353log

主に映画の感想文を書いています

ポン・ジュノ監督作品「グエムル-漢江の怪物-(2006)」雑感

f:id:threefivethree:20200228185008j:plain

パラサイト 半地下の家族(2019)』のポン・ジュノ監督が2006年に公開した作品グエムル-漢江の怪物-(原題:괴물/The Host)を鑑賞しました。主演は『殺人の追憶(2003)』『パラサイト』のソン・ガンホ、『ほえる犬は噛まない(2000)』に引き続きの起用となったペ・ドゥナなど。

あらすじ

韓国北部を流れる河川、漢江。憩いの場として賑わう河川敷に突如「グエムル=怪物」が現れ、人々を喰い、再び川へ去っていった。愛娘を怪物に攫われてしまったカンドゥソン・ガンホは、微かな希望を頼りに捜索を始める。と同時にカンドゥは、怪物に濃厚接触したとして国から追われていた。

イムリーな怪獣映画

日本と違い「怪獣映画」という文化のない韓国において異例の大ヒットを記録したという本作。その内容は、今の、たった今の日本にとって非常にタイムリーなものでした。ざっくり言うと「未曾有の怪獣災害によってウイルス等の報道に振り回されたりする人々の話」。言わずもがなでございます。

ラストシーン、テレビのニュース番組が流れる食卓にて少年が言うこと。「テレビ消そうよ。ご飯に集中!」。その裏でアナウンサーが読み上げる文面。「今回のような事態を招いたのは誤った情報が原因と考えられます」。ああなんて、なんて悲しくも普遍的な……。

(ただこの「誤った情報が原因」というところについては文脈的にはまた違ったニュアンスを持つものだと思われるので実際ご覧ください。反米感情の強く出た作品らしいです)

音楽でより強く連想する『シン・ゴジラ』感

本作、中盤から気付けばなんだかものすごくいい劇伴が流れている映画でした。音楽を担当しているのはイ・ビョンウ(Lee Byung-woo)さんという方。ポン・ジュノ作品では『母なる証明(2009)』でもお仕事されてるようです。

この方、あんまりこういう言い方もよくないのかもしれませんがあえて言ってしまうと、非常に鷺巣詩郎さんっぽい曲を書かれる方だなと感じました。例えばこのへんの曲を聴いていただけると一目(聴)瞭然です。

すごいシン・ゴジラ(2016)』っぽくないですか。もちろん順番的には『シン・ゴジラ』が『グエムル』っぽいわけなんですが、鷺巣さんやシン・ゴジラオーケストレーションを担当した天野正道さん(同じく作曲家。そして作風が近い)などはいずれも50年代生まれ、イ・ビョンウさんが60年代生まれであることを考えると、それぞれに影響を受けたり与えたりしている可能性は十分にあるかと思います。

ストーリー的にはシン・ゴジラが政府側にクローズアップした作品だったのに対しこちらは民衆側に思いっきり寄っているので正反対ではあるのですが(通じる部分も同時にあるのですが)、特にこの音楽の力によって思わず連想してしまうこと必至です。内閣総辞職ビームが見える。

他には『ワンス〜』シリーズにおけるモリコーネ風味もところどころ感じたり。これについてはイ・ビョンウさんのインタビューで「モリコーネのようになりたい」みたいな発言を見かけたので確実に影響を受けており目指すところなのでしょう。

先日観た『ほえる犬は噛まない』に比べるとかなり「生理的に受け付けない感じの“文化の違い”」が前面に出ており序盤は「う〜ん……?」となってしまったものの、ポン・ジュノ監督お決まりの「ジャンルが変わっていく」ことでいつしかすっかり没入していました。終盤「エージェント・イエロー」が登場してからのなんとも言えない雰囲気が好きですね。グエムル=怪物のCGも安っぽさがなく、2006年にこのクオリティはすごいなと思います。一見の価値ありです。

(2020年34本目/PrimeVideo)

グエムル-漢江の怪物-(字幕版)

グエムル-漢江の怪物-(字幕版)

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Prime Video
とにかく「今」観ると非常に身につまされる映画体験ができると思います。いやはや、です。それと、橋好きとしては漢江に掛かる多様な橋たちにだいぶ魅了されてしまいました。韓国映画を観て初めて韓国へ行きたくなったかもしれません。