映画「あなた、そこにいてくれますか(2016)」雑感|感覚的に楽しめる、良質なタイムトラベル・ラブストーリー
韓国映画にハマってるんだったら観てみて、と教えてもらった『あなた、そこにいてくれますか』を観ました。コテコテのメロドラマみたいなタイトルですが(原題も同じ)、その内容は意外にファンタジーなタイムトラベル系ラブストーリー。フランスのベストセラー小説が原作となっています。
あらすじ
「もしかして、叶えたい願い事があるかね?」
2015年。医療ボランティア先の村で、医師のハン・スヒョンは盲目の老人から感謝のしるしに妙な錠剤を貰った。その薬を飲んで眠ると、願いが実現するという。
「もう一度会いたい人はいますが……」
30年前に亡くした恋人。いっときも忘れたことはない。もう一度会えるなら……。そう思って目を閉じると、彼は1985年の釜山にいた。そしてそこで、恋人と平穏に交際している若き日の自分と対面する。
雑感
悲劇のラブストーリーとファンタジーなタイムトラベル(タイムリープ)要素がうまくマッチした、陳腐な感想ではありますが普通にいい映画、おもしろい映画でした。
過去の自分と対面した主人公が、どうにかして自分を「未来から来た自分」だと分からせようとする様。分からせたと思えば今度は当然、未来を知りたがる過去の自分。自分から問い詰めたくせに「数日後に彼女が死ぬ」ことを知ってしまうと今度は悶え苦しむ過去の自分。過去で彼女を救うことは可能だがしかし未来の自分にも家族はおり、タイムパラドックスを起こせないジレンマ。未来はどうでもいいから今を大事にしたい過去の自分と、未来の自分とのせめぎあい。
タイムトラベルというのは非常にファンタジーでありながら、同時に非常に一般化された概念でもあって、現実にそんなことは起こらないと誰もが知っていながら、しかし誰もが自然と入り込めてしまう、不思議なものだなあと改めて思いました。時間と記憶、人にとって最も身近な要素なのでしょうね。
そんなわけで一見とても王道のタイムトラベルものである本作ですが、「うたた寝」程度の短時間しか滞在できないルールになっていること、「錠剤」が10粒しかないこと、現在も過去も主人公が「医者」であること等の設定によるひねりが新鮮味も与えてくれます。
中途半端に何かを言い残した主人公は、毎度不本意に「現在」へ帰ってくる。煮え切らない情報に苛ついた30年前の自分が、奇策を凝らして「未来の自分」へ何らかのコンタクトを試みる。いくつも錠剤を消費してどうにかいい方向に導いたはず、と一安心したところに、どうやら過去の自分が勝手な行動をしたらしいことが「結果」として見えてくる。錠剤の残りは少ない──。王道の展開かと思いきや途中から「並行世界線上の自分同士のバトル」になってくるという、まあタイムパラドックス面の強引さは否めないものの感覚的に楽しめてすごく好きでした。
それにしても「2015年」「1985年」「30年間隔」、これは言わずもがな『バック・トゥ・ザ・フューチャー(特にPART2)』と同じキーワードですし、同作へのオマージュが強いNetflixのドラマ『DARK/ダーク』も「2019年」「1986年」「33年間隔」がキーワード。タイムトラベルものはこのあたりの設定が作りやすいんでしょうか。
キャストのこと
現在の主人公を演じるのはキム・ユンソクさん。『チェイサー』の方でしたか。観なきゃな(→観ました)。ソン・ガンホにチェ・ミンシク、こういった骨太なおっさん俳優陣が韓国映画界は充実していますね! 日本のおっさん俳優陣はもういくぶん線が細いイメージなので(パッと浮かんだのが松重豊さんとか。『バイプレイヤーズ』を思い出しても細身がずらりと並んでいましたもんね)、若手俳優や女優さん以上に韓国特有だなと感じます。
どっしりとしたキム・ユンソクさんに対し、一転「塩顔イケメン」な若かりし日の主人公を演じるのがピョン・ヨハンさん。いやあこの方、いいですね。日本だと綾野剛さんとか(髪型のせいもあるけど)、海外だとジェームズ・マカヴォイとかそんな雰囲気の。好きです、彼。30年でこんなに骨格まで変わるものかと思わなくもありませんが、それを言ったらマカヴォイだってパトリック・スチュワートになりますからね。
そしてこれ、今回最大の驚き。30年前に死んでしまう(はずの)ヒロインを演じたチェ・ソジンさん。この方すごく可愛くて魅力的で、キム・オクビンさん(『渇き』『悪女/AKUJO』等)にも似てるなあ、韓国こういう好みストライクの女優さんばっかで困っちゃうなあと思ってたんですけども。観終わって真っ先に調べたら、なんと、キム・オクビンさんの妹だった。マジか!!
こいつはどえらい美人姉妹だわ。ケイト・マーラがルーニー・マーラの姉だったと知ったときも驚いたけど、今回は姓が違うからもっと驚いた。でも、びっくりしたのと同時に自信もつきました。「同じ血」を感じ取れるくらいには、韓国女優さんの区別がつくようになってきたんだなというか。自分の好みがそれなりにはっきりしてることの裏付けが取れたというか。本作いちばんの収穫はこの事実を知れたことですね、えがったえがった。今後はおふたりとも応援してゆきます。
あと、これも全然気づかなかった。主人公の「現在」の愛娘スアを演じるパク・ヘスさん。『スウィング・キッズ(2018)』の彼女じゃないですか。身長が変わるような年齢でもないと思うのだけどだいぶ印象が違うなあ。
以上、とても楽しめた一本でした。ああそう、主人公の親友テホ(キム・サンホさん&アン・セハさん)も本当にいい奴で、彼の部屋にしっかり日本のみかん箱が置いてあるところとかね、演出の丁寧さを感じました。監督のホン・ジヨンさんは女性なんですね。過激なベッドシーンなどはなく、家族で観るにも適した映画だと思います。おすすめです。
(2020年202本目/U-NEXT)
- 作者:ギヨーム・ミュッソ
- 発売日: 2017/10/05
- メディア: 文庫