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主に映画の感想文を書いています

私はガス室の「特殊任務」をしていた(シュロモ・ヴェネツィア 著)


アウシュビッツ強制収容所における「特殊任務部隊=ゾンダーコマンド」を題材にした映画「サウルの息子(2015)」鑑賞後、もっと知りたくなって読みました。

サウルの息子 [Blu-ray]

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第二次世界大戦中の強制収容所で一部のユダヤ人に与えられた特殊任務部隊という仕事は、「絶滅計画」のため移送されてきた同胞のユダヤ人たちをガス室に誘導し、死体を運び出し、焼き、砕き、灰にして川へ捨てる、倫理観のかけらもないおぞましいものでした。

語り手であるシュロモ・ヴィネツィアさんは、この部隊に所属しながらも生還した数少ない証人です。解放後50年もの時を経てようやく口を開こうと思えるようになった、というシュロモさんの証言が、インタビュー形式で綴られています。

相当にショッキングな内容なのではと思いながら読み始めたのですが、意外にも語り口は穏やか。生い立ち、情勢の変化、そしてアウシュビッツへの収容、特殊任務、解放まで、不本意ながらもさらっと読み終えることができました。

本来なら生還不可能な地獄から幸運にも逃げ出すことができたシュロモさん。幼少時代からとにかく「生きるための賢さ」に満ちていたことが、少し読み進めるだけですぐにわかります。地獄の中でも常に最善の地獄を求めて立ち回る、その動物的感覚に驚かされます。それでいて生き残れるとはこれっぽっちも考えていなかった、というのですから更に驚きです。

アウシュビッツ敷地内の図面や記録画などイメージを膨らませる付録も多数収録されていますが、「サウルの息子」を観た後だからすんなり想像がつく、という場面も多くありました。順番としては「サウルの息子」から本書、のほうが良さそうです。

もちろん、さらっと読めるからといってさらっとした内容なわけではありません。話したところで誰も信じてくれないから、と50年も口を噤んでいた内容です。読んでいる側も途中からすっかり麻痺して、フィクションと思いながら読んでしまいそうなほど現実離れした、しかし現実にほんの数十年前おこなわれていたことの証言です。

Kindleでも手軽に読むことができますので、ホロコースト関連の作品を観て興味が湧いた方にはおすすめです。難しいことはなく、とにかく読みやすい本でした。