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主に映画の感想文を書いています

気儘時代(1938)

気まま時代 THE RKO COLLECTION [Blu-ray]

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フレッド・アステアジンジャー・ロジャースの8作目。1986年生まれのわたしですが、最近は1930年代の映画にまったく抵抗がなくなりました。マーク・サンドリッチで音楽アーヴィング・バーリンのアステア&ロジャース、わーい見ます見ます!ってな感じです。その時代に「推し」を作ることで、時代の垣根はなくなります。

さて、この「気儘(きまま)時代」、見どころ語りどころが多くて非常におもしろい作品でした。精神科医アステアと患者ロジャースによる、ドタバタ催眠ラブコメといったところ。すげえ、中身なさそう(笑) つらつらとこの作品の魅力を書いてみます。

いきなりオープニングが洒落てる

クレジットが、サンドアート的な手法でリアルタイムに描かれていきます。描いては消し、描いては消し。これはなかなかにオシャレ。

アステアの役どころが新鮮

もう20本近くアステアの出演作を観てきましたが、今作は「精神科医」。ショウマンじゃないのは結構珍しいパターンじゃないでしょうか。20年後の「渚にて」で医者役を演じているものの、あちらはミュージカルじゃないですしね。

ロジャースの役どころも新鮮

催眠療法(ヤブ感がすごい)にかかったままで街へ出てしまい、「潜在意識」に従ってたんまりワルをやらかしちゃうロジャース、新鮮ながらなかなかのハマり役です(アステアの「潜在意識」が鏡越しに登場するなんていうシーンもあって、凝ってます。「空中レヴュー時代」で「心の天使と悪魔」が具現化されるシーンを思い出しました)。

催眠療法の手違いを修正するために自分自身の悪口をロジャースへたっぷり刷り込ませたアステアに対し、効果てきめんなロジャースが「犬死にすべし!!!」とライフルでアステアを撃ち殺そうとするシーンも最高です。なんておバカな映画なんだ。

アステアのアイデアがたんまりと

「二度と同じダンスはしない」をモットーとし、新しい作品に入るたび新しいアイデアを取り入れていたアステア。今作の目玉はゴルフとタップの融合! これは本人がプライベートのゴルフ中に偶然思いついて、それをブラッシュアップしたものだそう。かなりすごいコンビネーション技です。同じシーンでの「ハーモニカ吹きながらタップ」も器用。

終盤でアステアがロジャースにこれまた催眠術(もはや療法とは呼ばない)をかけながら操るように踊るというおもしろいシーンがあるのですが、ここのナンバー「チェンジ・パートナーズ」は、「バンド・ワゴン」の「ダンシング・イン・ザ・ダーク」に匹敵する名曲だなあと思います。

初キス!

これまで7作も共演しておきながら、あえてキスシーンは作らなかったというアステア&ロジャース作品。とはいえ外野の詮索がやんやうるさいものだから、今作ではアステアの提案で「君さえ良ければ今作で世紀の接吻をしようか」ということになったのだそう。というわけで、なんとスローモーションでキスシーンを堪能できます(スローモーションのダンスはのちに「イースター・パレード」でも登場するアイデアですね)。…という前情報を知っていながら、初見では見逃したわたし。思ったより引きの画だったのと、割とあっさりしていたもので。慌ててリプレイしましたわい。

ちなみにこの案件、アステアの奥様も「なにそれ楽しそう、見せてよ」と興味津々だったらしく、該当シーンの撮影翌日には一緒に試写室で鑑賞したとか。でも未編集のスローモーション撮影だったものだからキスシーンだけで数分間も見せられる羽目になり、奥様大爆笑のアステア赤面だったようです。素敵なエピソード。

おまけ

ちょっとだけ出てくる黒人のメイドさん、「ショウ・ボート(1936年版)」とか「スイング・ホテル」に出てくるのと同じ人かしらんと調べたら、「スイング・ホテル」は違う人だったけど「ショウ・ボート」のほうは同じハティ・マクダニエルさんでした。この頃、こういう丸顔の黒人メイドさんよく出てきますね。

てな感じで、当時は興行収入落ち目だったとはいえ、内容的にはマンネリしていなくてとてもよいです。1930年代のアステア作品中ではかなりおすすめできます。ていうかまあ、好き。

(2018年24本目)