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映画「蜜蜂と遠雷(2019)」雑感

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積極的に日本映画を観よう週間、石川慶監督作品「蜜蜂と遠雷」を鑑賞しました。原作は恩田陸さんの同名小説です。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷


あらすじ

国際的なピアノコンクールで顔を合わせた、4人の若手ピアニストたち。7年間のブランクがあるかつての“神童”、海外でピアノを学ぶ実力派有望株、年齢制限的にこれが最後のコンクールとなる者、奇妙なオーラを持った最年少新人。彼らはコンクールの期間を通し、それぞれに大きなものを得ていく。

あらためて、予告で判断してはいけない…

先日の「真実」から引き続きの話になりますけど(是枝裕和監督作品「真実(2019)」雑感 - 353log)、邦画は予告スルーしてしまう率が圧倒的に高くて、でも実際観てみると予告編とは全く違う印象の作品になっているケースも多いんですよね。

予告編というのはやはりキャッチーに作るのでしょうから、原作未読の身からすると「若手天才ピアニストたちがコンクールで才能とプライドをぶつけ合う!」みたいな、いかにも〜〜な映画を想像してしまって足が遠のくわけなんですが、原作未読の方向けにここでフォローしておくとそういう映画ではないです。むしろ「若手ピアニストたちが一度も火花を散らすことなく切磋琢磨していくお話(ピクニックもするよ)」です。

映像のほうも月並みとは程遠いもので、ミニシアター系の繊細さと大作の迫力を兼ね備え、時には尖った表現を、また時にはドキュメンタリー的な俯瞰性や客観性も、という振り幅の広い仕上がりになっています。

つまるところ、すごく良かったです! 以下、コンクール結果等のネタバレを含みます

それぞれの得たもの

ピアノコンクールを舞台に進んでいく物語ですが、必ずしもコンクールの結果が登場人物各人の中心にあるとは限りません。その証拠に、一次予選から本選まで一本ずつ追いかけておきながら肝心の本選結果はエンドロール直前にポンと表示されるだけ。結構びっくりします(笑) 消化不良に思う人もいるかも。

松岡茉優演じる“かつての神童”亜夜は、母の死が響いて舞台上から逃げ出すという7年前のトラウマに打ち勝ち、「帰って来る」ことができた。森崎ウィン演じる有望株のマサルは「コンクールの結果」を勝ち取り、コンポーザー・ピアニストになるという夢に一歩近づいたはず。

松坂桃李演じる“一般人”の明石はラストチャンスこそ掴めなかったけれど、別世界の人間と思っていた専業奏者のライバルたちに確実に影響を与え、切磋琢磨の一部となれたことでコンプレックスから解放され「ピアノが好き」という気持ちを確かめられた。

鈴鹿央士演じるは皆に良い刺激と影響を与えた。特に亜夜が輝きを取り戻すことに大きく貢献し、同時に亡き師匠が残した課題「この人だ、と思う人を見つけろ」の答えを出した。結果には手が届かなかったものの、最年少の彼はまだまだチャンスがある。

一度しか観ていないのであやふやなところもありますが、こんなところでしょうか。こう見ると、一番描かれているのは二次予選でリタイアした明石だったのかも…。

キャラ語り、ほか

亜夜、松岡茉優はい、大好きです。「ちはやふる」シリーズしかり、“神童”的な役をやらせたら無敵! ヒリヒリした孤高さを漂わせながら喋ると意外に明るかったりするの、いいんですよ。ピアニスト役としても、本選のプロコフィエフは圧倒的な名演と思わせる迫力がありました。

マサル森崎ウィンレディ・プレイヤー1」の「俺はガンダムで行く!」で一世を風靡した、スピルバーグに認められた男(海外を拠点にしているマサルのキャラ設定とも重なる)。とにかくいい奴! 嫌いになる要素がない! ひとりだけタブレットの電子譜面なのもおもしろいですね。フットペダルでページをめくれる便利アイテムですが、使ってるプロピアニストどれくらいいるんでしょう。

明石、松坂桃李「生活者の音楽」を強調するためか、家あんまりにも田舎すぎない?!とか、ピアノの部屋それほぼ屋外じゃない?!とか突っ込みたくなるところはありましたが(ピアノ工房もかなり外気入ってきそうで心配に)、そんな環境から生まれたカデンツァ「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の前にはひれ伏すしかない…! 本当に頭の中ぐるぐるするし、弾きたくなるんですよ。あの一連の展開はすごいです。

塵、鈴鹿央士。別作品でエキストラの中から広瀬すずがスカウトしたという新人(芸名の「鈴」は広瀬“すず”由来らしい)。マンガ的なキャラクターを見事に演じている、というか元のルックスが限りなくマンガ的というか、すごい新人。キラキラして全くスレていない「ピアノ大好き!」な塵のキャラは、みんなの精神安定剤

塵と亜夜がピアノ工房で「月の光」を弾き始めるところも名シーンのひとつです。しかもそこから「ムーン・メドレー」になるというニクさ。相当眩しいのですが、なんだかんだ彼らはまだ10〜20代の少年少女だからキラキラしていていいんだという監督の言葉に、なるほどと納得しました。

脇を固めるキャラとしては、何と言っても斉藤由貴演じる審査員長! いや〜〜すごいキャラ。元“天才少女”、今はすっかりスレて酒とタバコが似合う女。そしてほぼ全編英語ゼリフという。そう、あの、これもまた「真実」に引き続いて「あれ?日本の映画だっけ?」ってなるやつで(笑) 字幕がすごく多い映画です!

日本人で字幕がつく人は他にも。森崎ウィンと福島リラ(ゲームオブスローンズやX-MENなど多くの海外作品に出演しているすごい人)は海外住まいの役なので、ふたりだけになるとずっと英語で喋っていたり。福島リラが「この7年間死ぬ気で練習してきたのよ?!」と八つ当たりするシーンで「Seven fuckin' years!」って言うの笑っちゃいます。

そういえば、斉藤由貴とおそらく元夫であろう審査員がバーで呑んでる場面。「ピアニストとして食っていける人は少ない」みたいな話をしてるバックでムーディーな演奏をしているのが自動ピアノ、っていう超皮肉! 尖ってるう!(笑)

尖った演出の最たるものは、言うまでもなく「馬」。馬がかっこいいという評判は聞いてましたが、確かにあの馬はかっこいい! 百聞は一見にしかずです。馬がかっこいい映画です。あと亜夜の二次予選だったか、ピアノの蓋に「映る」あの不意打ち演出。鳥肌立ちました。本作で一番好きな演出かも。ああ、「地下、雨とピアノ」も甲乙つけがたいな〜。

その他、一次予選ではまったくピアノの演奏を聴かせない思い切った編集(タイトルの入りとか、驚いた)とか、作曲家藤倉大さんによる二次予選カデンツァ4種の素晴らしさとか、三次予選のリハの怖さとか(マエストロ鹿賀丈史…ちびっちゃう…)、ステマネさんの格好良さとか、まだまだいっぱいあると思いますが特筆すべき点だらけでした。

…よし、終わっとこう。ぜひ劇場でご覧ください。いい映画でした、本当に!

(2019年121本目/劇場鑑賞) プロダクションノート等の興味深い読み物も公式サイトに多く掲載されてますので併せてどうぞ。