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岩井俊二監督作品「ラストレター(2020)」雑感

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初・岩井俊二です。こういう感じか!好きだ! というわけで熱量高めに書いていくつもりでおります。キャストは広瀬すず、森七菜、神木隆之介松たか子福山雅治、みんな主演ということでよいでしょう。

あらすじ

「この手紙、お姉さんに渡して」。高校生の乙坂鏡史郎神木隆之介は、好意を寄せる遠野未咲広瀬すずへのラブレターを妹の裕里(森七菜)に託した。しかし皮肉にも乙坂に恋していた裕里は手紙を姉に渡さなかった。

時は経ち、40代の若さで未咲は死んだ。姉宛に送られてきた同窓会案内を受け取った裕里松たか子は訃報を直接伝えるべく会場へ赴くも、着くなり姉と勘違いされて言うに言えず、さらには乙坂福山雅治と再会してしまう。未咲の死を知らず、未だ想いを捨てていなかった乙坂は、現れた「未咲」に最接近。手紙のやり取りが始まるのだが、やはり今回もそれが未咲に届くことはないのだった。

意外と明るい映画です

至福の時間でございました。ついつい洋画に偏ってしまいがちですがやはり邦画もいいものです。なんたってリスニング完璧な母国語ですからね、五感で堪能できる強みもありますよね。


あらすじや予告編などからは結構ウェットな映画を想像するかもしれませんが、「死んだヒロイン」を中心に据えているわりに意外なほどカラッとした映画。二つのタイムラインを行き来する物語の登場人物たちもみんな魅力的で眼福で、大正解のキャスティングだと思います(庵野氏もがんばっているよ!)。

ストーリーのほうは予告編から垣間見える以上に「いろんな手紙」が交錯していて、どこがどう繋がり、どういう展開を見せていくんだろうとわくわくできる作り。もどかしい話にはならず、最後にはすっきりとした気持ちでエンドロールに突入できるのもいいところです。2020年代初頭、こんな映画をスクリーンで観れていたんだというのは将来ちょっと自慢できるはず。

ちなみに前述の通りわたくし本作が初の岩井俊二作品となりました。その作風は当然知らないのですが、しかし始まるやいなや明らかに「作風」がすごい(笑) 一瞬にしてOK了解!と親指を立ててしまう圧倒的な説得力。なるほどこれが岩井俊二か。好きな気持ち悪さだ!

だらだらキャラ語り

現在と回想、二つのタイムラインで映画は進んでいきますが、なかでも女性陣は一人二役を演じていて混乱しそうなので先にちょっと整理しておきましょう。

広瀬すずと森七菜のコンビが「姉妹」「従姉妹」の2パターンある、これ普通に考えるとかなり混乱案件ですけど実際観てみるとそうでもないのは役者のプロフェッショナルなところでしょうか。この従姉妹がとても良くて、こういうのお好きな方は一瞬でチリーン!とチケット代全額ペイされること間違いありません。夏休み、お泊まり、ワンピース、傘、浴衣、花火。完璧です。

従姉妹という程良い距離感で場を明るくしてくれる颯香(森七菜)は最初から最後までずっとありがたい存在。実年齢よりも幼く見えるような演技が絶品で、特にあのばたついた走り方が可愛い。アニメっぽい。森七菜さん、なんと『天気の子(2019)』よりも前にキャスティングされてるんですって。芸歴4年弱にして新海誠岩井俊二の申し子、すごい…。

母を亡くしたばかりの娘という設定になっている鮎美(広瀬すず)は颯香のおかげもあって本編中ほとんど悲しそうなそぶりを見せないのですが、そのぶん終盤で感情を解放したときの客席連鎖感が半端じゃありません。すすり泣きサラウンド。監督のインタビュー記事を読んでいたら、この演出の背景にあるところかなというものがあったので引用します。

「震災後に現地に行った時、石巻市である居酒屋を営む女将さんから『映画館のように真っ暗なところで、思い切り泣ける映画を作って持ってきて』と言われたんです。その言葉が、なんとなく僕のなかに残っていました。あれからずいぶん時間が経ちましたが、やはり一度は故郷の宮城県で映画を撮らなければ、という想いがあったんだと思います」。

岩井監督は、震災から2か月後に故郷を訪れた時のことをこう振り返る。「5月くらいに僕が行った時、被災者の方々とお会いしましたが、皆さんが普通に笑顔で話をしてくださるんです。でも、その内容は壮絶なわけで…。町を歩いていても、打ちひしがれているような人の姿は見かけなかったです。でも、その女将さんの言葉を聞いた時、本当は皆さん、泣きたいんだと思ったんです。泣きたくても、泣く場所がない状態が続いていたんだなと」。


岩井俊二監督、故郷・仙台ロケ『ラストレター』と震災復興ソング「花は咲く」との共通点を語る - 映画 Movie Walker


ときに広瀬すずの魅力、ひとつは確実に「声」でしょう。これほど一聴して分かる声を持っている女優はなかなかいないのではと思っています。序盤、同窓会で卒業式のスピーチを録音したものが流れる。帰ろうとしていた妹の裕里が立ち止まる。言わずもがな、姉の声である。…この演出ができるのは広瀬すずだからこそ。お見事でした。

