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主に映画の感想文を書いています

マザー!(2017)

ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督作品。日本で公開中止されたほどの問題作ということでしたが、絵画のようなポスタービジュアルとタイトルはちょいちょい目にしていたので、怖いもの見たさの鑑賞。ネタバレ含みます。

あらすじ

夫がいて、妻がおり、家がある。

家の修繕と家事に勤しむ妻。詩人である夫は、ときに見知らぬ客人を家に招き入れる。人の家であることなどお構いなしの客人たちによって汚されていく家。戸惑う妻。なおも寛容な夫。そんななか妻は子を授かるが─。

ネタバレなしでは観ていられない映画

うっかりネタバレを踏んだ上で鑑賞しました。監督の狙いは「ネタバレせずに一斉公開し、議論をしてもらう」ということだったようですが、わたしの感想としては「ネタバレなしでこんなしんどいの観れんわ!」です。

監督によれば、本作に込められた主なメッセージは「地球環境問題」。それを語るために使われたのは聖書の設定。夫が「神」で妻が「地球」。アダムとイブに、その息子たちであるカインとアベル、そのほか地球上の人間たちも大勢登場。聖書の場合は「神と人間」視点で描かれているのに対し、本作の視点は「神と地球」、特に“母なる大地”である地球からの視点がメインとなっています。つまり「聖書を地球視点から見た作品」というイメージ。

んで実際鑑賞してみますと、いくらなんでも神ってば酷くないかいとワナワナしてしまうような展開が続いていくのですが、これに関してこちらの記事がすごく腑に落ちる解説をしてらっしゃいましたので部分転載させていただきますね。

「神」は、その妻である「地球」から見ると大変に酷い存在だ。信者ばかりかまい、暴力に晒される妻をサポートしない夫なのだから。しかしながら、そんな彼は我々「人類」からすれば「とても慈悲深い神」となる。

『マザー!』聖書メタファー解説/男女論ではなく社会派映画? - 辰巳JUNKエリア 様より転載

なるほど…。ぐうの音も出ない…。


まあ、というわけでですね、わたしがネタバレとして見たのは「地球環境問題を扱っている」という情報だけなんですが、ほんとにね、せめてそれくらいの事前認識がないと、見ておれん! むり! しんどい! メタファーが過ぎる!

ジェニファー・ローレンス演じる妻は非の打ち所のないような良妻だし、彼女が丁寧に作り上げた家は綺麗だし、もう、最初のジジイが家の中では吸わないでと言われていたタバコを吸ってやがったときの嫌悪感!! そのジジイのワイフがレモネード作りで散らかしたキッチンを目の当たりにしたときの嫌悪感!! わかったよ! 言いたいことは十分に伝わった! あと100分くらい続くのかよ! もうエンドロールにしてくれ! …とね、めっちゃキツかったです。

しかもこれ、例えばエンドロール後に問いかけのメッセージのひとつでも出てくればいいんですけどそれもなしですからね、まっさらでの初見だったら長過ぎる悪夢ですよ。実際、最初に脚本を見せられたスタッフも「監督が心配になって電話した」とか言ってるくらいですからね(笑)

とはいえメッセージ性を知った上で観ると、めちゃくちゃしんどいながらも釘付けになってしまうのは確かです。観ながら何度も足元に目をやっちゃいましたもん。地球さんごめんなさい、って。特に何もしてないつもりだけど、傷つけてたらごめんなさいって。だから、そういう映画だと教えてくれた上で、鮮烈すぎる道徳教材として見せてくれていいと思うんですけどね…。

制作の裏側

DVD特典映像のメイキングがなかなかおもしろかったです(こういう映画はメイキングでも観ておかないとやってられない)。撮影前にはメインキャストらと3〜4ヶ月もの間ストーリーを練り、倉庫の床に描かれた「家」の平面図の上でリハーサルを重ねたのだそう。この家、なんとなく「ファイト・クラブ」の家っぽくないですか。

特殊効果系もすごくて、意外とCGを使っていない! ラストで灰になった妻が崩れていくシーンなども実際に「崩れる焼死体」の装置を作って撮影していたりだとか、赤ちゃんのシーンは特注の「赤ちゃんロボット」を使っていたりだとか(アタッシュケースから取り出される赤ちゃん…)、監督の生半可でない気合いが伝わってきました。

ジェニファー・ローレンスは先日「レッド・スパロー」で初めて拝見しましたが、ふわっとしたルックスのわりにエグい役が多いですね。そのギャップがまた強い印象を生むのでしょうけど。鑑賞中、何度も「スパローであれ!!妻よ!!」と切に願ったものです。


以上、日曜の昼間に観るのはちょっとどうなんだろう…ってな感じの、しかし非常に印象的な作品でした。こういう作品こそ「映画体験」だなあと思います。一見の価値は、あります。

(2018年88本目)