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主に映画の感想文を書いています

「マザーレス・ブルックリン(2019)」雑感

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エドワード・ノートン監督&脚本&主演の新作『マザーレス・ブルックリン』を観てきました。これは…今年の年間ベスト作品に残るかもしれない…。

あらすじ

1950年代、ニューヨーク。私立探偵のライオネルエドワード・ノートンはいつものように張り込みをしていたが、トラブルでボスのフランクブルース・ウィリスが殺されてしまう。ライオネルにとってフランクは単なる仕事上のボスではない。孤児院にいた彼を拾い、居場所を与えてくれた恩人だ。フランクは何故殺されたのか。何を知ってしまっていたのか。ライオネルは調べることにした。

優しい世界の物語

この映画は一言で表すのがとても難しくて、でも観ながら何度も思ったのが「優しい世界だ……」だったのでその一言を使うことにします。

主人公ライオネルはトゥレット症候群という病気を抱えていて、TPOをわきまえない言動を無意識かつ衝動的にしてしまうような、そういう症状と日々闘いながらどうにか日常生活を送っている人です。本当にそういう病気の人にしか見えないエドワード・ノートンの演技が凄い。役に呑まれて、あれが癖として染み付いてしまうんじゃないかと心配になるほど。

で、そんな彼が働く(ボスを失った)探偵事務所は、全員が孤児院出身。病気を持っているのはライオネルだけのようですが、彼が突然騒ぎ始めても反応が生温かいんですよね。温かくはない。でも冷たくもない。「落ち着けって」くらいの感じ。それがまず優しい世界。

並外れた記憶力を買われていたライオネルは、病気が影響を及ぼさないような範囲での仕事をボスからもらっていました。しかしボスなき今、自分も前線に立って執念で調べなければ。そう奮い立った彼は積極的に表に出て、いろんな人と接していきます。そして、捜査の過程でローラという女性に出会い、ほのかに惹かれあっていきます。このふたりの関係性がすごく好きで。彼女は活動家、ビジネスウーマン、張り詰めた人なわけです。そんな彼女と挙動不審なライオネルに交わるところなどないかと思いきや、何かがちょうど彼女の心の隙間にうまくフィットしたんですね。「楽しい人ね」と表情を緩ませるローラ。ああ、また優しい世界。

みんな毎日闘ってる

初対面な人の前では、奇怪な症状が出るたびに「ごめん、病気で」と説明をするライオネル。ローラに対してもその説明を、劇中で初めて具体的にします。すると「みんな毎日闘ってる」とローラは言います。わたし、涙腺崩壊。

あーのですね、ここ数年すごく思ってることがあって、「大人になるっていいな」ってことなんですけど、って言うと何のこっちゃなんですけど、「みんな何かと闘ってる」ことが分かるようになるんですよね。例えばわたしの場合、子供の頃アトピーが酷くて、みんなの肌はあんなにきれいなのになんでぼくだけ、と思ってたわけです。

でもそこそこ大人になるとですね、じつはあの人はいつも蕁麻疹でつらそうにしてるとか、あの人はとにかく胃腸が弱いとか、しょっちゅう腰痛で死んでるとか、そういうのが分かってきて、妙に安心するんですよ。なんだ、みんな毎日闘ってたんだ。年齢を重ねてくるとなぜか嬉々として体調不良の話をするようになるのは、安心したいからなのだと知る30代。

さらに言うと、一時期わたし吃音が酷かったこともあって*1、自分の意思と言動が連動してくれないもどかしさ悔しさみたいなものは十二分に理解できるので(マッチのくだりとか爆笑ものだけど、同時に痛いほど分かってつらい)、ライブシーンでライオネルをエスコートしてくれるローラが天使にしか見えなくて、また泣きましたね。また、ちょい前のモノローグからの伏線回収的なあの行為がさ! 泣かせどころなのは分かってるけどまんまと泣くよね!

「みんな毎日闘ってる」って、ニュアンス的には「大変なのはあなただけじゃない」とも取れるのでムッとする可能性も孕んだ台詞なのですが、上記のようなことを日頃考えていたせいでハートにブチ刺さるお言葉となったのでした。ああ、ローラ様。ググ・バサ=ローさん、とても美しかったです。

あとね、マイケル・K・ウィリアムズさん演じるトランペッターとのやり取りもこれまた涙腺大開放で、うわーーなんだよこの映画ーーって感じで、でももう文字数アレなんでこのへんで終わりにしときます…。本稿、自分にしか分からない日記になっているかもしれない。

登場人物のモデル

この物語、ライオネルが調査していくなかで1950年代当時のニューヨークの社会問題がいろいろ明らかになってきて、特にモーゼス・ランドルフという役人が強引な都市開発で地域住民の反感を買っている状況が見えてくるんですね。

ニューヨークを愛する人間としては非常に興味が出まして、このモーゼス氏、おそらくモデルがいるんじゃないかと思い、オフィスのシーンにチラッと見えたフラッシング・メドウズ・コロナ・パークと思わしき模型を手掛かりに調べてみたところ、ロバート・モーゼスという人だと判りました。

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このユニスフィア地球儀を手掛かりとして…

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この人に辿り着いた

詳細は伝記小説かのような熱量のWikipediaをご覧いただくとして、今のニューヨークを作ったと言っても過言ではないような人みたいですね。劇中でそれこそキービジュアルのブルックリン橋よりもよほど印象的に登場する橋も、実在する「トライボロー橋」であることが判りました(1枚目の写真で窓の向こうに見えている橋)。てっきり架空の橋かなと思いかけて調べたところからロバート・モーゼス氏に辿り着く、という順番でした。

それからもうひとり、ローラと一緒に反対運動に勤しんでいるギャビー・ホロウィッツという高齢の女性も、おそらくジェイン・ジェイコブズWikipedia)という人物がモデルと思われます。

このふたりの対立を描いた作品にはこんな本や、また映画もあるようです。

評伝ロバート・モーゼス:世界都市ニューヨークの創造主

評伝ロバート・モーゼス:世界都市ニューヨークの創造主

掘り下げていったらなんだか面白そうですねえ(※てきとうに貼っただけで読んだり観たりは一切しておりません、あしからず)(「評伝〜」の本で表紙になってるのがやはりトライボロー橋ですね)。

そんな感じで、フィクションのドラマ作品として当然楽しめて、さらにはノンフィクション的要素を見つけて楽しむこともできると、これは二度観たらもっともっと楽しめるのではあるまいか…。新宿ピカデリーでパンフ品切れてたから立川でパンフ買いがてらもう一度観るか…。

公開館が非常に少なくて残念なのですが、んまあ常に煙がくゆるようなフィルム・ノワールだし小規模もやむなしか。いや〜でも、超オサレですよ、ジャズいんですよ。撮影も編集も素晴らしいし。暗闇で没入して観るべき映画だと思うのでもうちょっと規模大きくしてほしい…! よろしくお願いします。わたしが観に行きます。

(2020年7本目/劇場鑑賞)

他所で見た「万人受けはしないけれど刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる」という感想を信じて行ったらめちゃくちゃ刺さりました。なのでここにもそれを書いておきます。万人受けはしないけれど刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる! お心当たりのある方はぜひ。

*1:そのせいで『英国王のスピーチ(2010)』とか怖くて観れていない。ただし、とある理由により近日中に観そうな予感。