映画化もされた1975年初演の舞台作品「コーラスライン」。2006年のブロードウェイ再演に向けたオーディションの模様を、作品の誕生秘話とあわせてドキュメント映画に仕上げたもの。原題は「一歩ずつ」を意味する「EVERY LITTLE STEP」。なぜこんな邦題に…というか「♪」なんぞ入れられてしまったのでしょう…。
つい先日映画版「コーラスライン」を観たばかりでの鑑賞ということで、とても楽しむことができました。ものすごく良かったです。映画より涙しました。 「オーディションを描いた作品」のオーディションを記録した作品、という二重構造がおもしろい本作。「コーラスライン」ではたった一日の審査でキャストが決まりますが、実際は一年近く、かなり長い期間をかけてふるいにかけていきます(はじめはなんと3,000人!)。最終選考の場面でついに舞台は劇場へ、「コーラスラインのあの場面」になるのがよいです。
またオーディションの記録と並行して語られるのが、コーラスラインの生みの親マイケル・ベネットによる語りを中心とした作品の誕生秘話。これがまた非常に興味深くてですね。ダンサーたちを集めたベネットはテープを回しながら、劇中と同じく「君たちの話を聞かせてほしい」と丸一日かけた座談会をおこない、そのエピソードを元にして作品を作り上げたのだそうです。全然知らなかったので、単純にこれだけですごい!!ってなるドキュメントでした。
基本的には淡々としたドキュメントでありながら、一箇所すごく印象的なシーンがあります。劇中にはポールというゲイのダンサーが登場します。ポール役のオーディションは見せ場である「つらい過去を吐露するシーン」で審査するのですが、なかなかピンとくる役者がいません。
しかし、諦めかけた頃に入ってきた役者がすごいのです。普段ならザッピング的に複数の挑戦者を見せていくところが、編集者もつい手が止まってしまったという感じでその人だけを最初から最後までしっかり見せてくれます。あれ……ただのオーディションの演技を見ているだけなのに涙が……と思ったら審査員まで唇を震わせていて余計に涙が。なんの文脈もなくいきなりあんな人を打ち震わせる演技ができるものなんだ、と衝撃でした。
それからもう一人、高良結香(たから ゆか)さんという日本の方も出てきます。結果的にはこの方、合格します。つまり、2006年版のキャストになっています。ここまで不遇の人生だったのかなと思ったら意外とそれより5年前に「マンマ・ミーア!」等にオリキャスで出ていたりとキャリアはしっかりある役者さん。そんな人でも、こんな気の遠くなるような「EVERY LITTLE STEP」を踏んでこないといけないんだ…と、ブロードウェイの厳しさを感じました。「失業手当が切れてるからこの仕事が必要なの」とニコニコ語る姿が記憶に残ります。
そのほか印象的だったのは選考審査が圧迫的でないところ。イメージと違って審査員側がみんなあたたかくて、すごく「対等」に見えました。最終選考に残った人たちも皆お互いを認め合っているようで、映画版で見たあの感じに極めて近く、驚きました。あんな空気のいいオーディションがあるんですね。
「ダンサーはおもしろい人間たちだ」とマイケル・ベネットが言ったように、ただのオーディションドキュメントとは思えないおもしろさのある作品かつ、「コーラスライン」と重ね合わせることで何倍も胸に響いてしまう作品です。そしてこれからは舞台に立っている人たちを涙なしに見れなくなってしまうこと必至です。
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