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主に映画の感想文を書いています

観光映画としての「天気の子(2019)」

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新海誠監督の最新作。特別ファンというわけでもありませんが(と言いつつ新海誠展は行っている)、国民的話題作となる可能性のある作品は人の感想が入る前に観ておこうと初日鑑賞。シネマイレージが溜まっていたのでお安くIMAXかぶりつきをさせていただきました。「海獣の子供」のリベンジ。

物語の内容についてはわたしなんぞが書くことではないかなと思い、ここでは印象的だった風景について少し。ネタバレ含みます。

言わずもがな新海作品は背景美術の美しさが特徴的で、今回も監督お得意の新宿をはじめとした東京都心の描写が素晴らしかったです。お馴染みドコモビルから始まり、建設中の新国立競技場がフレームインしてくるところで「おっ」となった人多いんじゃないでしょうか。実写映画ではないのに記録的価値のあるクオリティなのが新海作品のすごいところですね。60年後くらいに「東京オリンピック直前を描いた映画」として見られてたらいいな。(あと多分、池袋シネマサンシャインが映る最後の映画かな)

東京都心がメインの舞台ではありますが、「夜の東京」にスポットを当てているところがこれまでとは違う雰囲気を感じさせます。歌舞伎町にホテル街、無毒無害な作品と思って観にきた人は結構戸惑っちゃうかもというぐらいのダークさがある作品でした。風俗で働こうとするヒロイン、拳銃を拾っちゃう主人公、いちばん心暖まるシーンはラブホ。意外でした。

まあでも本当、絵が綺麗で。散々見慣れた景色も、絵に描かれると妙に感動しちゃうのは何故なんでしょう。施設名からサービス名まで、全て実在の名称で登場するのも地続き感があってとても好きです。コカコーラをコケコーラにする的な、ちょっと変えときましたってやつが非常に嫌いなので、個人的にはこれだけでかなり得点高いです。

そのおかげで、終盤の「地続きだけどちょっと現実離れした世界観」というのが際立っていて好みでした。まさか沈むとは。藤子・F・不二雄のSF短編「みどりの守り神」とかああいう東京が森になってるような話、たまらんのです。監督曰くここ数年の所謂「異常気象」から着想したらしい本作の物語、現実離れとは言ったものの「あながち……」なのがとても不思議な感覚にさせられます。

藤子不二雄SF全短篇 (第2巻) 「みどりの守り神」

藤子不二雄SF全短篇 (第2巻) 「みどりの守り神」

先日「海獣の子供」で驚いた「ぐりぐり動く背景美術」みたいなのも、これきっと今の最先端なんですね。今回こちらでもかなり使われていました。同じ技術なのかは分かりませんが、3Dマッピングとでも言うんでしょうか、背景美術かと思いきや360度回る! ビル群の夜景をカメラが飛び回る! みたいな、3Dアニメーション要素がかなり強くなっていて、「君の名は。」からの技術進歩すごいなあと思いました。

観光映画としての「天気の子」

どこかのキャッチコピーじゃないですが「東京は美しい」と思いながら観ていました。そう遠くないところに住んでるのに聖地巡礼したくなるような作品です。海外の日本アニメファンならなおのことでしょう。わたしの場合はニューヨークを舞台にした映画を山ほど観て気持ちを募らせて訪れて…ということをやりましたけど(ニューヨークひとり旅の記録2018)、本作を観て気持ちを募らせ東京を訪れる海外の人、かなりの数出てくるはず。

ニューヨーク旅行から帰ってきて意識するようになったことがあって、それは「自分にとってのニューヨークと同じように、日本に憧れてる海外の人も大勢いるんだよな」ということ。わたしがあっちでなんてことない全てに感動していたのと同じように、日本の、東京のなんてことない全てに感動する人もいるんだよなと。そう思うようになって以来、いつもの景色を意識的に「観光地として見る」ことをするようになりました。観光客っぽく撮ってみたりとか。町田ですけど。

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例: 「初めての町田に感動(?)した外国人観光客が撮った風」町田

結構これが楽しくて。憧れの地トーキョーへ電車一本30分で行けるような場所に住んでるのすごいじゃん、とかちょっと思えるようになったんですよね。ブルックリンに住んでるようなもんですよ(思い込みは大事)。「天気の子」は、これまでの新海作品よりもさらに強く、そんな視点を持たせてくれる映画だと思います。

ともすると海外の人を通じて気づかされがちな「灯台下暗し」の魅力を、しっかり日本人として意識的に発信することに注力している新海誠監督は素晴らしいなあという感想でした。

ちょいとばかり超個人的なただの感想を書くと、やはり「君の名は。」のバランス感覚はすごかったんだなとか、脇役のキャラが濃すぎてあかんとか(なんだあのリーゼント警部)ていうか警察に追われるくだりなくてもいいのではとか、どっかで見たような要素を詰め込みすぎてて散漫な気がするとか、比較的冷静に観ちゃった感はあるんですが一定水準以上には楽しめておりますのでぜひ大きなスクリーンで東京の風景をお楽しみください。

また、ちょうど京アニの痛ましい事件があったばかりで、これまで何も思わず流し見していたスタッフロールにとても複雑な感情が生じました。このタイミングでプロモーションや舞台挨拶回りをしなければいけない新海監督も不憫です。とりあえず「天気の子」観てこよ…と思ったのでありました。然るべきところへお金は回るでしょう。

(2019年68本目/劇場鑑賞) 雨続きの今夏、まさしくリアルタイムで楽しめる一本です。

言の葉の庭

言の葉の庭

雨といったらこちらも外せませんけどね! 未見の方は、ぜひ!