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主に映画のあらすじと(まとまりのない)感想文

浮雲(1955)

浮雲

浮雲

浮雲と聞くとわたしなどは元東京事変長岡亮介氏を連想してしまいますが、こちらは映画です。

先日の「エル・スール(1983)」同様、「ナラタージュ(2017)」に登場した作品ということで鑑賞しました(特別好きだったわけでもないのに、なぜかナラタージュを掘っています)。 ナラタージュ」では有村架純が本作の「ねえ、あたしたちって行くところがないみたいね」のシーンを観ていた、んだったかな。あまりにも「浮雲」を好きな行定監督が、ほぼ自分の趣味で入れたシーンらしいです。他作品の映像を劇中にあえて登場させる、映画のこういう文化ってあらためておもしろいですよね。あと、映画版の「昼顔」撮影時に斎藤工は本作をイメージしていたんだとか。

あらすじ

物語の主役は女「ゆき子」と男「富岡」。農林省に勤めていた二人は戦時中に出向先のベトナムで出会う。「無類の毒舌家」という富岡に戸惑いつつも、いつしか惹かれ合う二人。富岡には妻がいたが、日本へ帰ったら別れて一緒に暮らそうとゆき子に告げる。

終戦し、帰国したゆき子は富岡が待っているはずの東京へ。そこには妻と暮らす富岡の姿があった。「僕たちのロマンスは終戦とともに消えた」とつれない富岡。しかし二人の間には断ち切れない何かがあった。それぞれにあてどない日々を過ごす二人だったが、ことあるごとに逢瀬を繰り返し、憎まれ口を言い合った。

そのうち、富岡の妻が死んだ。富岡は仕事で屋久島に住むという。ゆき子は今度こそと頼み込み、富岡と共に屋久島へ向かう。

さながら憎まれ口の見本市

おもしろい日本映画って、ほんとエグいくらいおもしろいですね。なんか地味そうな映画だなあと観始めて、ヒロインと思われる女性の声がおばさんくさいわ〜と苦笑して、ほどなくして前のめりで食いついていました。まず会話がおもしろい。常に心と裏腹なことばかり言い合っているゆき子と富岡の会話劇がおもしろくてたまらない。ゆき子は、あのおばさんくさい声がいいのだ!

物語は、いわばゲス不倫ウン股野郎の富岡×そんな富岡を憎めないヤンデレゆき子の数年間を追っているだけという、いかにも単調そうな内容。しかしこの二人の日々には、どんどんいろんなことが起きるのです。新しい女、殺人事件、新興宗教。今度は一体どう転んでいくの??と気になって気になって、目も耳も休まる暇がありません。めちゃくちゃおもしろいのです。

ただちょっと感想を書く上でノリきれないことがあって、ネタバレですけどこれ悲しい系エンドなのです。ひたすら愛憎の会話劇で最後までいってくれたら大絶賛だったんですが、このタイプの終わり方は嫌だ…。そんなゆき子は見とうない…。ちうことでキーボードを叩く手も止まりがち、って感じです。あと、とにかく隅から隅までおもしろい会話劇をプッシュしたいがために、おもしろさを伝えようとすると台詞を書き起こしていくしかないのでは、ってなるのも困りもの。

と言いつつ、メモに書き取っていた会話をひとつ。伊香保の露天風呂に浸かりながら二人が話しています。もう死のうかと呟く富岡に対して「あなたをもっと生かしてあげたいのよ」とゆき子。するとすかさず「君とは死ねないよ。もっと美人でないと」と裏腹な言葉で返す富岡。ゆき子も負けじとお返事「まあ憎らしい。いいことよ」。ずっとこんな調子。状況は変われど、ずーっとこんな感じの2時間。

またある時にはゆき子が自暴自棄になり、旅館から「来ナイト死ンデヤル」と脅迫まがいの電報を送りつけて富岡を召喚。ひとしきりいつもの不毛な会話を繰り広げたのち、プツンときたのか「私、ひとりで死ぬわ」と部屋を出ていくゆき子。取り合わずに煙草をふかす富岡。しばらくして「私死ぬのやめたわ」と帰ってくるゆき子。なんでしょう、1955年に作られた1940年代舞台の痴話喧嘩映画、ものすごく身近に感じる。

まあ、ほんと、しつこいようですが会話がおもしろい。常に「ふうん」な顔した高峰秀子さんのゆき子と、常に「へえ」な顔した森雅之さんの富岡、この二人の関係が癖になってしまう。あとやっぱり日本人には日本人の色気が一番ぐっとくるんだなと。一歩間違えばサザエさんなゆき子の不思議な色気が堪りません。濡れ場がなくてもこんなにじっとりとしているのは、すごい。

行動範囲の広い映画

戦後の東京が舞台かと思いきや、突然ベトナムの回想に飛んだり、いきなり千駄ヶ谷にいたり、渋谷まで歩こうとか言ってたのに次のシーンでは伊香保温泉にいたり、屋久島へ行くためにちゃんと鹿児島まで行って桜島を拝んで、えっちら屋久島まで船に乗り…、と行動範囲が広い! よく知らないですけどこの時代の日本映画でここまで飛び回るものって珍しいのでは…?(なおベトナム屋久島のシーンは伊豆で撮影したそうです)

戦後の風俗描写も非常に細かくて、特に東京のシーンは窓の外まで情報過多なくらいの作り込みっぷり。アメリカを感じさせる要素の数々も興味深く、ゆき子のあばら家の壁にクリネックスティッシュ)の段ボールが防寒のため貼ってあったり、闇市にサンタがいたり、スティールギターのジングルベルがラジオから流れてたり。朝ドラなどでよく見る時代ではありますが、こういう「本当にリアルそう」な描写は初めて見たので驚きました。

驚いたといえば、伊香保のシーンがセットだということ! 今の伊香保しか知らなくてもぱっと見で伊香保と分かるくらい印象的なシーンで、まさかセットだとは思わずに観ていました。よくできている…。伊香保は今でも射的屋さんとか残ってるのが楽しいです。

今回初めての成瀬巳喜男監督作品となったわけですが、やはりもっと日本映画を観ないといけないなという気持ちにさせられました。かろうじて黒澤明を少し観てる程度で、小津安二郎など全く観れてないですし、もっと積極的に観ていきたい。あ、そう、森雅之さんって「悪い奴ほどよく眠る(1960)」の副総裁だったと知って、全然イメージ違うじゃんとびっくり。

浮雲」、上手く感想書けませんでしたけどすごく惹きつけられる作品です。未見の方は、ぜひ。台詞も黒澤映画と違って字幕なしで聞き取れます(笑)

(2018年214本目)

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