NY旅行記8本目。この記事の続きです。
前回までのあらすじ:ニューアーク空港からどうにかマンハッタンへやってきた353。写真を撮っている余裕がなかったため活字だらけになりました。
最大のカルチャーショック
摩天楼エンパイアとの感動的初対面を果たしたわたしだが、じつのところ感動できる状況ではなかった。ひとことで言えば情報過多。マンハッタンの喧騒に目を回していたのである。
おそらくこれは日本人には想像できないレベルの喧騒だと思った。ひっきりなしに鳴らし交わされるクラクション、日本のそれとは違った鳴き方をする緊急車両のサイレン、客引きかなにかわからないけどデカい声で叫び続けている黒人。この3つが合わさったスペシャルカクテル「マンハッタンの喧騒」はストロングすぎるのだ。
なかでもやはり、クラクション。主にイエローキャブ(NYを象徴する黄色いタクシー。うじゃうじゃいる)から発されるものと思われるが、クラクションというのは日本だと「なるべく鳴らさないもの」であるのに対し、どうやらこちらでは「積極的に鳴らすもの」であるらしい。じりじり待つ、なんてことはしない。おのれのゆくべき道に障害物が現れるや脊髄反射で「エクスキューズミー!」と鳴らしている、きっと、あれは。
この喧騒は、マンハッタンといってもミッドタウンの、さらに絞ってタイムズスクエア周辺あたりだけに限定されたものかもしれない。もちろん脊髄反射クラクションはどこでも聞けるが、くらくらと圧倒されるほどの喧騒は今回の旅で歩き回った限りここだけだった。で、それに加えての摩天楼と人混みである。投げつけられる情報が多すぎて、とりあえず一旦ここから逃げようと思った。
盛大な歓迎
ちょっと落ち着いて地下鉄の入り口を探そうと、人混みを避けて建物の壁際に張り付いたときである。上から冷たいものが降ってくるのを感じた。雨かな、と摩天楼の隙間を見上げると、驚愕の光景がそこにはあった。雪だ。
数秒前まで晴れていたのに、紛れもなく雪。それも、軽く吹雪いているレベルの雪。
一週間ほど前、ニューヨークに初雪が降ったと話題になっていた。タイムズスクエアが白くなっていた。渡航時の天気を心配したものの降らなそうで安心していた。まさかこのタイミングで降るとは。ちなみにこの降雪はほんの「にわか雪」程度だったらしく、積もることもなく、滞在中は二度と降らなかった。ニューヨークの歓迎だと確信している。
はじめての地下鉄
喧騒と雪でキャパオーバーになったわたしは地下鉄の駅へ逃げ込み、大事なミッションに取り掛かった。そう、メトロカードの購入である。
最も予習した科目だし、地上のカオスに比べればなんてことはない。冷静になって7日間のアンリミテッドを購入。今度はちゃんとディップからのカード払いもできた。そして問題の改札もクリア、GO!
旅メモ1: メトロカードや地下鉄の乗り方についての記事は沢山ありますが、わたしはこちらの記事(ニューヨークの地下鉄の乗り方とメトロカードの買い方&使い方 - BASIK NEW YORK)などを特に熟読させていただいていました。
旅メモ2: なかなか詳しい情報が出てこないのは、スーツケースを携えた状態での改札くぐり。わたしの62Lスーツケースの場合はバーの下をそのまま通るサイズだったので、先にスーツケースをくぐらせてから自分がバーを回して通過する、という流れでスムーズにいけました。
あと多分、東京のイメージで改札の人混みを想像している方も多いと思いますが、わたしの滞在中に関しては大きな駅であってもそこまで改札に人が集中していることはありませんでした。なので落ち着いて通過できると思います。
スムーズにGOできたはいいが、果たしてこのホームで合っているのか不安になる。ニューヨークの地下鉄では一度改札を入ってしまったら他のホームへは移動できないと聞く。ここはどうにかして無事に乗車を成功させたい。なにせ、まだホテルへ着いていないのである。
不安な気持ちを解消してくれたのはGoogleMap。ほんとうにきみはいいともだちだ。GoogleMapくんが言うには、このホームには複数の路線が入線してくるらしい。わたしが乗りたいCラインは本数少なめながら、ちゃんとそのうち来るようだ。辛抱強く待っているとその通り、お目当ての列車が来た。しかし見る限りだいぶ旧型の車両。全体的に黄ばんでいる。まあ乗れればいいか、と肝っ玉が据わりはじめる。
乗った時間はちょうどラッシュ時だったのか、滞在中乗ったなかで最も混んでいた。普通に日本の電車と変わらなかった。スーツケースを持っているので気が引けてしまうが、無印のロック機構のおかげでだいぶ助かった。いくつか駅を過ぎると一気に乗車率が下がった。推測するにあれはコロンバスサークル駅だったと思われる。
