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主に映画の感想文を書いています

「ロケットマン(2019)」雑感

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すごく良かったです。エルトン・ジョンのことは何も知らず、歯医者で毎週聞かされてたジャズアレンジの「Your Song」くらいしか頭にはパッと思い浮かばず、ライオンキングの曲がエルトン・ジョンだったのもつい数週間前に知ったばかり、そんな程度のわたしですがすごく良かったです。

エルトン・ジョンは生きている!くらいのネタバレはあります。

概要

楽家エルトン・ジョンの半生を描く伝記映画。監督は「ボヘミアン・ラプソディ(2018)」にも携わったデクスター・フレッチャー。エルトン・ジョン役を演じるのは「キングスマン」シリーズのタロン・エジャトン*1。エルトン自身も製作総指揮にクレジットされている。

ボヘミアン・ラプソディ」と同時代・同背景の物語であり、製作時にクロスオーバーの案も出たというほど非常に似通った作品ではあるが、本作はミュージカル仕立てとなっているのが特徴。

見事な導入

まだ制作会社のロゴが出ている頃から厳かに流れる「Goodbye Yellow Brick Road」のコーラス。奇抜な格好をしたエルトンと思わしきシルエットがドアを強く開け、パイプ椅子へと乱暴に身体を落とす。カメラが引くとそこは何らかのセラピー会場で、エルトンは自分が薬物その他諸々無数のあれこれに蝕まれていることを告白し始める。いつしか彼の前には、幼い頃の彼自身が立っていた。ビビッドな衣装に包まれたエルトンが思わず「少年」を追っていくと、舞台はコントラストの低い1950年代へと移り変わる。

掴みがいい…! 素晴らしい…! このセラピー会場が映画のひとつの軸になっていて、ここから回想するかたちでエルトンの半生が描かれるのだということが開始数分でしっかり把握できる、映画としてのユーザーインターフェースの良さ、みたいな。満身創痍のエルトンから始まることで、この先こうなっていくお話だよという心の準備を早々に済ませることができる親切設計も嬉しい。

全体に言えることとして、ミュージカル仕立て(あくまでエルトンの楽曲を使用したもの)になっているおかげで、少々強引な展開だったりしても細かいことを気にせず観れるのが大きな強み。街全体を使った大規模なミュージカルナンバー「Saturday Night's Alright For Fighting」に乗せて幼年期、少年期、青年期と次々に役者を替えていく導入部の演出も、違和感がなくてとても良い。

とにかく、映画「ロケットマン」は観客をその世界へ引き込むのがとてつもなくうまいです。観ていくうちにじわじわのめり込んでいくタイプの作品ももちろん良いのだけれど、掴みの初速がすごい作品というのはそれだけで強烈な印象と感動があります。

こんなに求心力の高いオープニングは、「Another Day of Sun」でガシッッ!!と掴んできた「ラ・ラ・ランド(2016)」以来かなあ。「Goodbye Yellow Brick Road」の映画用アレンジが「ラ・ラ・ランド」のサウンドトラックと似た雰囲気なのも、そう思わせる要因かも。

Planetarium

Planetarium

試聴部分はちょっと違うけど、このへんの感じ。

I Want Love

一番ミュージカルっぽいと思うナンバーが序盤の「I Want Love」。映画オリジナルの楽曲かと思ったくらい。これは2001年リリースということで比較的近年の曲でした。必ずしも全盛期(がいつなのかは知らないけれど)の曲ばかりではないんですね。でもすごく映画に合っていたし、すごく好きです。

余談として、この曲のMVにはロバート・ダウニー・Jrが出演しています。というかロバート・ダウニー・Jrしか出演していない。薬物問題から芸能界に復帰した直後の出演で、エルトンからのオファーだった模様。同じく薬物依存に苦しんできた“ロケットマン”の助けを得てその後の“アイアンマン”が生まれたと思うと勝手に胸熱ですね。

