353log

主に映画の感想文を書いています

映画「潜水艦イ-57降伏せず(1959)」雑感|“和平の片棒をかつぐ”という戦時下の罪悪感

f:id:threefivethree:20200728202458p:plain

ハンターキラー 潜航せよ』の直後に東宝の潜水艦映画を観るという、なかなかいい感じの繋ぎをしております。先日書いた記事同様、アトロクの「元特攻隊の脚本家・須崎勝弥」特集を聴いて&春日太一さんの新著「日本の戦争映画」を読んで、のセレクトです。詳しくは前回の記事をご参照ください。

というわけで、1959年の東宝映画潜水艦イ-57降伏せずを鑑賞しました。上の記事に書いた『太平洋の翼(1963)』『連合艦隊(1981)』と同じく松林宗恵監督×須崎脚本の作品です。これは多分フィクション、なはずです。

本作の主役は、太平洋戦争のさなか最前線で活躍していたイ-57という日本の潜水艦とその乗組員たち。密かに敗戦が近づいてきていた頃、イ-57は某国の外交官をカナリー諸島まで送り届けるという非戦闘任務を命じられます。前線で戦えないことを訝しく思う隊員たちでしたが、外交官に同伴してきた若い娘を見て大興奮。しかし、この任務の目的が和平交渉であると知ってまた一転、「和平の片棒をかつぐわけにはいかん!」と猛反発するのでした。さてどうするどうなる。

大事な役どころ「外人の女」

この作品は「外国人女性が登場する」という特徴があります。男だらけのむさ苦しい艦内に、普段そうそう見れたもんではないであろうワンピース姿の可憐な外国人女性が突如現れたときの驚きっぷり、傑作です。カメラも思わずお尻を追ってしまいます(状況を考えればそうなるほかないでしょう)。演じているマリア・ラウレンティという方は、Wikipedia情報によれば本当にイタリア大使の娘さんらしいです。お美しい。

ただ、このミレーヌ嬢というキャラクターは艦内のマドンナになるわけではなく、意外と煙たがられていきます。そもそもが「来たくて来たんじゃない」スタンスなのと、みんな我慢してるのに水が欲しいだのなんだのうるさいし、さらには高熱で寝込んだりするもんだからすっかりお荷物扱いです。でもそんななかで、人情やら軍人魂やらいろいろあったりして、最終的にはミレーヌ嬢も日本のみんなに感謝するという、結構いい話へと展開します。

さらに、「元特攻隊の脚本家」こと須崎勝弥さんの脚本がいつも根っこに置いている「玉砕」へのアンチテーゼ的なもの(詳細はアトロクの特集でどうぞ)を、本作ではミレーヌ嬢に言わせています。よその国の目線から「死んじゃいけない」と言わせる、新たなバリエーションです。

非常に後味の悪いラスト

ミレーヌ嬢のおかげで画面は華やいでいるし、コメディタッチも絶好調。池部良さん演じる艦長&平田昭彦さん演じる軍医長ら塩顔イケメン俳優陣も眼福。海自の協力で本物の潜水艦を撮影に使用していたり、もちろん円谷特撮もふんだんに使われていたりと見どころ沢山。いい映画! と思いきやラストはかなりエグめでした。

非戦闘任務ですから、急襲を受けたりしても反撃したいところグッと堪えて潜航していたわけです。しかし敵艦に白旗振ってまで外交官父娘を一応は無事に送り届け、ミッション達成と相成ったところで、艦長はふうっと一呼吸。さっき白旗を振ったばかりの敵艦に「潜水艦イ-57降伏せず」と通信を打ち、これまでの賢明な判断は何だったんだという勢いで玉砕しに行きます。

これがまあ、ショックでしたね。それも決して美しい玉砕とは言えない描き方なのが非常に痛烈で、仮に玉砕を肯定するとしても、やだ、こんな玉砕やだ、もっと華々しく散りたい、そんな不完全燃焼感をあえて作り出していると思われるラストでした。

春日太一さんの著書『日本の戦争映画』にはこんなことが書いてあります。

「国のために死ぬ」ことを「当然のこと」「栄誉」として教え込まれ、それを果たすために軍隊に入り、そして自分だけが果たせなかった。戦死は「立派」であり、生き残ることは、「のめのめと……」ということになってしまうのです。春日太一「日本の戦争映画」p126-127)

池部良さん演じる本作の艦長はほんとうに賢明な人で、絶対に間違った判断はしない、絶対的な信頼を置けるような人物です。しかし最後の最後で、現代の基準で考えるとどう考えても間違った、ばかなことをしてしまう。でもそれは当時の軍人の倫理観でいうと絶対的に正しいことだったのかもしれない……。でなきゃ、あの艦長があんなことするはずがないもの。

つとめて真面目な人間たちの姿から、そんな当時の考え方をとてもリアルに感じ取れる作品だったように思います。ポツダム宣言受諾直前の物語ということで、『日本のいちばん長い日(1967)』など、今あらためて観るとだいぶ見え方が変わりそうです。今年は観ようかな。

なお劇中では、この悲しくもばかげた玉砕の翌日に原爆が落ちます。大きく映し出される「終」のエンドマークがえらくシニカルに見えました。

(2020年122本目/PrimeVideo)

潜水艦イ-57降伏せず

潜水艦イ-57降伏せず

  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: Prime Video
日本の戦争映画 (文春新書)

日本の戦争映画 (文春新書)