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主に映画のあらすじと(まとまりのない)感想文

スタア誕生(1954)

1937年公開の同名映画をジュディ・ガーランド主演でリメイクした作品。

あらすじ

コーラスガールのレスタージュディ・ガーランドは、現状に満足しつつもシンガーとして大成したいという当たり前の夢を漠然と持っていた。そんな彼女の前にハリウッドの大スターが現れる。彼の名はノーマン・メイン(ジェームズ・メイソン)。大スターではあるが、酒癖の悪さと芸の荒れから落ち目になってきている男だった。

レスターの歌唱に心を奪われたノーマンは、バンドでツアー中だった彼女をハリウッドに留まらせ、デビューさせる。主演したミュージカル映画が評判を呼び、レスターは一躍ハリウッドスターとなった。しかし彼女の飛躍と反比例するようにノーマンは落ちぶれていく。

雑感

衝撃を受けました。これはすごい映画ですね。

勝手にハリウッド・ダークサイドものと呼んでいる作品があります。古くは「サンセット大通り(1950)」だとか、近年なら「マルホランド・ドライブ(2001)」だとか。つまりハリウッドの光と陰、的な作品ですね。そういった作品群のなかで「サンセット大通り」すら抜いてぶっちぎりなんじゃないかと思えるほどクラッとくる濃厚な映画でした。

この映画を一言で言うなら、「主演:ジュディ・ガーランド」の説得力ジュディ・ガーランドという女優がどういう人生を歩んできたのかということはこの時代の映画が好きな人であれば周知の事実ですし、全然知らないよという人でも彼女のWikipediaなど見てみれば目次の時点でなんとなく察せるものがあるでしょう(彼女やマリリン・モンローWikiはぜひご一読を)。

物語中盤、「スタア」になったレスターにノーマンが言います。「スタアになってもずっと今のままの君でいてくれ。今の君が好きだ」。普通に考えたらこれはフラグで、上り詰めたレスターが転落していく展開しか考えられないところ。いくらノーマンがひどい酒浸りとして描かれていてもです。しかし本作で堕ちていくのはレスターではなくノーマン。レスターは最後まで彼に対する恩義を忘れず、それこそ「純愛」を貫きます。

本作のすごいところは、このノーマンの人物像がほぼほぼイコール、ジュディ・ガーランドという人物のそれであるところです。当時のジュディは薬物中毒によりハリウッドから干されており、カムバック作が本作だったのです。そしてこの鏡写しのようなノーマン・メインというキャラクターを正視する撮影で再び精神をやられ、皮肉なことに劇中では獲れているオスカー像も手にすることはなくまた堕ちていったのでした。

といったスキャンダラスな事実を知った上で、本作のもうひとつすごいところは、それを全く感じさせないところです。エスターはどう見ても「夫であり恩人であるノーマンに愛と感謝を絶やさず、スキャンダルとは無縁の女性」にしか見えないのです。ハリウッドを干されるほどの人間が今なおハリウッドを代表する大スターとして名を残している理由、それは単純に「名優だったから」ということに尽きるのでしょう。

アカデミー賞を獲れなかったことからも分かるように、公開当時の世評は芳しくなかったようです。考えてもみれば、お騒がせな女優がこんな良妻を演じたところでお寒いだけの話だったのかもしれません。ですがそもそも薬物依存状態を作り出したきっかけはハリウッド側にあるわけで、娘ライザ・ミネリの言葉を借りるなら「ハリウッドに殺された」女優という側面もあります。

本作で救いなのは、ノーマンがあくまで「酒に負けた」良識ある人物として描かれているところです。退院したノーマンが競馬場のバーカウンターでジンジャーエールを頼むシーン。泣けます。そこにやってきて皮肉を垂れたのは、ずっとノーマンを嫌ってきた尻拭い担当のリビー。彼の挑発に耐えかねてノーマンは思わず酒を注文してしまいます。ノーマンの死後、所長はリビーに「君はノーマンを知らなかった」と言います。リビーの存在は世間とハリウッド内部のメタファー的なものとも言えそうです。当時の人たちは「ジュディ・ガーランドを知らなかった」のかもしれません。

だらだらと何が言いたいかというと、ジュディ・ガーランドすげえな!!!っていうことなんですよ(笑) ほんっとうにすごい。「オズの魔法使(1939)」は観ました。「イースター・パレード(1948)」とかも観ました。そこまでのところ、顔はそんなによくないけど歌はべらぼうにうまい(まさに本作でのレスターの立ち位置)、程度の印象だったんです。それが、本作のジュディは何もかもがすごい。初めて本当の意味で彼女を名女優だと思えましたし、大好きな女優として数えられるようになりました。

ジュディ・ガーランド。名前は覚えやすい。顔も覚えやすい。でもまだ彼女の本気を知らない気がする。「スタア誕生」という映画はなんかタイトルも古臭いし未見。そんな方はぜひ、ちょびっと腰を上げて本作ご覧ください。きっと上げた腰が下がらなくなります。そして3時間弱走り抜けた最後の台詞で落涙必至です。

"Hello, everybody. This is Mrs. Norman Maine."

なお今回の感想文、ノート1ページにぎっしり書いた感想の断片はほとんど何も使わずじまいでした。演出や撮影の妙(鏡使いが上手い!)、シネスコテクニカラーの映像美(淡くも深い色彩がすごくきれい…)、楽曲の良さ、歌唱の凄さ、ジュディの人生と重ねてしまいたくなる印象的なミュージカルパート、あの映画っぽい!!等々、表面的な部分でも存分に楽しめる作品です。ショウビズの世界を愛する皆様へ、心の底からおすすめします。

(2018年192本目)