パク・チャヌク監督作品「イノセント・ガーデン(2013)」雑感|フェティッシュと暴力性は健在の(でもちょっと物足りない)ハリウッド進出作
ニコール・キッドマンらが出演している、パク・チャヌク監督のハリウッド進出作『イノセント・ガーデン』を観ました。『スノーピアサー(2013)』からポン・ジュノ監督に入ったわたしが言うのもなんですが、韓国の映画監督は韓国で韓国の映画を撮ってくれたほうが真価を発揮すると思っているので、なかなか観るモチベーションの上がらなかった作品です。
『スノーピアサー』はポン・ジュノ監督のハリウッド進出作で、パク・チャヌク監督も製作で参加しています。もちろんどちらもクオリティは高いのですけど、自国での作品と比べた時にはいくぶんか地味な印象を持ってしまいます。これらの作品は韓国映画にまだ馴染みのない人が、少なくとも監督を知るという意味での入り口として観るのには適しているのかなと思います。と結論めいたことを書いておいてなんですが、『イノセント・ガーデン』おもしろかったです(説得力のなさ)。
あらすじ
少女インディア(ミア・ワシコウスカ)は18歳の誕生日に父を亡くした。事故死だった。母を慕っていなかったインディアは、父の死に塞ぎ込んだ。葬儀の日、疎遠だった叔父チャーリー(マシュー・グッド)がふいに現れた。ずっと海外を旅していたという。チャーリーはそのまま家に居着き、未亡人エヴィ(ニコール・キッドマン)の心の隙間に入り込んだ。時を同じくして、家政婦の失踪など妙なことが続いた。
インディアは初対面の叔父が好きではないが、なぜか気になって仕方ない。チャーリーの視線も、じつのところは母エヴィではなく自分に向いているようだった。一体どういうことなのか、静かな日々のなかで何が起きているのか。
雑感
人間ではない存在の三部作?
パク・チャヌク監督のフィルモグラフィーにおいて本作は『サイボーグでも大丈夫(2006)』『渇き(2009)』から続く「人間ではない存在の三部作」という枠組みの中にあるそうです、と『サイボーグ〜』のときに書いたのですが、インタビューを漁っていたらどうやらこれは冗談交じりに言ったことらしいですね。
チャヌク監督は主題の継続性を否定した上で、「さかのぼること『サイボーグでも大丈夫』(06)、『渇き』(09)、そして『イノセント・ガーデン』の三作は順番として連続しているので、半分冗談で"人間ではない存在の三部作"と皆の前で言ったことがあります(笑)」と、"復讐三部作"に続く新章の幕開けを宣言(鬼才、パク・チャヌク激白 「『イノセント・ガーデン』は復讐三部作に続く新章!」 - ライブドアニュース)
「人間ではない存在」というと文字通りの意味で想像してしまいますが、実際には「人ならざるもの」くらいの言い方がニュアンスとしては近いんでしょうか。他作品のネタバレになってしまうのであまり詳しくは書けないものの、どの作品の主人公もベースは人間であり、特に本作は限りなく人間だと思います。
とまあそんな余計な先入観があったせいで、あったおかげで、「これはどういう話なんだ??」と最後まで緊張感を保って観ることができました。んでもって最後まで観てもはっきりするわけではない曖昧なところが本作の魅力かもしれません。
好きなシーン
あ、これはすごいなと思ったのは「ピアノ連弾」のシーン。“突然入ってきて、え、でもなんなのこの人、すごく相性が、いい……。” こんなにもエロティックな演奏シーンがあるだろうかという、映画史に残るレベルの名シーンでした。性行為のメタファーとしてこれ以上のものはないんじゃないでしょうか。必見です。
あとはパク・チャヌク監督の作家性が垣間見れるタイトルクレジットの遊び心や、細かい編集技法の妙、すごく韓国を思わせる茹で卵の剥き方(テーブルでごりごりごり〜〜って絶対やりますよね。何度見たことか!)等々、ああしっかりパク・チャヌクしてるな〜〜と嬉しくなる部分が随所にありました。
あのふたりが共犯関係になる森のシーンなども、『渇き』の後半を思わせる「人ならざる」感で良かったです。白いワンピースで人を殺める。暴力とフェティッシュ、パク・チャヌク作品の魅力は何といってもここですよね。
でもどこか印象に残らない
よかったんですが、おもしろかったんですが、韓国映画特有の風俗描写、一種の臭さ、そういうのを求めてしまうとやはり物足りないところがあります。韓国語の響き、韓国の食文化、そのへんひっくるめて韓国映画なんですよね。もちろん本作はアメリカやイギリスで製作されたものであり韓国映画ではないんですけど、「パク・チャヌク作品」として見るとやや薄味。フェティッシュ、暴力、そして「韓国」。この3要素が欲しいところです。
ちなみにそれは韓国での興行成績にも現れていたようで、監督曰く「なぜか最近、韓国の観客って韓国映画が大好き」なこともありあまり振るわなかったのだそう。インタビューのなかで監督自身が「物足りなさ」について分析していました。
韓国人も日本人も独特で強い国民性を持っているので、自分たちの人生や感情を汲み取って描写してくれる芸術作品に惹かれるのかもしれません。“ヤンニョム”というのですが、韓国料理の調味料は刺激的ですよね。それに韓国人は歴史的にもつらい時期が長かったので、感情的に激しいんですよ。だから、アメリカのブロックバスター映画ではなく、ドラマ重視の作品だと刺激が足りずになかなか満たされないのかもしれません(笑)。(『イノセント・ガーデン』パク・チャヌク監督インタビュー:ミア・ワシコウスカは「こんなに演技しなくて大丈夫?」と思うほど、じっとしていることが多かったです。)
でもこの経験を経てのあの刺激的な『お嬢さん(2016)』ですからね、今後のパク・チャヌク作品には頼もしい期待しかありません。さて、これでひとまず主要な作品は観てしまったことに。ううむ寂しい。
(2020年196本目/U-NEXT)