NY旅行記20本目(ここまで来たか…)(でもまだ折り返し地点)。この記事の続きです。 前回までのあらすじ: ヘプバーン映画のロケ地、垂涎ミートボールショップ、町田の誇りなど、エモ散らかしてきた353。今回の旅で最初に手配したミュージカル鑑賞へと向かいます。
旅メモ: チケットの手配については NY旅行記【準備編② 観劇&観光の手配】 - 353log に詳しく書いてあります。
初めてのブロードウェイ・ミュージカル
近くの駅から再び地下鉄1ラインに乗り、"Lincoln Center Station"下車。リンカーン・センターへ向かう。今回もだいぶギリギリの時間設定で行動しているがどうにかなっている。こんなことでは調子に乗ってしまう。
今日は、初のブロードウェイ・ミュージカル鑑賞。「My Fair Lady/マイ・フェア・レディ」を観る。旅程を決めたその日に勢いで手配してしまったチケットだ。
リンカーン・センターへ到着。ここはメトロポリタン歌劇場などのほうが有名だと思うが、ブロードウェイの劇場もある。
ブロードウェイというとタイムズスクエアあたりの猥雑な雰囲気を連想してしまうのだが、そもそもはマンハッタンを斜めに長く走っている通りの名前であり、この写真を撮るために立っている道もブロードウェイだし、ひとつ前の写真に写っている道路もブロードウェイだ。劇場的な意味ではここが最北端あたりになるらしい。
「My Fair Lady」が上演されているビビアン・ビューモント劇場は、奥まったところにある。外見もロビーも、日本の古い公会堂みたいな雰囲気でこれといった味わいはない。ちなみに、渡辺謙さんの主演抜擢で話題になった「王様と私」はここで上演されていた。
上の記事は、趣味で30年間ブロードウェイに通い続けている戸田恵子さんが杏さんと一緒に晴れ舞台を観に行った話。
今回の旅では「分からなかったらとりあえず訊く」というググらない男を実践しているので、入ってすぐのグッズ売り場のお姉さんにボックスオフィスの場所を教えてもらった。決済に使ったクレジットカードやパスポートなどを用意して並んでいたが、なんの確認もなくあっさりチケットを引き取れた。結局こっちに来てからパスポートで身分証明をする機会は一度もなかったかも。
エリアのみ指定するタイプの予約だったので、どの席が当たるかはこの瞬間のお楽しみ。座席表で確認すると、二階上方のど真ん中だった。ガッツポーズ。いい席は予約した順に振り分けられていくらしく、早めに予約した甲斐があった。
執拗に2回ほどトイレへ行き、入場。憧れのPLAYBILLをゲット。こんなただの小冊子がなぜ嬉しいのかよくわからないが、コレクター魂をくすぐるこのアイテムを初めて手にできたことは無性に嬉しい。もうひとつのしっかりした冊子はリンカーン・センター発行のほぼフリーペーパーのようなもので、1ドル入れて勝手に持ってってね〜というシステムになっていたのでもらってきた。
席へは場内スタッフさんが案内してくれた。このへんは日本となんら変わりない。座席表から想像した通りの最高に見やすい席、かつ座り心地のいいシートで心身ともにほっとする。眼下には円形の大きなステージがあり、石畳の地面に一本の街灯、そして花売りの籠がひとつ置いてあった。じつに期待が高まる。
開演が近づいてくると、さっきのスタッフさんがアナウンスを始めた。「一幕は90分、その間みなさんケータイ我慢してください! みなさんならできる! ファイッ!」。思わず笑いが漏れる。どこの国でも上演中のケータイ問題は同じなんだなと思ったし、翌日にはその思いをより深めることになった。
開演
意外なほどシームレスに始まった。最初は序曲なのだが、序曲というのはつまり予ベル的な意味合いがあるのだと知る。この間に座っとけ、というやつだ。
わたしはといえば、まだ序曲だというのにモーレツに感動していた。序曲は「君住む街角」から始まるのだけど、優雅なそのメロディを聴いていたら、「俺は今…ニューヨークで…ブロードウェイで…この曲を聴いているんだ…ブロードウェイにマイフェアレディを観に来ているんだ…」と感慨深くてたまらなくなってしまったのである。なお一人称「俺」は脳内でしか使わない。
もしかしたらこの瞬間が、旅のなかで一番「実感」を覚えた瞬間だったかもしれない。