薬物依存のシーンなどはもうこういった映画の定番中の定番ではありますが、本作ではタロン・エジャトンの表情演技に心底引き込まれてしまいました。マリリン・モンローさながら鏡の前で「エルトン・ジョン」を「作る」シーンとか、表情だけで何分でも見ていられそうです。自殺未遂でプールに沈んでから次のステージに立つまでの一連の映画的表現も凄かった。キービジュアルにもなっている“意気揚々とバットを肩に乗せて出ていくシーン”の前があんなだったなんて。

Your Song

今回知って意外だったのは、エルトン・ジョンが所謂シンガーソングライターではなかったということ。作曲をする、ピアノを弾く、歌う、でも作詞だけは常に相棒が担当していた! 本作ではそのバーニー・トーピンという作詞家にもスポットが当たり、より音楽伝記映画っぽさが増してます。

バーニーを演じるジェイミー・ベルという方がまた非常に好ましい「バディ感」を醸し出しておりまして、特に「Your Song」が生まれる瞬間の表情芸が…キラッキラでやばい。朝食がてら書いてた歌詞に、歯磨きだか髭剃りだかしてる間にあんな素敵な曲つけられたらそりゃキラッキラのお顔にもなりましょうよ。実際「Your Song」が生まれたシチュエーションというのは映画のとおりらしいです。歯医者で流れてたのも納得か。

そこからいろいろありつつ、疎遠になったりもしつつ、でも物語終盤、再びエルトンの前に現れたバーニーとその行動の神々しさ。バディもの好きな人には堪らん展開と思いますのでぜひぜひ(よだれ)。

ジョン・リードとゲームオブスローンズ

ブレイク寸前のエルトンに目の奥を光らせ口角を上げる男、ジョン・リード。ほどなくしてエルトンのマネージャー兼「恋人」となる彼を演じるのは、「ゲーム・オブ・スローンズ」でロブ・スタークとして一躍有名になったリチャード・マッデン

このジョン・リードという男がひどいヤツなんですわ。そう、ちょうどまさに「ボヘミアン・ラプソディ」にも全く同じようなキャラ出てましたでしょ。それもやはりGOT俳優のエイダン・ギレン a.k.a. ピーター“リトルフィンガー”ベイリッシュさん演じる、ジョン・リード……同一人物やんけ!!!

…っていう脳内茶番を昨晩あたりやってました。うん、知らんかったよ、びっくりだよ…。なるほどね、ジョン・リードさんはまずエルトンのマネージャーをやって、一悶着あって以降はQUEENとフレディのマネージャーをやっていたわけね…。歴史だなあ…。

それにしてもこの同一人物をそれぞれGOT俳優に当てたというのは、ある程度わざとな気がしてなりませんね。首切られろって誰しも思うようなキャラですしね。おっと。


書き始めるときりがないわけですが、本当しんみり良い映画でした。トーンの暗い映画という感想も多く見かけるけれど、むしろミュージカル仕立てでも暗くならざるを得ないこれだけの半生を経てなおエルトンはちゃんと生きてる。先の明るい映画だと思います。

ノンフィクション映画のお楽しみといえば、エンドロールの本人写真。「完治してない」エピソードでふふっと笑い、最後に出てきた子供時代vs子役ちゃんの激似っぷりには最大の涙が出てしまった。なぜ。

(2019年87本目/劇場鑑賞)

立川シネマシティの極音上映で鑑賞。気持ちのいい音でした。

Apple Musicって便利ね

ずっと聴いてます。

多くの曲が映画オリジナル楽曲に聞こえてしまったくらい原曲を知らなかったので、曲が染み込んでからもう一度観るとまただいぶ違うかも。というか、それ抜きにしてもおかわりしたい映画です。気に入った映画でも複数回観ようとはあまり思わないほうなのだけどこれは観たい。なんか無性によかったあの体験をまたしたい。

*1:じつは観終わって調べるまでタロン・エジャトンと「キングスマン」が結びつかなかった。エルトン・ジョンの出てる「ゴールデン・サークル」はしっかり映画館で観てるのに(笑) それくらい演技の幅が広い俳優さんということですね。