世界的に高い評価を受けた、是枝裕和監督の作品。パルムドール受賞を機に日本でも大ヒットとなりました。一方わたしはちょっと、暗そうな邦画となると食指が動かないほうなのでパス。母国語で神経研ぎ澄ませて繊細な映画観るの、すごく体力を使うんですよね…。
ですが先日、是枝監督の「真実」を観てすごく良かったこと*1、石川慶監督の「蜜蜂と遠雷」を観て松岡茉優熱が上がったこと*2、この2件が続いたため、導き出される「次の一本」はどう考えても本作だろうと(笑)
というわけで鑑賞いたしました。初見です。
あらすじ
高層マンションの谷間にポツンと取り残された、今にも壊れそうな平屋 *3。三世代くらいの家族が所狭しと暮らしている。“腹違い”というワードも聞こえてきたので、ちょっと複雑な事情がありそうだ。
しかしそれよりも気になるのは、この家の父子がどうやら日常的に万引きを楽しんでいること。さらに、虐待を受けていた近所の子供までも「拾って」きて家族の一員に迎え入れてしまう。
この家族はなんなのか。これから何を見せられるのか。
各自、考えましょう。という映画
観終わったところで「ううむ」と腕組みをしてしまいまして。まず最初に、相関図を描きました。結局どういうことだ?と、頭を整理しながら。描き終えて答え合わせして、そこからまたしばらく色々考えてました。いつも以上に「どう見たらいいんだろう」と思いながら観ていた映画です。
だいぶ後の方になって「マンションの谷間にポツンと取り残された平屋」が俯瞰で初めて映るんですけども。ああ、こんな家あるなと。
それこそ六本木とかでも、高層ビルのふもとに「なぜ?!」なボロ家があったりする。立ち退かない理由は? そもそも人は住んでいるのか? 気にはなるが関心はない、まあそんな家ありますねと。むしろ、住む世界の違う人たちだ、あんなところに生まれなくて良かった、とすら思ってしまうような家。
でもじつはもし視点を変えてみたときに、映画の中で見たような「家族」がそこに成立していたとしたら。もちろん現実世界ではそんなところにカメラは入らないので、私たちがその「家族」を知ることになるとしたら例えば「年金不正受給」の表面的なニュース*4だったりするわけですけど、その家族がもしあんな、ときに多幸感すら溢れる家族だったら。十分にあり得る話。
「マンションの谷間、俯瞰で映る平屋」のカットを見たとき、裏面と思って見ていたものがじつはオモテ面だった、みたいな感覚があって、そういうことをぐるぐる考える映画か、と自分のなかでの見方が定まったのでした。
つくづく映画のすごさってこういう「違う視点や感情」を擬似体験させてくれるところにあるなと。この映画を観た人は犯罪者サイドとして分類される人物たちに自然と心を寄せることになり、終盤で介入する警察などに対しては「あんたらに何が分かるってのよ!」な気持ちになってしまう。それって報道をただ見る側だったらまず起こらない感情なはずです。
もし今後例えば年金不正受給のニュースを見たとして、擁護する側には回らないにしろ、何か事情があったのかもなと少しでも思うことくらいはできるようになる。そんなふうに考え方のアップデートを手助けしてくれるもの、視野を広げてくれるもの、それが映画だと思います。
本作や「真実」などのインタビューを読んでいて、是枝監督は「主語の大きさ」を嫌がる人なんだなという印象を受けました。犯罪者と言ってもいろいろなんだよ。家族と言ってもいろいろなんだよ。
シニカルな後味の悪さともまた違う、観終わってから「ううむ」といろんなことを考え込んでしまう本作のような映画、前よりは好きになってきたかもしれません。
最後になってしまいましたが、この世界にたやすく感情移入させてくれたキャストのみなさま、素晴らしかったです。まるごと万年床のような家から一瞬生まれた多幸感があまりにも刹那的で、記憶に焼き付いてます。安藤サクラさんとリリー・フランキーさんのお素麺ふやけちゃうシーンも、肌が綺麗でとてもよかった。ごちそうさまでした。
(2019年122本目)
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まったくの余談
「あり得る…系家族」のお話として少し前に記事を書いた映画「籠の中の乙女」。どうやらやはり「あり得た」らしい…というニュースを最近見かけました。
“一家の中には「ほかに人々が存在することをまったく知らなかった」人もいたとされる。” まんまじゃないですか…。