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映画「羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(2019)」雑感|ちょっとこれは、感想を書くのも野暮な面白さです。

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『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』を観ました。中国のアニメーション映画で、非常にクオリティが高いとだいぶ前から話題になっていた作品です。

日本では2019年9月から字幕版が小規模上映されていたようですが、好評を受けて2020年11月より花澤香菜さん、宮野真守さん、櫻井孝宏さんら豪華声優陣による日本語吹き替え版が拡大公開されています。今回は立川シネマシティにて、吹き替え版の音響監督・岩浪美和さん自ら調整した「絶対領界音域 極上音響上映」で鑑賞してきました。

で、いやあこれは、すごかった。クオリティ云々とか軽く飛び越えて本当にすごかった、面白かった、可愛かった、いい映画だった。個人的には、初めて『サマーウォーズ(2009)』を観たときの衝撃を思い出しました。これ金ローで毎年恒例にならないとおかしいよね??と思うくらいでした。

あれが良かったこれが良かったと細かく書いていくのは野暮な気がしてならないのですが、絵師さんでもない以上それを書いていくしか表現方法はないんだものということでやむなく野暮にあれこれ書いてゆくことにします。しいて言えば、あらすじは要らない! 割愛! もっと言えば、こんな野暮はスルーして観ていただくのがベストです。

ひとまず読んどくわという方は、そういうことならまあ、お付き合いください。

とりあえず、面白い。

これですよね、とにかくまずはこれ。完全オリジナルの作品で、しかも馴染みのない中国の作品で、こんなに違和感なく面白いのか!!という驚き。というか「中国の作品」を観ている感覚は全くなかったです。知らずに観たら間違いなく日本のアニメだと信じて疑わなかったはずです。

面白さの秘訣その1は、巧みな「省略」によるスピーディーな展開。こうなって!! こうなる!!ってな具合に めちゃくちゃ展開が早い。でも初見でしっかり理解が追いつく。「説明不要」のジャッジがものすごく正確であるというのと、ふんだんに使われている「アニメ的文法」が日本人の慣れ親しんだそれそのままである、というところでしょう。

この「省略」をひときわハイセンスに生かしているのがギャグパート。本作かなりギャグの多い、それも天丼ギャグの多い作品で、具体的には「逃げる」「捕まる」の流れが中盤で何度も何度も繰り返されるのですが、んもう、これがね〜〜、重ねれば重ねるほど「愛しさが増す」ばかりなんです。ほんと可愛い。

面白さの秘訣その2は、次々繰り出されるわくわく展開。なんていうか、あれ?これってジャンプの人気連載でしたっけ? って思っちゃうくらいに少年漫画要素山盛りといいますか、「能力」やら「属性」やらといった「設定」が説明もなく次々と出てくるんですよね。でもそれが、分からないなりに無限の可能性を秘めているように感じられてですね、うわー飛んだー!!みたいな、超現実的現象にいちいちときめくんですよね。この歳でこんなわくわくさせられることなかなかないぞ、って思いましたね。

また、物語の舞台がどんどん変わっていくのもわくわくで。最初は森の中から始まるんです。で、どうやら妖精さんのお話らしいわけです。じゃあずっと森が舞台なのかなと思いきや、ほどなくしてイカダで大海原へ放り出され、辿り着いた次なる陸地では突然「スマホ」が登場するわけです。え、文明社会じゃん。そう文明社会なんですよ、と最終的には高層ビルの立ち並ぶ都市部で物語は急展開を見せることになります。うわーすごい、わくわくがぶっちぎる。

あらすじは要らない! と書いたのは、この「予想のつかなさ」がより面白さを高めると思ったからです。まあ少々書いてしまいましたが。大丈夫、これでもまだ全然、何も伝わってないはず。

