『新感染 ファイナル・エクスプレス(2016)』『新感染半島 ファイナル・ステージ(2020)』などのヨン・サンホ監督によるNetflix映画『サイコキネシス -念力-』を観ました。
主演はシム・ウンギョンさんとリュ・スンリョンさん。シム・ウンギョンさんは最早ぺ・ドゥナさんを上回るくらい日本でも大活躍の女優さんで、最近だと『新聞記者(2019)』にて松坂桃李さんとW主演をしていたりします(気になりつつまだ観れてないんですけども)。
リュ・スンリョンさんは、2019年に韓国で『パラサイト 半地下の家族(2019)』よりもヒットした『エクストリーム・ジョブ(2019)』の主役のおじさんですね、っていうの全然気付かなくて、映画の内容とも相まって後からすごいびっくりしてしまいました。
じつはこのふたりは『新感染』シリーズの前日譚的アニメ作品『ソウル・ステーション/パンデミック(2016)』でも共にメインキャラクターの声優を務めています、っていうのも後から知りました。そんなのばっかりです、はい。
超能力おじさんの覚醒
さて、タイトルからしてどうひっくり返っても超能力ものではあろう本作、超ざっくりまとめると「甲斐性なしの父親が超能力を手にして家族のため闘う」お話です。
前半は明らかにコメディで、さらには「チキン屋」まで出てくるもんだから『エクストリーム・ジョブPART2』みたいな感じなんですが、意外や『エクストリーム・ジョブ』よりもこっちのほうが先!という。しかも両方とも主演がリュ・スンリョンさんであるという。いろいろ驚きました。これはもう姉妹編と言ってしまっていいでしょう。
そんなリュ・スンリョンさん演じるバツイチ子持ちおじさんは、「タバコ吸おうと思ったらライターのほうから飛んできちゃった」ってなことから超能力に突如目覚めます。最初はちょっとしたものを動かせる程度でしたが、その力はいつしかマグニートーばりに。最終的には想像を絶するレベルの覚醒を果たします(めっちゃ笑った)。
あの感じは、スーパーマンよりはスパイダーマンですかね。『シャザム!(2019)』あたりが一番近いかも。
彼が周囲の人々に超能力を披露しようとするシーンで「あれ? おかしいな……」なんてことには全く「ならない」のも精神衛生上とても好きでした。
ファンタジーの後ろにある現実
しかし、いくら軽いノリのコメディであっても背景はキナ臭いのが韓国エンタテインメイトです。本作の場合は、強引な再開発計画で立ち退きを迫られる市井の人々たちが国家権力まで敵に回して決死の闘いをする話がメインストーリーとなっていますし、ヒロインの母(=超能力おじさんの元妻)は地上げ屋の暴行により映画冒頭で悲惨な死を遂げます。
さらに調べてみると、2009年に起きた「龍山惨事」という事件がこの映画の下敷きになっているようでした。
龍山惨事は2009年1月20日早朝、ソウル龍山区(ヨンサング)漢江路(ハンガンロ)2街の南一堂ビルの屋上のコンテナで、立ち退き住民らと鎮圧警察の衝突で火災が発生し、立ち退き住民5人と警察1人が死亡した事件だ。(龍山惨事から10年…「私たちはまだあの燃えさかる火から抜け出せずにいる」 : 政治•社会 : hankyoreh japan)
また、劇中のとあるシーンはまさにこちらの記事の写真を再現したものであったことも分かります(中華料理店の話もきれいに重なります)。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』でそのものずばり朝鮮戦争の経過を再現したことにも驚きでしたが、本作のような振り切ったコメディ/ファンタジー作品においてもこれほどまで直接的な批判を混ぜ込んでくる韓国映画界のジャーナリズム精神みたいなものには、ただただ感服するばかりです。
最高のミスキャストなのでは
本作、主演ふたりの他にもうひとり、主演級の女優さんが出ておられます。それはチョン・ユミさん。そう、『新感染 ファイナル・エクスプレス』でマ・ドンソクの妻を演じ、『82年生まれ、キム・ジヨン(2019)』でコン・ユの妻を演じた、『保健教師アン・ウニョン』のチョン・ユミさんです(宣伝)。
わたしは彼女の「目が笑ってない感じ」が大好きで、本作もじつは彼女見たさに観たんですよね。なかなかの怪演と聞いて期待していたのですが、待ちに待ってようやく登場したチョン・ユミ様は遥か期待以上でした。うわ、こんなチョン・ユミもあるのか!!と思った。
なお今回チョン・ユミさんの役どころは超悪役でございまして、本来であれば彼女の「何か」がグチャッとされるシーンではざまあ!!とカタルシスを得なければならないのですけど、正直それ以前に魅力的すぎてですね。うわ〜〜好き〜〜!!ってなっちゃってだめでした。ミスキャストです。チョン・ユミさん好きな方はぜひご覧になっていただけたらと。
(2021年21本目/Netflix)