普段なら広瀬すず信奉者として彼女を奉りまくるのですが今回は松たか子も大好きになってしまいましたね。物語前半、すっかりコメディエンヌに徹した松たか子のおかげでどれだけ空気が明るくなったことか。松さんこんなに可愛いお方だったんですね。その娘役が森七菜の颯香なのも納得。ばたばた感が遺伝してる。顔も、目元なんかがすごく似ています。

そんな松たか子の顔に少し影が落ちることで作品のテイストも少し重いほうへシフトチェンジ。予告にある「姉は亡くなりましたよ」の場面です。ドタバタ喜劇からシリアス独白までのグラデーションを長回しで捉えたというこのシーン、予告編での使い方(ミスリードのさせ方)が非常に上手いなとわたしは感動しました。その文脈で、それ、来るんだ…!!!と。(脚注でネタバレ*1

なんやねんと思いつつもさりげなくキーマンなのが、松たか子のダンナ庵野秀明。いきなり『八甲田山(1977)』のテーマで登場するところからなんやねんが強いのですが、スマホ投げつけるとことかもう大爆笑レベルのなんやねんなのですが、いやしかし、この物語、ここで庵野スマホを投げないことには始まらないのだ…!!という可笑しさ *2 。チョイ役じゃないんすよ、じつは一番大事な役どころなんですよ。でも一つだけどうしても気になる。実の母親に「泊まってってください」って言うところ、絶対あれ義母だと勘違いしてない? 演出ミスじゃない?笑

さてそして最後になってしまった乙坂鏡史郎。まあ、気持ち悪いキャラクターです。福山雅治神木隆之介だから辛うじて許容できるやつ。神木きゅん福山雅治に見えないけど(ピュアすぎて)、福山雅治はいつしか神木きゅんに見えてきちゃったのがこれまた役者のプロフェッショナルなところでくやしい。特に校舎を見に行ったシーンがね、口の半開き具合とかが多分かなり神木隆之介なんですよね。そういや二人とも実際にカメラが趣味よね。

乙坂氏に関する一番の疑問点は、二箇所から手紙が来たときに気付かなかったの?っていうこと。最後の発言からするに気付いてなかったようなのですが、そんなことあるんかな。まあ、野暮ってもんですね。それにしても、最後のあの妖精さん二人に出会うようなシーンは日本映画史に残ると思います。きれいなシャイニング、とか言ったら怒られますか。

森七菜×小林武史「カエルノウタ」

今回のめっけもんはこれですね。エンドロールで流れる「カエルノウタ」という曲。誰だろう、もしかして広瀬すずが歌ってる?なんて思いながら聴いていたら森七菜さんで。気付いたら頭から離れなくて、AppleMusicで延々聴きながら帰って、お布施的にiTMSでも買って、昨日の今日で何十回も聴いてるけどまだ飽きないっていう。森七菜さんのお歌、めちゃくちゃいい…。

なんと、試しに歌ってみてもらったら存外良かったからそのまま抜擢しちゃったらしいんですけど。これは菅野よう子が『天空のエスカフローネ』で坂本真綾を歌手デビューさせた時以来の偉業になるのではないか、小林武史様よ。

カエルノウタ(通常盤)(特典なし)

カエルノウタ(通常盤)(特典なし)

  • アーティスト:森 七菜
  • 出版社/メーカー: SMR
  • 発売日: 2020/01/15
  • メディア: CD

MV貼りましたけど映像なしで聴いたほうが世界観あっておすすめ。最終段落「血の滲む汽水の道 あぁ」の歌い方が2020年暫定ベストとろけ歌唱で、何度聴いても崩れ落ちそうになります。

そんなわけで『ラストレター』、総じてとても好きな映画でした。こんなに感想まとまらないこともそうない、ってくらいまとまらなかったのであまり脳内スッキリしていませんが、映画はとてもすっきり晴れやかな後味です。ぜひ劇場で日本映画のいちばん美味しいところを堪能してください。

(2020年12本目/劇場鑑賞)

※2020年製作国公開の作品はこれが1本目となりました。これまでは[2010年代の作品][20xx年の新作]でカテゴリ分けしていましたが、この先10年間の作品を1カテゴリに収め続ける気はないので(笑)ここからは[2020年の作品]カテゴリを使うことにします。

*1:【ネタバレ】泣き笑いのようなテンションで「悔しいなあ、あなたが結婚してくれてたら」と言うシーンあるじゃないですか。あそこ、普通に予告だけ観てたら「福山雅治松たか子と結婚したタイムライン」を思い描いてるように解釈しませんか? それが、うわ、そっちだったのか、「福山雅治広瀬すずと結婚できたタイムライン=姉が死ななかったタイムライン」を想って悔やんでいたのか、と鳥肌立ったんですよね。ただ、予告編でその解釈をするのが多数派かどうか分かりかねるのであくまで個人的な「ミスリードが上手く効いていた例」にとどまりますが。

*2:あの程度で手紙に移行する〜〜?? バックアップとか取ってない〜〜?? とは思ったものの、LINEの名前を「ママです」にしてるようなリテラシー低め(偏見)の人ならあり得るか。