当然ながら、キャラクターが魅力的。

主人公は、タイトルにもなっているシャオヘイ(小黒)。妖精さんで、黒猫の姿だったり少年の姿だったりします。この子がね、とにかく可愛い。花澤香菜さんなんだからそりゃ可愛いでしょうよってのも勿論そうだけど、いやそれ以前に一挙一動すべてが愛おしい。おいしいもの食べたら目がピカーーーン!!ってするんですよ。ギザカワユスでしょう。

そんでこの子は、住んでた森を開発で奪われちゃったので人間が大嫌いなわけです。だのに、ムゲン(無限)さんっていうめっちゃ強い人間(千と千尋のハク似)にさらわれて、おめえ人間のくせに妖精みたいな能力まで使えてちょーむかつく!!やなやつ!!ってバタバタしてるとこを反抗むなしく連れていかれるんですけど、ちょっといいやつかも、なんて心を許しちゃう瞬間もあったりして、いつしか師弟関係っぽくなっていくんですね。

このふたりが本作のメインキャラクターということになるんですが、これ一応、物語の流れに乗って観ていくとですね、シャオヘイが思うように観客もムゲンのことを「敵認定」している状態から始まるんですよ。で、やはりシャオヘイと同じように「ちょっといいやつかも」と見直していって、最終的にはおんおん号泣するレベルのムゲンさんスキーになるので覚悟していてください。うまいなあ。つくりが。本当にうまい。

そのほかにも、たった2時間尺の単発オリジナル作品とは思えないほどにキャラクターは大勢出てくるのですが、登場時間の少ないキャラクターでも「こいつはしっかり作り込まれたキャラクターです」という説得力がしっかりある。つまり「モブ感」を感じさせないのがすごかったですね。余談ながらこういう充実の「キャラ」を見ると、小学生の頃ノートにそういうのみっちり書き込んでた、設定オタクで絵の上手いクラスメイトを思い出します。何かをゼロから生み出せる、ああいうクリエイティブな子に憧れてたなあ。ああいう子がそのまま大人になって、こういう作品を作るんだろうなあ。

細かいところ、ということで言えば、一般市民をおざなりにしない演出が非常に好感でした。都市部でサイキックバトルが繰り広げられる後半においては、どうしたって「めちゃくちゃ人間死んだのでは」案件が発生するわけです。あるあるです。しかもこの作品は「妖精と人間の共生」がテーマなので、そんなことあっちゃいけないんですよ。さあどうする、評価の分かれ道だぞと思っていると、なんとこの映画、妖精たちが人間をめっちゃ避難誘導してくれるんですね。なんならそこにめっちゃアガる能力使って、見せ場にすらしてますからね。感服するほかございません。満点。

もちろん、作画もすごい。

「クオリティの高いアニメ」と聞いてまず想像するのは映像面かもしれません。本作はもちろんそこも間違いなし。ただ、アニメ作品で「映像が美しい」と言うと新海誠作品のように写実的な背景美術をイメージしがちですけど、本作での背景美術はある程度ディティールを簡略化したセル画的「塗り感」が魅力で、それによるキャラクター部分とのマッチングが非常によいのです。背景美術とキャラクターのタッチが近く、1コマ1コマが「一枚の絵」として統一感を持っているんですね。

デジタル製作であるのは当然として3DCGを使って作られた部分も多いはずですが、表面上はあくまで2D的表現にこだわった、必要以上に陰影やテクスチャをつけない、いい意味での「のっぺり感」が本作の持ち味。鉄がコンニャクに見えるようなのって、あんまり今時のアニメでは無いんじゃないでしょうか。そんなところがかえって好きでした。

作画に関しては特に映画館の鮮明な大スクリーンでじっくりとかぶりついてこその感嘆もあるはずなので、ぜひ劇場公開中にご覧いただきたいです。てなところで尻すぼみになりつつ、このへんで野暮は打ち止め。羅小黒戦記、ものすごくおすすめいたします。

(2020年209本目/劇場鑑賞)

花澤香菜さんを迎えた「アトロク」での特集(監督コメントあり)&アニメーター井上俊之さんが羅小黒戦記の凄さを語る別冊ポッドキャスト、ともに充実の内容です。