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アニメ版「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(2017)」雑感

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アニメ版打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?を観ました。原作は1995年公開、岩井俊二監督の同名実写作品。シャフトの新房昭之氏を総監督に、キャラデザインは〈物語〉シリーズ渡辺明夫氏、脚本を大根仁氏が担当。声の出演は菅田将暉広瀬すず、ほか。

あらすじ

その日は典道と祐介がプール掃除当番。さぼって泳ぐ気満々の彼らが着くと、同じクラスの女子なずなも何故かプールサイドに寝そべっていた。さっきまで彼女のことを好きだのなんだの言っていた男子二人はやや戸惑う。

やがて泳ぎだした典道と祐介はたわいもないものを賭けて競争するが、勝者には思いがけない賞が待っていた。「今夜の花火大会、二人で行こうよ」。声の主はそう、なずなだ。

もしあの時「あいつ」ではなく「おれ」が勝っていたら。ある学期末の、「if」の物語。

(ドラマ版とちょっと変えました笑)

好意的に見ようと

そう思って観ました。いやなんか結構評判が芳しくなかったイメージがあったので、なるべく擁護しようと。言うてもあの原作でそんな悪く作り直せるはずないやろと。ムム、ちょっとこれは…。

というわけで最初はちょっと難点のほうから(笑) だいぶ言葉が悪いんですけど、ざっくり言うとことあるごとに性的かつ前時代的で趣味が悪いと思いました。

まず、なずなの描写がいちいちあからさまにエロい。いきなりスク水て。それ以外にも学校での先生いじりなど、誰かと観てたら気まずくなりそうなシーンが多いし、なんか下品。このへんは大根さんの持ち味が良くないほうに作用してしまったのかなという感じがします。この時代にわざわざ書くセリフじゃないだろ、みたいなものがとにかく多いのも困りどころ。アニメだから余計に際立っちゃうのかな。

ただまあ、特になずなの描写云々はあくまで本作がリメイクであることによる拒絶の心理なので、違う作品だったら「性癖が強いわ〜好きだわ〜」とか言ってるかもしれません。言います。好きだもの。スク水は興味ないけど。難しいところです。

それこそこのアニメ版なずなはキャラデザが完全に〈物語〉シリーズ戦場ヶ原ひたぎなんですよね。〈物語〉シリーズで見るぶんには全然ありなエロさなんですけど、あくまでなずなとして見ると、という話で。あと、ビジュアルが戦場ヶ原さんだから、その顔からその声しないよ!って、いくらマイスイート広瀬すずさんの声でもなんか違和感があるという(笑) シャフト由来の不可抗力が多い! かわいそう!

他にも首を傾げてしまう点は多々ございましたが好みの部分も多いので書かないでおくとして、でもやはり「ことあるごとに性的かつ前時代的で趣味が悪い」、これは結構な問題なんじゃないかなと思いました。タイムリーに、『キャッツ(2019)』が酷評されてるポイントと近いのかも。

以上、ダメ〜なほうの感想でした。あとは良かったほうを書くぞ〜。

音楽とか世界線とか、よかったところ

なずなが、つまり広瀬すずが「瑠璃色の地球」を歌うというサプライズあり。チョロいので、なんかもうこれで全部チャラだな〜と思ってしまったクチです。嬉しいな〜。世代的なものか、広瀬すずの歌い方がボカロみある。

脈絡なく松田聖子を歌い出すというところでは岩井作品『Love Letter(1995)』における「青い珊瑚礁」のオマージュなのかなと思いました。脈絡なくとは言ったものの、歌詞がいきなり「燈台の立つ岬で」だったりとじつはイメージソングになっていてニクい。サビの歌詞もそのまんま最後の世界線っぽいですよね。

もうひとつおもしろいのが、違う世界線において「瑠璃色の地球」のコード進行が変わっているということ。「if(もしも)」の概念をより「世界線」として展開させた本作らしい、個人的には劇中で一番ハッとさせられたところでした。花火が平らな世界線、とかもすごい好きでしたよ。

そして、本作最大の功績は「打上花火」という名曲を世に放ったことでしょう。

わたしはもうドンピシャ世代ではないですが、これが滅多に出ないクラスの名曲であることは疑問を挟む余地がございません。エンドロールでこの曲を聴けるというだけでもこの映画は価値がありますね。

米津玄師さんとこの曲をデュエットしているDAOKOさんは、もうひとつの挿入歌「Forever Friends」も歌っています。こちらはドラマ版の主題歌だった曲。空気感のある声でとてもよいです。

ドラマ版をなぞった部分ではどうしても不満の湧いてくる作品でしたが、完全オリジナル脚本となる終盤のファンタジー展開はアニメならではのもので気に入りました。ドラマ版で乗らなかった電車に乗る「if」の世界。既視感のある画ではあったものの、海面を滑らかに滑っていくような列車の表現が気持ちよかったです。

ドラマ版のラストは「夏休み明けにはきっともう会えない」という小さなスケールの刹那だったところ、本作ではもうちょっと漠然と大きなスケール感、概念的なものになってるのもこれはこれで好きですね。

あーあと、確実にドラマ版より好きなのは、お色直し後のなずなです。完全に可愛い。ドラマ版はやや時代を感じてしまうスタイルなので、今の感覚だとこれが正義でしょう。わたしの正義です。

はみ出し雑感

  • 「もしも玉(っていうらしい)」の発案は岩井さんなのだそう。何度でも「もしも」を繰り返せる、尺伸ばしとしては確かに妥当なのかも。

  • 年齢の設定、制服の雰囲気的に高校生まで引き上げたのかと思ったら中学生だった。これも妥当ではあると思う。ドラマ版のなずなは小学生というよりは中学生に見えるし。

  • 観月ありさ、大好きだー!」「それ前も聞いたよ」には笑った。そこは変えてこないんかい!笑

  • 「もしも神社」とかのネーミングは岩井作品っぽくてよい。

  • 大根さんがドラマ版の『モテキ』で打ち上げ花火オマージュ回をやっていたのは知らなかった。検索すると比較動画が出てくるが、確かにすごい再現度(実際にロケ地巡りをするという設定らしい)。

  • 「もしも」ってのはなんとも都合のいいワードで、本作に関しても引っかかる部分は全て「もしも〜だったら」で解決できちゃう気がする。ずるい。積極的に使っていこう。

以上、総じて冷静に観ていたつもりが結構楽しんでたみたいじゃん?といういつもの感じになりました。

(2020年23本目/PrimeVideo)

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: Prime Video
前作の感想はこちら。