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ジャック・ドゥミ監督作品「ロバと王女(1970)」雑感|大好きなタイプの妙ちきりん映画

シェルブールの雨傘(1964)』『ロシュフォールの恋人たち(1967)』などで有名なジャック・ドゥミ監督の作品ロバと王女を観ました。主演は常連のカトリーヌ・ドヌーヴ、音楽も同様にミシェル・ルグラン。ですがちょっとマイナーな作品というイメージがあります。

今ちょうど池袋・新文芸坐ミシェル・ルグランの特集上映が行われており、以前観て好きだった『ロシュフォールの恋人たち』と前々から観たかった本作の2本立てといううってつけの回があったものの、都合が合わず行けなかったのでこの機会に配信で観ることにしました。

さて、そのタイトルからなんだか硬派な作品なのかなと想像していたのですが、どっこい相当に変な映画でございました。なにせ冒頭いきなり、王妃を亡くした王様が自分の娘たる王女に結婚を迫るのです。おまけに娘も「確かにお父様のこと愛してるし……」とまんざらではなく、浮世離れした存在であるはずの妖精から「どんな教育を受ければその理屈が出てくるのよ」と呆れられる始末。妖精が一番マトモだもんで「そもそもなんで妖精が」とか言うわけにもいきません。

お伽な映像世界も好き放題。人も馬も青いし、ロバは肛門から金銀宝石を産むので大切にされている。なんだこれは。ただ如何せんわたしはこういったシュールでシニカルな世界が、半笑いで観るほかない世界が大好きなので内心大喜びです。しかもただ妙ちきりんにファンシーなだけかと思いきや、ときに見惚れるほど美しかったりもして。ずるいぞ。

そしてジャック・ドゥミ作品に欠かせないミシェル・ルグランの音楽。本作に関して言えばミュージカルにしなくても独特の世界観だけで十分成り立つような作品だと思いますが、冒頭からカトリーヌ・ドヌーヴ(本人ではないけれど)が歌う奇妙で不穏な愛の歌、恋の病にかかった王子が歌う美しい歌などこの音楽たちがどれもこれも珠玉の出来で、ミシェル・ルグランやっぱりすごいな、えも言われぬ名曲たちを無限に生み出してくるな、とあらためて感動したのでした。

ところでミシェル・ルグランは近年の椎名林檎に通じるところがあるかも、とお菓子作りの曲『Recette pour un cake d'amour』を聴いたときに思ったり。

パッと連想したのが『二人ぼっち時間』という椎名林檎の曲。歌い出しの部分(※試聴範囲では出てこない)がすごく雰囲気似てるんですよね。歌詞もドルチェ作ってグラッチェ!ですしね。

ちなみにちょっと調べた限りでは、林檎女史ご本人の認識はこんな感じ。

ビートルズミシェル・ルグランを、人からよく「好き?」と聞かれがちで、今となっては好きでもちろん光栄なのですが、大人になるまで聴いたことがなかったですから不思議でした。もともと幼少期の音楽体験に古典的で似たようなものがあったのではないかと想像しています。ドビュッシー以前の作家の作品とか。椎名林檎セルフカバーアルバム第2弾「逆輸入 ~航空局~」インタビュー|お客様の声に迅速にお答えした“直送便” (2/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー


そんな感じの『ロバと王女』でした。ヨルゴス・ランティモス作品(『ロブスター』『女王陛下のお気に入り』等)とか、ああいうナンセンスな映画がお好きな方は絶対好きなんじゃないかなーと思う一本です。ラストの「映画です!!!」っていう唐突な出来事も好き。映画はこうでなくっちゃ。これでこそ映画よ。

(2020年164本目/U-NEXT)