是枝裕和監督の新著「こんな雨の日に 映画『真実』をめぐるいくつかのこと」を読みました。
- 作者: 是枝裕和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2019/09/30
- メディア: 単行本
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先日公開された映画「真実」の構想から制作までを記録したもの、ということで、①映画を観ていて ②是枝監督に興味のある人 にしかあまり関わりのない本、のようにも思えるかもしれませんが、じつはこれ結構、映画ファンに広くおすすめしたい一冊です。
というのはこの「真実」という映画が単なる「是枝監督の新作」では片付けられないものだから。まず、全ての撮影をパリでおこなった日仏合作映画であること。そして何より、メインキャストに並ぶカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークといった錚々たる面子。
なお、いくら予告編でドヌーヴとビノシュを見ていても実際に全編を観てみないとピンとこないと思うんですが、この映画、完全にフランス映画です。監督がコレエダというだけで、あとはニッポンのニの字もない、どこからどう見てもフランス映画です。
そんな作品の制作過程を記録した約300ページの本。どういうことか。つまり、ドヌーヴやビノシュやイーサンの話がわんさか!ということでございます。是枝監督による、名優たちの観察日記なのでございます。これがまず単純に面白い。
特にやっぱりドヌーヴですかね。映画から飛び出したような大女優を地でいく彼女の、しかし愛らしいところが存分に伝わってきます。わたしもですがドヌーヴというと「シェルブールの雨傘(1964)」止まりな人って多いと思うのですよ。老年のドヌーヴ自体は観ていたとしても、受け入れがたいというか。でも映画「真実」を観て、この本を読むと、いつの間にかすっかり「大女優カトリーヌ・ドヌーヴ」にアップデートされるのでおすすめ?です。むしろ華奢で可憐なシェルブールやロシュフォールが見れなくなる危険も(笑)
ドヌーヴはじめ大スターたちの口から出てくる映画界の裏話なんかもおもしろく、お得な気分になります。ドヌーヴとのインタビューを終えた監督が言う「彼女の口からドゥミ、トリュフォーという名前が出てくるのを直に耳にするというのは本当に貴重な経験(p67)」という感覚が、まさに全体通して詰まっている本。そんなわけで間口広く楽しめる一冊だと思います。
それから、監督がこんなキャスティングを実現できたことにも繋がっているのですが、日本から見ているイメージ以上に、是枝監督は世界的に活動・評価されているんだなと。「真実」制作中も「万引き家族」ほか幾つかの作品で映画祭巡りを並行していて、よくそんな時間と体力があるなというくらい飛び回っておられる。そして、誰々と会った、みたいなすごいことがサラッと書いてあったりする。コレエダめっちゃツテある…!って鳥肌立っちゃいます。
ちなみにドヌーヴはかなりの映画マニアで、常に新作のチェックを怠らないのだそうです。もちろん日本映画、是枝作品も結構観ている模様。陣中見舞いで訪れた福山雅治とカトリーヌ・ドヌーヴのご対面!なんていうシーンもありますよ。ドヌーヴがどんな反応を見せたか、それはお読みください。
あんまりいろいろ書いてしまってもよくないんですが…、監督直筆のメモやお手紙の可愛らしさなんかも必見ポイントです。写真もいっぱい収録されていますし、プロデューサーさんによる書き下ろしエッセイ(また文章がお上手…!)なども大変おもしろいです。
映画「真実」未鑑賞でも、分からないなりにそれ以外の部分でかなり楽しめると思います。でもって映画も観たくなると思います。本書はクランクアップのところで終わってしまうので、それ以降の話もどこかで読んでみたいものです(ドヌーヴ緊急入院、のニュースを見てドキッとしてしまいました。せっかく親しみが持てるようになったのに、まだ逝かないでおくれ…)。
とりあえず今は、遡って2016年の是枝監督著書「映画を撮りながら考えたこと」を読み始めています。こちらは未見作のエピソードだらけ。分からないなりにじっくり読んでみます。
- 作者: 是枝裕和
- 出版社/メーカー: ミシマ社
- 発売日: 2016/06/08
- メディア: 単行本
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