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主に映画の感想文を書いています

ドリーム(2016)

(原題「Hidden Figures」)

あらすじ

1961年アメリカ。ソ連との宇宙開発競争に遅れをとるNASAは、一大プロジェクト「マーキュリー計画」の実行に向けてピッチを上げていた。まだ「Computer」という単語が電子計算機ではなく人間の「計算手」を指していた時代。根強い人種差別のあるなか研究所の地下に押し込められた黒人女性計算手たち(=Hidden Figures)は、正当な居場所を求め闘っていく。実話をもとにした物語。


マーキュリー計画を中心としたNASAのドキュメンタリーであると同時に、当時の人種差別を知らしめる作品にもなっています。すべてが「白人用」「非白人用」に分けられ、黒人が対等な人間として扱われなかった1960年代バージニア。陰湿な差別描写が前半1時間続き、とても胸糞悪い気持ちになります。劇中で黒人差別が描かれる作品は多いですが、こんなにも気分が悪くなったのは初めてかもしれません。

とはいえ本作、決して重苦しい作りではありません。繰り返される「非白人」への蔑視に我慢がならなくなった頃(トイレのくだりが特に印象的)、映画ならではのエンターテイメント性が発動し、カタルシス的な展開へと向きを変えていきます。1時間の蔑視に耐えた観客は本当に胸がスカッとし、彼女たちの強い意志と行動力に心動かされます。

というだけであれば「いい映画だったな〜」で終わってしまいそうですが、この作品は明らかに何か複雑な気持ちをぶっ刺していきます。「すっかり非白人側の目線で観ていたようだけど、果たしてキミはそっち側なのかい?」という自問自答が生じるのです。人種差別でなくとも例えば障害者に対してだったり、なんらかの無意識な蔑視・偏見を持っているんじゃないの? と考えさせられるのです。

ちょうど時代背景もまったく同じ(ついでに同じくオクタヴィア・スペンサーも出ている)「シェイプ・オブ・ウォーター(2017)」を観たあとに、そういえば自分だって「トイレ掃除のおばちゃん」とかは完全に存在を無視しているかもしれない…と思ったんですよね。そんな趣旨の感想ツイートを読んだのがきっかけなんですが、すごくどきっとしました。

「シェイプ〜」もこの「ドリーム」もエンターテインメントとして非常によくできた作品でありながら、そういったことを考える手助けもしてくれます。特に本作、人としてまっとうであるために観ておきたい映画だと感じました。

(2018年59本目)

そのほか雑感

マーキュリー計画というのは馴染みのないものだったので、今回すごく興味が湧きました。ついWiki熟読しちゃいました。同計画を描いているという「ライトスタッフ(1983)」近いうち観てみようと思います。

ライトスタッフ 製作30周年記念版 [Blu-ray]

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本作はとにかくキャストが素晴らしかったです。メインキャストの3人はもちろん、ハリソン本部長を演じるケビン・コスナーがあまりにも理想的な上司で…。あの本部長がいなかったら耐えられなかったであろうシーンがたくさん思い出されます。どっかで見たな〜と思ったキャサリンの再婚相手とメアリーは「ムーンライト(2016)」序盤で出てくるあのカップルだったんですね。

あと、宇宙の旅にはどうしてもIBMとのバトルが必要なんだなあとか(笑) HALはもちろん、「アルファヴィル(1965)」のα60も同じようなメインフレーム・コンピュータでしたね。なんて知ったかぶりしつつメインフレーム・コンピュータなんてまったく無縁の世代なのであれですが、調べていたらIBMが「ドリーム」公開に際して丁寧なコーナーを設けてくれていました。すてき。

映画『ドリーム』 アーカイブ - IBM Systems Japan blog