「リリイ・シュシュのすべて(2001)」雑感
岩井俊二週間、2001年公開の『リリイ・シュシュのすべて』を観ました。出演は市原隼人、忍成修吾、蒼井優、伊藤歩など。蒼井優の映画デビュー作です。さりげなく高橋一生とかも出てました(すごい可愛い)。
簡単にあらすじを書けるような映画ではないのでそこは省くとして、まずタイトルにある「リリイ・シュシュ」というのは劇中で若者たちから支持を集めている女性シンガーの名前です。イメージ的には例えばCoccoのような、多感な頃に溺れてしまいがちな音楽(語弊はある)、と思えばよいでしょう。
本作は、若者がCDウォークマンでそんな音楽を連れ歩いていた2000年前後を舞台にした、とある中学生たちの群像劇。というとすごくエモいんじゃないかと期待が高まるのですが、真逆です。あまりにも痛々しい思春期映画でした。
ざっくり言うとこの中学校、非行がはびこってます。陰湿で悪質ないじめ、正真正銘の犯罪行為まで。自分の中学生時代を思い出してみるとそこそこ平和だったので、とても何かを重ねたり感情移入したりできるものではありませんでした(なお奇しくもわたし、おそらく劇中の彼らと同い年と思われます)。とりあえずこの映画、好きではないです。
また映画のつくりとしてもかなり独特で、「リリイ・シュシュのファンサイト」に書き込まれた「掲示板への投稿」がモノローグ的に常駐。映画本編のほうも時系列が大きく弄られていたり、急にハンディカムでの素人風映像に切り替わったりと、だいぶアクの強い作風になっています。
好きじゃない、けど、じゃあ良くなかったのかと言われるとそれはノーで、そこが岩井作品らしさなのか、退屈で冗長な流れのなかに突然とてつもなく美しいものが紛れ込んでいたりして。蒼井優演じる少女がいきなり川に入っていくシーンだとか、合唱祭の練習をする教室に差し込む西日だとか、違う映画かと思うくらい刹那的に明るいカイトのシーン、そして……とか。
ああいう幾つかのシーンを見れただけで、元は取れたなと(この場合、146分という長尺に費やした時間ぶんの)感じてしまうのでチョロいものです。特にやはり、なんの前触れもなく制服のままで川に入る蒼井優、これは『打ち上げ花火〜』でいきなりプールに入った奥菜恵と同じパターンの性癖が炸裂しており、平伏せざるを得ません(ホースで水をかけるところまで共通している)。『四月物語』で草原の中にしゃがみこむ松たか子とも通じるものがあり、大変けしからん。
蒼井優を連呼していますが、あの子が蒼井優であることに気づいたのはだいぶ後になってからでした。これが映画デビュー作だとは、かなり攻めている…。そして早くも陰と陽の見事な使い分け。監督曰く「突発的になんかしそう」な感じがすごく出ているし、思えばまずあの川のシーンから既にそうで、それが終盤のカイトのシーンに繋がっているわけですね。そんなわけで本作、蒼井優の津田詩織というキャラが一番印象に残ってます。蒼井優あんまり好きじゃなかったけど、好きになってしまいそうです。
2000年前後の中学生
先程も書きましたがおそらく劇中の彼らと同い年であろうと思われるわたし。2000年に14歳、という表記があったはずなので1986年生まれぐらいの子たちでしょう。
市原隼人演じる主人公ポジションの少年はファンサイトの管理人。この世代の人はみんなHTMLが書けるなんて言われ方もするように、確かにこの頃はホームページ作りが流行っていて、わたしも例に漏れずどうでもいいホームページを持っていました。タグ手打ちもお任せあれ。「インターネット老人会」の王道ネタを全部通っている世代と言えます。
出先で音楽を聴くといったら、劇中のとおりCDウォークマンでした。今ではCDを持ち歩くことはなくなったけれど、あの頃は鞄にCDが入ってました。ケースの表面がうっすら傷だらけになるなんてことも今ではあり得ないですね。買って取り込んで棚にしまったらもう当面は取り出さない。寂しい時代です。CD屋の大きな試聴機も、今や過去のものになりつつあります。
携帯電話、わたしが初めて持たせてもらったのは中三の終わり頃でした。折り畳みじゃないタイプのがちょっと古臭い感じだった記憶なので、みんなストレート型を使ってる劇中の時代考証は合ってるのでしょうね。…ってこれリアルタイムな映画だったわ…。つら…。
などなど、そんな視点でも「うわあ」となれる作品でした。
(2020年19本目/PrimeVideo[日本映画NET])
そういえば『リリーのすべて(2015)』なんて映画もあった(まぎらわしい)。