353log

主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「天国にいちばん近い島(1984)」雑感

f:id:threefivethree:20200509100341p:plain

大林作品履修期間、主要配信サイトで観れるものを概ね年代順に観ています(気分によって前後あり)。今回は1984年の天国にいちばん近い島を鑑賞。『時をかける少女(1983)』と同じく原田知世高柳良一の共演が見れます。

あらすじ

父を亡くしたばかりの万里原田知世は、父が生前よく話してくれた「天国にいちばん近い島」をこの目で見てみたいと思い、母に頼み込んで単身ニューカレドニアへと飛び立つ。異国の地で思いつくままに父との共通項を探し求める少女の旅行記

雑感

なんとなくタイトルやキービジュアルなどから期待値の上がらない作品ってあるのですがこれもそうで、しかしどっこい、すごくいい作品でした…。『さびしんぼう(1985)』もそのパターンだったんですよね。期待値の低い作品ほど内心期待するようになってしまうかもしれません。

(というわけで、一般的なキービジュアルではないシーンを冒頭に貼ってみました)

予測不能旅行記である

同名の書籍が原作なのですが、こちら旅行記らしいのですね。よってこの映画も、思いつきで単身ニューカレドニアへ旅立った少女の行き当たりばったりな旅行記となっています。

原田知世演じるヒロイン万里は、まずはツアー客として観光地を巡るもピンと来ず、怪しい日本人男性についていって大人の世界を体験したり、日系の青年に出会って淡い恋心を抱いたり、未開の島で寝込んだり、見ず知らずのご婦人にお世話になったりと、とにかく様々な出会いと体験をし、ひと皮むけて日本へ帰ってくる。それだけの映画で、けっこう特異です。

まあ、おしなべて大林映画は特異だと思われますが、ここまで観てきた他の大林映画とは大きく違う部分があって、「すごく普通」なんです。こんな「普通」な絵面の映画を撮れるんだ!と驚きました。それが逆にいい意味での想定外を生み出しているようにも思います。反戦のメッセージも他作品と比べるとストレートな語り口のように感じました。

音楽が素晴らしい

本作、最初の想定外は冒頭のタイトルバックでした。紙芝居の額縁に入ったタイトルがどーんと出てきた時点で「おっと? 昔のハリウッド映画っぽいぞ?」と思っていたら予感的中、まんま1930〜40年代あたりのハリウッド映画(MGMミュージカル映画など)を思わせる序曲が流れてきて釘付けに。

いやもうこれは……素晴らしいの一言です。こんな絶品の序曲から始まる映画、もうすでに名作が約束されたようなものです。つくづく大林監督は映画の「掴み」が巧いですね。(タイトルバック直後には、YMO高橋幸宏さんがこちらもまたどーんと登場して驚かされます)

劇伴を担当された朝川朋之さんはハープ奏者でもあるらしく、言われてみればハープが大変印象的に使われています。この曲だけ前情報なしに聴かされたら間違いなく黄金期ハリウッドの映画音楽だと信じて疑いませんし、まさかアイドルが主演の日本映画だなんて思いもしません。

f:id:threefivethree:20200509100725p:plain
キービジュアルになりがちなシーンはこっち

また、エンディングに流れる原田知世さん歌唱の主題歌「天国にいちばん近い島」も素晴らしいです。やはりこういう、作品と本当に対になったタイプの主題歌ってたまらないですね。

他に印象的な音楽としては、とあるシーンで意味ありげに流れる「テレマンのアリア」。調べてもあまり深い意味はなさそうなんですが、何か込めたものがあるのかな。

旅をしたくなってしまう

ステイホームが叫ばれる昨今、自分としてはそれなりに在宅生活の楽しみを見出してストレスなく過ごしていると認識していましたが、この映画を観たらうっかり「旅行欲」が湧き出てきてしまい、クソッ!めちゃくちゃ旅行してえな!と地団駄を踏みました。危険な映画です。

ひとり旅が趣味のわたしにとって、異国の地でツアー客としてではなく単身好きなように動き回るヒロインの姿はかなり理想的な旅のかたちでした。うっかり帰りそびれるなんて、もはや妄想の領域で最高ですよね。

当ブログの裏メインコンテンツことNY旅行記をついでに宣伝しておきます。マンハッタン島にわたしは行きたい。また行ける日が待ち遠しい……。

名言

終盤でヒロインがご婦人からもらう言葉。「いくらわがままを言っても、わがままを言い過ぎるほど人生は長くはないわ」。けだし名言。好きなように生きよう。

f:id:threefivethree:20200509100815p:plain
「花」の伏線が見事

「お父さんいつから二人になったんだろうねえ」というラストシーンも、最後の最後で泣かせてきます。いい映画だなあ。ほんと、すごく普通にいい映画なので、万人におすすめしたいです。白を基調とした衣装で、さながらオードリー・ヘプバーンのような可憐さを見せる原田知世さんも必見です。

(2020年70本目/U-NEXT)

天国にいちばん近い島

天国にいちばん近い島

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video