- 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
- 発売日: 2011/02/22
- メディア: DVD
- この商品を含むブログを見る
あらすじ
アメリカ空軍兵のフレッド(フレッド・アステア/同名です)は、10日間の休暇中に魅力的な女性(ジョーン・レスリー)と出会い、軍人であることを隠しながら捨て身のアプローチを強引にかけまくる。煙たがられることを楽しんでいるかのようなフレッドだったが、いつしか彼女のほうもフレッドに本気になってしまう。しかし召集がかかり、苦い気持ちで彼女と関係を断ち切ってフレッドは軍へと戻る。
こんなにも戦時中めいたアステア映画はない
と思います。これまでも情勢の影響が見受けられる作品はいくつかありましたが、ここまでそれが強いものは初めて見ました。全編通して刹那的な雰囲気がアステアに漂っており、なにせタップをしません。少しくらいはあるけれど見せ場というほどでもなくて、見せ場っぽいダンスは本当に優雅な、足音ひとつしないようなダンス。アステア映画としては少なからず息苦しさを感じます。
常に真の自分を隠し、本気を出さないようにしているアステア(というかフレッド)。そんな鬱憤を晴らすかのように、堰を切ったように、深夜のバーで猛烈なタップを踏み始めるアステア。終盤のこのシーンがものすごく印象的で、こんなに見ていて辛いタップもないな…と思いましたし、タップでここまでダークな感情を表現できるアステアは本当にすごいと思いました。
一応貼っておきますけど、これは単品で観てもその良さというかニュアンスが理解できないナンバーですね…。ちなみにアステア自伝によればこの頃はとにかく何かと「不謹慎」扱いされた頃のようで、「戦争中なのにこんなにグラスを割るなんて!」と苦情がきたりもしたようです。
本作は音楽も他のアステア映画と違う雰囲気で、それがまた独特な空気感を作っていました。ジョーン・レスリーも結構アステアと対等に歌い踊ってたような気がします。序盤のほうで時折笑ったりしながらラフに歌ってるデュエットのところは「ラ・ラ・ランド(2016)」の「City of Stars」にすごく似ていたなあ。ジョーン・レスリーさんはほんと、よいです。ムッとしかめっ面してる前半、逆にノってきて誘惑仕掛けてくる後半、そしてラストの、アステア映画らしからぬ潤んだ瞳。じつに魅力的なヒロインでございました。
あまりエンタメ要素が入れられないのかなんなのか分かりませんが、メタ的な台詞が多いのも本作の特徴です。アステアが「ジンジャー・ロジャースとは友達だ」なんて言ったり、「ヘイワースは?」とか、他にもこまごまと。そこはちょっとやりすぎな気がしてあんまり好みではありません(笑) いや、テイストが暗いからさ! なんか、合わないの!
というわけで、なんとも印象的、なんならダークサイドの極み「渚にて(1959)」くらい印象的なアステア映画でした。
(2018年157本目)