がらんと空いた車両のなかで座ろうかどうしようか迷っていると、視界に何か感じるものが。なんと、年配のご婦人が「こっち座りなさいよ坊や」と手招きしてくれていたのである。およそ怪しい人とは思えなかったため、喜んで隣へ座らせていただく。「どこから来たの?」と尋ねてくれ、ややテンパりながらもJapanと返す。そして自然に「So cold...! Snow!」と口が動き、「そうほんと!寒いわね〜!」的ニュアンスで会話が続いた。天気の話題は万国共通だとわかり、雪に感謝した。もちろんご婦人にも。
降りるときに「Happy Thanksgiving!」とでも言えればいいなと思った(前夜に言うのかどうかは知らないけれど)。しかしそれはもっとHappyなことで阻まれた。同じ車両にご婦人のお孫さんと思われる少女が偶然乗り合わせていて、「オーーーマイガーーーー!!!!」とハグしに飛んで来たのだ。少女が招く先には彼女の家族らしき人たちもいて、ご婦人は手を引かれるままそっちの席に消えていった。わたしのニューヨーク初日を彩ってくれたご婦人と推定ご親族に幸あれ。
ようやくホテルへ
Cラインの"103rd Street Station"で下車。最寄りはもうひとつ先の駅だったが、アプリによっては閉鎖中と出るのが不安だったため手前で降りた。もちろん、執拗なまでのGoogleMapロケハンでこのあたりの予習もばっちりである。この駅の地上出口は大通りから少しそれた路地にある。地上に出たらぐるっとターン、そうすれば目の前にセントラルパークがあるはず。正解。
もうすっかり暗く、そこにパークがあることぐらいしか判らなかったが、それでも感動した。毎日のようにストリートビューで見ていた場所をいま実際に歩いているのだ。
横断歩道の渡るタイミングがよくわからない。歩道に比べて横断歩道はいきなり舗装が粗くなる。道路には意外と勾配がある。ストリートビューでは知り得なかったことにいちいち感動しながら、ついでに強烈な寒さに震えながら、ホテルへ到着。長かった。
今回宿泊したのはこの「Park West Hotel」。セントラルパーク西側の最北端にある。中心部から遠すぎやしないだろうかと予約時には思ったのだが、実際そんなに遠いわけではなかったし、なによりあの「喧騒」にちょっと弱いことがわかった今はむしろ中心部から離れていてよかったと思えた。
なおチェックインが遅くなることを見込んで、ホテルへは日本からメールで連絡を入れておいた。すぐに返信が来たので、ちゃんと取れているんだろうかという不安は解消された。
旅メモ: ホテルへのメールの書き方についてはこちらの記事などを参考にしました。
日本語おじさん
ホテルのフロントにおける会話というのも、入国審査に次いで不安な項目だ。落ち着いて最低限の受け答えができれば大丈夫、大丈夫。気を引き締めてドアを開けたが、そんな小心旅行者のペースは「日本語おじさん」の登場によってかき乱される。
そう、確かに口コミは軒並みこの日本語おじさんのおかげで星マイナスされていた。きっとスタッフは何人もいるだろうから、当たらないよう願っていた。当たった。というか、多分このおじさんはオーナー的なポジションだ。フロントでは普通にお姉さんが対応してくれているのだが、その横から茶々を入れてくるのだ。そしてフロントのお姉さんはおじさんをガン無視である。こういうおじさんも万国共通なのだと察した。
おじさんの口からは「カトちゃんぺ」「コマネチ」といったちょっと古い日本のギャグが主たるレパートリーとして次々に飛び出す。しかし最も困らされたワードは「ハイチュウ」だ。わたしはフロントでパスポートやクレジットカードなどを出そうとごそごそしている。少し慌てている。横からおじさんが何かしきりに言ってくる。何?何??バウチャー??いま出すから!!待ってよ!!…は??ハイチュウ??お口の?それ?
ええいI'm not sure!!!
いつでも口から出せるよう叩き込んできた「わかりません」をまさか「めんどくさいから知らないって言っとこ」のニュアンスで使うとは。メンドクサイは国境を越える。
しかしこのおじさんにはなんだかんだ世話になるのである。チェックインが済み、無骨なエレベーターで部屋へ。カードキーを差し、開……かない。開かないぞ。どうやっても開かないぞ。しばし格闘した末、しょっぱい気持ちになりながらフロントへ。おじさんごめんよ、doorがopenしないよと泣きを入れる。マカセナサイといった感じのおじさん。ドアの前でおもむろにカードを掲げ、ピート・タウンゼントのごとく大きく振りかぶり(ここが日本のおじさんにはないところ)、ピッ、ピッ。カチャッ。
得意げなおじさん。ありがとうおじさん。今後はもう少しギャグに付き合うねおじさん。センキューセンキューアリガトーとお礼を言い、冷静に準備しておいた2ドル入りの握手をする。初チップの相手は日本語おじさんだった。
部屋は比較的きれいだったと思う。イメージ画像からそう大きく離れてはいない。水まわりも悪くない。こないだ大阪で泊まったビジネスホテルよりは綺麗かも。上出来。
ようやく一息ついて、時刻は20時過ぎ。そんなに疲れは感じない。時間もまだ早い。では、もうひと頑張りしてみるか。防寒を足してホテルを出る。
到着日編③へ続く。