これまたおもしろい、とてもよい映画でした…。ただでさえいつもとっ散らかっている感想文、今回はさらに散らかりそうな予感がしております。なにせ話題がいくらでも広げられる映画でありまして。
とりあえずどういうお話かというと、1940年代にイギリスの首相だったウィンストン・チャーチルという人物が主役です。わたしには馴染みがありませんでしたが、英国人にとってはイギリスを救った英雄らしいです。
ウィンストンを演じているのは、ゲイリー・オールドマン。もはや「中の人」レベルの特殊メイクを施しての演技なのですが、全く「作り物っぽさ」のない完璧な変貌っぷりのおかげでとても集中してウィンストンの物語に入り込めます。
参考までに、これは「裏切りのサーカス(2011)」での、やはり老けメイクをしたゲイリー・オールドマン。これだと「老けメイクをしたゲイリー・オールドマン」って感じですけど、本作のメイクは完全に別人なのがすごいです。
メイクを担当した辻一弘さんがアカデミー賞にてメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したことも話題になりました。なお辻さんは同年「シェイプ・オブ・ウォーター」にも参加されてます。
では、いろいろ好き勝手に話を広げてみるといたしましょう。
女王陛下のお気に入り
さて、まずきっかけは「女王陛下のお気に入り(2018)」を観たことです。 レイチェル・ワイズ演じる「サラ・チャーチル」という非常にかっちょいい女性が登場しますが、なんでも彼女はウィンストン・チャーチルの祖先にあたるらしい、と。ウィンストン・チャーチルってあれじゃん、あの映画のやつじゃん、っていう経緯です。
「女王陛下〜」冒頭でアン女王がサラ・チャーチルにプレゼントしようとしている宮殿は「ブレナム宮殿」という実在の有名な宮殿ですが(さっき知りました笑)、なんとウィンストン・チャーチルはこの宮殿で生まれています。
首相であるウィンストンは王室にも出入りしますが、劇中で印象的なのが「退室するまで王に背を向けない」という動き方。これ、「女王陛下〜」でも女王に対して同じことがおこなわれていました。イギリス王室のマナーなんですね。
なお、この時の国王ジョージ6世は「英国王のスピーチ」の国王なんだそうで。
わたし、吃音がひどかった時期があるのでこの映画は避けて通ってきたのですが、そろそろ観てもいいかな。ダンケルク
ウィンストンは、あの「ダンケルクの撤退」を発案・指揮した人物でした。最近ではクリストファー・ノーラン監督が映画化した、「あのダンケルク」です。
予想外だったことに本作では大部分を使ってこの「ダンケルクの撤退」の裏側が描かれます。ノーラン版「ダンケルク(2017)」を観ていたので、あの物語のマルチアングルとしてだいぶ楽しむことができました。有名な史実の裏側を描いた映画というのは数多くあるでしょうが、最初に連想したのは岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日(1967)」です。
近年リメイクもされたこの作品は、いわゆる「玉音放送」の裏側を描いたもの。政治家たちの会議室ドラマが延々続くタイプの映画で、岡本喜八監督へのリスペクトが込められた「シン・ゴジラ(2016)」などもまた、フィクションではありながら似たような作品と言えるかもしれません。政治っておもしろいんだな、と思える映画たちです。Wikipediaによればウィンストンは「戦争とは笑顔で楽しみながらやるゲームである」という名言だか迷言だかを残しているようで、政治がエンタテインメントに見えてくるこれらの作品には少なからずこの要素を感じなくもありません。語弊は大アリです。
タイプライター映画
これもまた奇遇といいますか、ちょうど「大統領の陰謀(1976)」や「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2017)」についての感想記事を書いたばかりのところで、本作もタイプライターが印象的に登場します。
タイピストの秘書とコンビを組んで作業を進めていく様は、同じくヒトラーの時代を描いた「シンドラーのリスト(1993)」なども連想させます。
「シンドラーのリスト」では、確か終盤のハートウォーミングなシーンがフィクションだったように記憶してます。本作でも終盤でウィンストンが庶民と交流を持つ「地下鉄のシーン」がフィクションだとのこと。少しくらいこういう「泣かせ」の味付けは必要なのかもしれませんね。泣いた映画ってやっぱり満足度高いですしね。魅力的なイギリス女性
本作でウィンストンの秘書を演じるリリー・ジェームズさんがまた素敵です。見たことある好きな顔だけど誰だっけな〜と思っていたら、「ベイビー・ドライバー(2017)」「マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー(2018)」などのあの子でした。大人っぽくてわからなかった。
この感じ、どストライクです。それこそエミリー・ブラントのメリー・ポピンズと同じテイストですね。
ついでに「ワンダーウーマン(2017)」ロンドン編のガル・ガドットなんかも連想。わたしの好みは結構揺るぎないですね(ガル・ガドットはイスラエル人ですが)。
だいぶ脱線しましたが、とにかくこのタイピストの彼女がちょっとした語り部的な役割にもなっていて、いいキャラクターでした。
ウィンストンのパーソナルに惹かれる
ゲイリー・オールドマン演じる、というか扮するウィンストン。政界ではだいぶ煙たがられていたようですが、そこは英国のヒーロー、とても愛せる人物として描かれています。
彼のWikipediaを読んでいると、人間ってこんなにも濃い人生を送れるものなんだな…と思っちゃいます。 劇中ではあまり具体的に触れられませんが、ウィンストンは「言葉」を武器にしてきた人だったようです。あまり身体は強くなく、その代わりひたすら読書をして教養を蓄えていたのだそうな*1。文筆のほうでもかなり才覚を発揮しており、著書の印税で豪邸を建てられるほどだったとか。
何度か出てくる演説のシーンに思わず魅入ってしまったのはなるほどそういう背景があったからなのかと納得するとともに、言葉という「武器」の力を見事に見せつけてくれたゲイリー・オールドマンすごいわというところでもあります。
あともうひとつ、これもさりげなく盛り込まれている「Vサイン」ネタ。
どちらも「クソ喰らえ」の逆Vですが(笑) 一応本人的には「Victory=勝利」の「V」サインだったそうで。ポジティブな意味でのVサインを広めた人物のひとりだったようです。ちなみになんか、調べてたらニクソン大統領もVサインを愛用していたとか。映画がぐるぐるループしております。
巻かれそうになったけど最終的には自分たちのプライドを貫いて大きな勢力に立ち向かった「ペンタゴン・ペーパーズ」。大変な時期に首相になってしまい諸国との交渉にも巻き込まれそうになったけどやはり愛国心と過去の苦い経験から自国を守ろうとした「シン・ゴジラ」。などなど、などなど。つながる映画はほんと楽しい。
てなわけでウィンストンの生涯ほどじゃないにしろ濃ゆめの感想記事になってしまいましたがそれぐらいおもしろい映画でしたよ〜ということで、とってもおすすめです。政治・戦争のお話だけどしっかりエンタテインメントな映画になっているし、思いのほかスタイリッシュな演出でテンポよく楽しめます!
(2019年26本目)
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