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映画「子猫をお願い(2001)」感想|のどかなコメディかと思ったら。後の「はちどり」にも繋がる作品

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韓国映画子猫をお願いを観ました。ぺ・ドゥナさんの初期主演作品としてタイトルは以前から知っていましたが、観るのがだいぶ遅くなりました。

ぺ・ドゥナさんは山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ(2005)』や是枝裕和監督の『空気人形(2009)』などに出演していることもあり、日本での知名度がひときわ高い韓国女優です。もちろん本国においても、ポン・ジュノ監督のデビュー作『ほえる犬は噛まない(2000)』や『グエムル-漢江の怪物-(2006)』、パク・チャヌク監督の『復讐者に憐れみを(2002)』など傑作の数々に多く出演しています。

わたしの場合は前述の日本映画2本を偶然先に観ていたので、韓国映画漬けになるより前から馴染みのある女優さんでした。そしてだいぶいろんな作品や役者さんを知るようになった今でも、やはり唯一無二の存在だなと思います。ていうか一度見たら忘れられないでしょう、彼女の顔は。

なんとなく『梨泰院クラス』『The Witch/魔女(2018)』のキム・ダミさんあたりがこのポジションの後継かな、とか思っておりますが、果たして。

これはどういう話なんだろう

始まってしばらくは物語の方向性がまるで掴めず。タイトルからして子猫が出てくることは確定だろうし、てっきりニャンダフルでエモーショニャルなコメディかと思い込んでいたのですが、どうやらそうではないみたい。

女子高校生の仲良し5人組がキャッキャと遊んでいるところから始まり、お話はすぐ数ヶ月後に飛びます。彼女らは大学に進学せず社会へ放り出されたばかり。制服姿の無邪気なあの頃がもはや遠く思えるような日々をそれぞれに送っているようです。予想外にヒリついた雰囲気が続くのでこれは何かとんでもない秘密があるぞと固唾を飲みます。が、またしてもそうではないみたい。

結局これ、様々な現実と向き合ったり抵抗したりしながらどうにかやっていこうとする少女たちの成長譚というか、そういう比較的地味な物語だったんですね。キム・ボラ監督の『はちどり(2018)』などはまさしく本作の系譜にある作品と言えそうです。またどちらも女性監督の作品となっています(調べたらキム・ボラ監督は本作が大好きだとか。納得!)。

全体的にビターな本作ですが、最後に一応スカッと晴れてくれるのが嬉しいです。今は疎遠になっていくとしても、この先厳しい人生になろうとも、彼女らの未来には『サニー 永遠の仲間たち(2011)』的再会がきっとあるはず。あってほしい。

はみ出し雑感

  • 子猫が名演! 本物の子猫を使っていて(そらそうでしょうけど)めちゃめちゃ可愛い。引き剥がされるのを嫌がるところとかどうやって演出したんだろうってくらい感情が見えてすごい。

  • チョン・ジェウン監督のインタビューによれば、この当時はまだ女性監督というのは非常に珍しかったそう。「女性監督というだけで女性の観客から支持されるんです。逆差別じゃないかとさえ思うこともありますよ」。ちなみに監督ご本人の性格は、劇中のキャラクターでいうとペ・ドゥナの演じたテヒに最も近いそう。

  • DVD特典のぺ・ドゥナさんインタビューを観たら、ロングヘアーかつ女優!モデル!って感じの佇まいでとても驚いた。これまで観た作品、どれもボーイッシュかそうでなくともショートヘアーだったから。役者さんってすごい。このスタイルで出演している作品はあるのだろうか。

  • ヘジュ役イ・ヨウォンさんはちょっと歪んだ顔立ちが魅力的な「ともさかりえ顔」で親しみやすかった。わりと嫌味なキャラではあったが、あとから思い返すとハッとするような背景がいろいろある。特に印象的なのは穴掘りのシーンで「共同生活って大変なのよ。わかってないわね」と言うところ。両親の離婚を経験している彼女ならではの台詞である(彼女の家の窓ガラスが割れる冒頭のシーン、外から割られたのかと思っていたが夫婦喧嘩で中から割られたものだったと観直して分かった)。

  • メール演出からドット絵の世界地図に繋がるオープニングが巧い。ちゃんと伏線にもなっている。そのほか、観直して気付く細かい描写が沢山あった。今観ているシーンではジヨンが喫茶店で水しか飲んでいない。うわ、仁川港からのジヨンとテヒの会話も伏線だらけだな……。

  • ジヨン役オク・チヨンさんは、それこそ『はちどり』のウニ(パク・ジフさん)を思わせる「やさぐれた浅田真央」的お顔。『はちどり』を連想しやすかったのも彼女がいたからかも。彼女が住んでいた仁川の貧民街は強烈だが、これもやはり『はちどり』のソンス大橋崩落事故と対になるような出来事に思えてきた。

  • ことあるごとに推している「耳野郎の奥さん(from『愛の不時着』)」ことチャン・ソヨンさん、本作にも出ている。ヘジュの会社に入ってくる大卒の新入社員B。ほんの一瞬なのでよほどの愛がないと気付けないかもしれない。調べてみるとなんとこれが初の映画出演だった。いいものを見れた。

  • さらになんと、ぺ・ドゥナ演じるテヒの母親役はぺ・ドゥナの本物のお母様が演じているらしい。観直してみると、確かに間違いなく血の繋がった顔をしていた。気付かなかった。

  • テヒの実家のサウナ屋で「埴生の宿」がピロピロ流れるシーンがあり、あとでテヒはミャンマービルマ)人にナンパされている。「埴生の宿」と『ビルマの竪琴』の関係性を考えると深読みしたくなる。

  • 双子ちゃんがテレビを観てるシーン(鏡トリックみたいなことになっているシーン)、なんか既視感……と思ったら『復讐者に憐れみを』でぺ・ドゥナがシン・ハギュンと並んでテレビを観てるシーンじゃないか。パク・チャヌク監督もしかして“インスパイア”されましたか。

  • チャミスルの空き瓶を回して、っていうゲーム、『梨泰院クラス』にも出てきたなあ。つくづくチャミスルの緑瓶は韓国の風俗描写において必須アイテムである。

  • 高卒の人間として、こういう話は身に迫るものがある。

などなど。感想を書きながら観直していたら気付きも多くて、これは2回以上観たほうがいいやつですね。どんな映画でも本当はそうしたいんですが。

(2021年13本目/TSUTAYA DISCAS

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