さて本編。本当に素晴らしかった。オードリー・ヘプバーン主演の映画版はわたしが映画にのめり込むきっかけのひとつとなった作品なので思い入れも強いのだが、あの映画の雰囲気を全力で再現しに来ている、というのが個人的な印象。
イライザがレディになっていくにつれ、映画のトーンは淡く、パステル調のものになっていく。アスコット競馬場のシーンなどが特に特徴的だろうか。この舞台版においても衣装やセットなどであの雰囲気を見事に再現している。映画版の色調が好きだった人には堪らないだろう。
まだ泥臭い頃、花売り娘なイライザのシーンも見事だ。遠近感を強調したオペラハウス前のシーン(リンカーン・センターで上演されることのリアルもあわせて推したい)における「痒いところに手の届く感」がすごい。どういうことかというと、手押し車でシーソーするシーンのような「やってくれるかな…無理か…」みたいなやつをしっかりやってくれるのだ。あの「ラブリー」は良すぎて泣いた。
舞台美術もすごい。NHKホールのように奥行きのあるステージだからできることだと思うが、ヒギンズ教授宅のシーンになると正面奥から巨大な家のセットが前へやってくる。ロングラン公演ではないから初見の人が多いのだろう、セットの初登場時はどよめきが起きていた。そしてそのセットはこの劇場がウリとしている回転ステージの上に乗せられ、シーンに合わせて回転する。見る位置によって様々な部屋に変わる円形の家なのだ。
ヒギンズ邸は映画と同じく二階建てになっており、階下で騒ぐイライザとなだめるピカリング、それを上階から冷たくあしらうヒギンズ。映画で見たとおりのやり取りがそのままの位置関係で繰り広げられる。とにかくこのセットがすごい。幕間で席を立つ人々がすごいすごいとざわめきだっていたのはこのセットによるものが大きいはずだ。
二幕は舞踏会のシーンから始まるのだが、驚いたことにオケピのメンバーが舞台上にワープしていた。確かに映画でもこのシーンはお抱えのバンドがいる。が、そこまで再現してしまうとは。そしていつの間にかメンバーたちはまたオケピへと戻っている。エンターテインメントだ…。
だいぶ上品なミュージカルになってしまうのかと思っていたのだけど実際は笑えるところがかなり多く、特にアスコット競馬場での「初めての社交場」シーンは映画を遥かに上回る抱腹絶倒コメディパートと化していた。英語がわからなくても腹がよじれるほど笑えたのだから、相当だ。
英語といえば、今回の観劇に向けて映画「マイ・フェア・レディ」を字幕なしで観てみたり(原作寄りの「ピグマリオン」も併せて鑑賞)、ペーパーバックを購入してみたりと、結構準備はした。

- 作者:Lerner, Alan,Loewe, Frederick
- 発売日: 1975/03/27
- メディア: ペーパーバック
スタンディングオベーションで盛大に幕を閉じた本編だったが、カーテンコールではピカリング大佐が募金の呼びかけをして何やら盛り上がっていた。このへんがいまいち理解しきれないのは少々悔しい。ロビーへ出ると募金箱を持って立っている演者さんがいたので、ポケットにあったチップを入れた。他の人たちも「いいショウをありがとうね」とお金を入れていた。
最高の初ブロードウェイだった。よくぞ「My Fair Lady」を選んだ!と自分を褒めたい。
まだ完全には暗くなっていない空を見て、今から急いでブルックリンへ渡ればマンハッタンの夕暮れを拝めるかもしれないなどと一瞬思ったがさすがに余韻を優先した。
リンカーン・センターの夕景
見るからに優雅なオーラのメトロポリタン歌劇場。オペラを観るようなアカデミックな趣味は持っていないが、ここには入ってみたいと思った。趣味の範囲外だけど入ってみたいと思わせるような建物がニューヨークには数多くある。
噴水は憩いの場としても撮影スポットとしても人気らしい。まるで映画から飛び出てきたように素敵な黒人父娘から声をかけられて写真を撮ってあげた。ダディが大好きでたまらなさそうな娘さん、かわいい。お父さんも上品でかっこいい。こっちにくると柄にもなく人の幸せを祈ってしまう。
比較的に民度の高い場所であろうこともあり、とにかく雰囲気がいい。いつまでもぼんやりしていたくなってしまうが、今宵はまだもうひとつ大きな予定があるのでお別れだ。
次回、キングオブ摩天楼エンパイアへ登る。