353log

主に映画の感想文を書いています

岩井俊二監督作品「Love Letter(1995)」雑感

f:id:threefivethree:20200123192351p:plain

初の岩井俊二作品として先日『ラストレター(2020)』を観ましたが、ぜひこっちも!とおすすめいただいたので今回は四半世紀前の岩井作品『Love Letter』を鑑賞しました。『ラストレター』には本作のアンサームービー的な面もあるのだそうで、この機会にあわせて観るのがおすすめ、なのかも。出演は中山美穂酒井美紀豊川悦司ほか。

あらすじ

藤井樹の三回忌。早世した彼の恋人だった渡辺博子は立ち寄った実家で彼の卒業アルバムを眺めていたが、彼が中学時代に住んでいた小樽の住所を見てふと、手紙を出すことにした。そこはもう国道になってしまったという、届くはずのない住所だ。しかし数日後、なぜか「藤井樹」から返事が届いた。

じつは中学時代、彼のクラスには同姓同名の女子がいた。博子は彼女の住所に手紙を送っていたのだ。誤配だった。しかし不思議な文通は続く。「彼について何か覚えていることがあれば教えていただけないでしょうか?」──

雑感

まるで8cmシングルのジャケ写みたいなオープニングシーン(上に貼った画像)がとても印象的で、ここからの長回しと優しい音楽でまず掴みはバッチリ。言うことなしのアバンタイトルでした。

一般的には中山美穂豊川悦司のW主演としてクレジットされることが多いようですが、このふたりのラブストーリーかと思いきやそうではなく、なんならトヨエツは始終ガン無視されている(笑) じつに気持ちのいいお話です(このトヨエツ、好かんわ〜)

では誰が主人公なのか、どんな物語なのかというと一言では表せなくて、ひとつ言えるのは『ラストレター』同様に「不在の主人公(便宜上“イツキ”としましょう)」にまつわる物語であること。そして本作は『ラストレター』よりもさらに、オムニバス的な作品かなと思いました。なにせ映画の始まりと終わりで主人公が変わっているんですよね。

序盤、まずは渡辺博子を中心とした「イツキ物語」の円が広がっていくわけですけど、手紙が藤井樹のもとに誤配されると今度は彼女を中心とした「イツキ物語」の円が広がっていく。それぞれの心に眠っていたイツキが息を吹き返していく。この構成がおもしろいし素敵だと思いました。

主人公が変わっていると書きましたが、本作が非常に特徴的なのはこの主人公がどちらも中山美穂のW主演であるところ。神戸在住の第1ヒロイン渡辺博子と、小樽在住の第2ヒロイン藤井樹をともに中山美穂が演じ分けており、渡辺博子から始まって藤井樹で終わる映画なんです。主人公は変わるが演者は同じ、というとっても不思議な映画。

これ全く知らずに観たので一瞬混乱してしまって。渡辺博子はものすごい地味で静かな女性なんですけど、対する藤井樹は男勝りの明るいキャラクター。同じ顔でも全く別人に見えるんですよね。すごいことするな、って。それに考えてみたらドッペルゲンガーと同姓同名の物語ですよ。奇妙な設定なのに全然奇妙に感じない。手腕。

映像面では過剰なまでの「あざとい名シーン」「名シーンとして作られた名シーン」が的確な働きをしていて、ここで感動しなかったら人としてどうなのよレベルで強引に感動させてきます。それこそ「お元気ですか」のシーン、最初ちょっと笑っちゃったんですよ。でもあまりに景色が雄大だし、どう見ても「名シーン」だし、感動するしかないか、スイッチ切り替えていくか、とあの執拗な繰り返しのなかで気持ちを改めさせられるという。力技でした。嫌いじゃない。

他に印象的なあざといシーンとしては例えば自転車のライトで答案を照らすシーンとか、雪道を靴のまま滑るシーンとか、イツキから本を預かるときのエプロン姿の樹とか。このエプロン姿のところなんか「誰か死んだの」「パパ」っていうギョッとする会話をしつつも猛烈にほっこりさせられる場面になっていて、このカラッとした感じは『ラストレター』ですごく踏襲されています。

あとは、1995年といういくらでも古臭くなりそうな時代の作品でありながら、いわゆる時代を感じさせるアイテムがワープロくらいしか出てこないのも気が逸らされなくていいなと。レコードやフィルムカメラもですけど「手紙」ってなんだかんだ古くならない、むしろ最上級のアナログアイテムなんですよね。わたしが大好きな舞台『ダディ・ロング・レッグズ』の原作『あしながおじさん』もそういえば手紙の物語でした。手紙、いいなあ。

本作のセルフオマージュが多く盛り込まれたという『ラストレター』との共通点は双方観てのお楽しみという感じでいいと思いますが(書ききれないほどわんさか出てくるので)、個人的にフェチいなあと感じるのはガーゼマスクです。はい。

以上、やはり岩井作品なかなか肌に合う気がするのでもう何本か観ていけたらと思っています。

(2020年13本目/PrimeVideo)

Love Letter

Love Letter

  • 発売日: 2014/08/27
  • メディア: Prime Video
Love Letter [Blu-ray]

Love Letter [Blu-ray]

引き続き『ラストレター』もおすすめです! 書き忘れましたが中山美穂豊川悦司が出てます!