353log

主に映画の感想文を書いています

ポン・ジュノ監督デビュー作「ほえる犬は噛まない(2000)」雑感

f:id:threefivethree:20200221131924j:plain

あらためて『パラサイト 半地下の家族(2019)』とポン・ジュノ監督、アカデミー賞席巻おめでとうございます。というわけで、20年前に公開されたポン・ジュノ監督の劇場映画デビュー作ほえる犬は噛まないを鑑賞しました。

あらすじ

大学教員のユンジュはストレスが溜まっていた。同期が次々と教授に昇進していくなか、自分はすっかり乗り遅れてしまっている。家庭では歳上の嫁に頭の上がらない日々だ。そんな彼の逆鱗に触れたのが、団地内で毎日キャンキャンとうるさい「犬」だった。そもそもこの団地はペット禁止じゃないか。よその玄関先にそれらしき犬を見つけたユンジュは、衝動的に犬を誘拐、地下室に閉じ込めてしまった。

雑感

おーもしろーい!! 20年前にして既に『パラサイト』テイストのシニカルコメディ! 団地という小さなスケールの舞台を上から下まで存分に使った、非常に巧みな脚本の作品でした。なるほどポン・ジュノ監督、最初からこれはすごいわ…。

お話は、出世競争に乗り遅れた主人公が「犬」にまつわる大小様々なアクシデントに巻き込まれていくというもので、こう書くとホームコメディのように思えてしまうのですが、なんとも形容しがたい「そこはポン・ジュノって感じの仕上がりになっております。

登場人物は主にひとつの巨大団地に関わる人々で、イ・ソンジェ演じる主人公の男、妊娠中な彼の奥さん、ぺ・ドゥナ演じる管理事務所の職員、団地内の売店にだらしなく勤める彼女の友人、団地の警備員さん、住人のおばあちゃん、敷地内に住みついてる浮浪者、といったところ。

で、「犬」がどう関係してくるのかという点ですがこれは一癖二癖ありまして、韓国の「犬食文化」がベースにあるようです。犬をカジュアルに食う文化ですね。よってその大前提に相容れない日本人的にはなかなかキツい展開が何度も発生するわけですが、まあニュアンスとしては「飼ってたニワトリが、豚が、食べられちゃった…」くらいのものでしょうか。心臓には悪いものの決定的にエグい・グロいシーンまでは見せないので、愛犬家でないわたし的にはぎりぎりセーフという印象でした。これから観られる方はご参考までに。

ポン・ジュノ監督のデビュー作でありながら、作品の各所で『パラサイト』へと通じるものを感じます。例えば、のっけから登場する「切り干し大根」。干すといえば、部屋干しされた靴下。それから地下室。ホームコメディかと思いきやいつの間にかホラー/スリラー的展開を見せるストーリー。などなど、『パラサイト』を経て鑑賞することでより楽しめる作品だと思いました。

先程「なんとも形容しがたい『そこはポン・ジュノ』って感じ」と書きましたが、『パラサイト』ほどではないにしろなんとも言えないモヤッとしたものが徐々に出てくるつくりになっていて、それは単純に「出世のために様々なものを引き換えにしていく主人公(しかし相応の見返りがあったとは思えない虚しさ)」の姿であったり、そもそもペット禁止の場所で起きてる悲喜劇であるということだったり、いい子に見えるぺ・ドゥナが時々非常識な行動をとったりすることだったり、にわかなりに「間違いなくポン・ジュノだ…」という感想を抱ける一本になっております。みんないいひと、でもみんなちょっとずつ悪い。

意外に思ったのが「韓国は規則を守らない国だからな」という台詞。確かに国民性の(きわめて偏った)印象としてやや否めないところはあるものの、内部でもそういうメタ的な使われ方をするんだなと。その反面、主人公はきっちりゴミの分別をする人だったり、ヒロインは電車で席を譲ろうとしたりと、韓国映画で抱きがちと思っていた生理的に受け付けがたい文化の違いみたいなものをほとんど感じなかったのも印象的でした。

ちなみに本作おもしろいタイトルが付いていますがこれは日本オリジナルの邦題で、原題は「犬」しか合っていない『フランダースの犬』なのだそうです(試しに原題の「플란다스의 개」で検索してみると…)。この原題のことはすっかり忘れたまま観ていたところ、エンドロールの「フランダースの犬 悦楽編」みたいなやつに爆笑しました。

キャラ語り

まずは主人公、彼がですね、ソン・ガンホのようなガタイのいいタイプではなくてヒョロッとした、まあいかにもしがないサラリーマン的風貌の長身痩せ男で、これインタビューを読んで非常に納得したのですが監督は浦沢直樹がお好きと。そうそうそう、まさに浦沢直樹作品に出てくるヒョロッとした男性主人公の感じそのままです! やってることは非道いのだけど、憎めないんですよね。

そしてヒロインポジションのぺ・ドゥナ。是枝監督の『空気人形(2009)』でも主演をつとめていた彼女。是枝監督が本作などポン・ジュノ作品でのぺ・ドゥナさんを見て彼女を起用してみたいと思い、それを映画祭でポン・ジュノ監督に話したら「いいと思う」と背中を押してもらえた、なんていうエピソードがあるようです。少年のような真っ直ぐな瞳を持っていて、なんだろう、能年玲奈みたいな。いいヒロインです。

個人的にすごく好きなのが主人公の奥さん。そういえば『パラサイト』でもチョ・ヨジョンさん演じる奥様にベスト奥様賞を差し上げていたことを思い出して、ポン・ジュノ監督は奥さんの描き方がうまいなと。今回の奥さんは恐妻、というより姉さん女房。旦那にひたすらクルミを剥かせてみたり、「お姉さん」と呼びなさいとか言ってみたり、これなら尻にひかれてえ〜と思ってしまう魅力的な鬼嫁(笑) 暫定ベスト鬼嫁賞にしておきましょう。

他にも、ただ犬鍋が好きなだけで悪人ではなさそうな警備員さん、もしかして盲目?いや見えてる?みたいな“パラサイト”の浮浪者、なんだか意外といいやつなヒロインの親友、などなど魅力的なキャラで脇まで固められていて流石でございました。

まだ数本しかポン・ジュノ作品を観ていないので言い切れはしないですが、『パラサイト』の雰囲気を求めて監督の過去作を観るのであればだいぶ近い作品じゃないかと思います。わたしはとても好きです。おすすめです!

(2020年30本目/PrimeVideo)

ほえる犬は噛まない(字幕版)

ほえる犬は噛まない(字幕版)

  • 発売日: 2014/06/07
  • メディア: Prime Video
ほえる犬は噛まない [Blu-ray]

ほえる犬は噛まない [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: Blu-ray