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主に映画の感想文を書いています

アラビアのロレンス(1962)

職場の人に「映像が綺麗だよ」とおすすめされたので、意を決して名作&大作チャレンジ。休憩があるのをいいことに、2日に分けて鑑賞しました。「おしゃれ泥棒(1966)」にも出ていたピーター・オトゥールが主演。実在のイギリス陸軍将校トマス・エドワード・ロレンスを題材にした作品。

プロローグ

1935年、イギリス。バイクに乗った男がおもむろに走り出すも、人を避けようとして転倒、死亡する。葬儀には大勢の人が参列し、銅像も作られた。しかし皆一様に「彼のことはよく知らない」と言う。彼の名はT・E・ロレンス。遡ること20年、イギリス軍のエジプト基地から物語は始まる。

いきなりアラビアじゃない意外性

砂漠でラクダでターバン、みたいなものを想像していたら、どう見てもアラビアじゃなさそうなところで男がバイク走らせてて、しかもすぐ死ぬ、っていう。えええ〜。いわば「市民ケーン(1941)」的なオープニングですね。ていうかなるほど、ロレンスってイギリス人なんだ…。どういう話なんだ…?

先入観からなんとなーく本作に抵抗があるっていう人でも、この意外な始まり方で逆に入り込みやすいかもしれません。アラビアのロレンスというより「アラビアでのロレンス」的な物語です。

ざっくりあらすじ&感想

所属しているイギリス陸軍ではなんかどうも収まりどころのない変人ロレンス。いやいや、なんかおかしな男だけどじつは学もあるし、ここはいっちょ異国にでも送り込んでみたらいい働きするかもしれませんよ!ということでアラビアの砂漠に放り出されます。すると上司の読み通り、いやむしろそれ以上に〝しっくり〟きてしまうロレンス。ラクダも上手に乗れたし、暑さにも強いし、アラブの人たちともウマが合う気がするし、ここが私のアナザースカイなのでは!!と俄然大活躍。アラブ人からもイギリス軍からも一目置かれる功績をあげます。休憩!

一旦エジプトの基地へ戻って装備を強化してから、また後半も大活躍予定のロレンス。が、上り詰めた人間には堕落がつきもの。一躍ヒーローになった金髪のイギリス人がいつまでもその座にとどまるというのは簡単なことではなく、ロレンスの場合もやはり次第にほつれが生じ、闇堕ちしていきます。そして最終的にはアラビアからもイギリス軍からも居場所を失い、憔悴しきった顔でアラビアを後にするのでした。THE END。

ざっくり書くとこんな感じ、でしょうか。ロレンスが関わってるのは「オスマン帝国からのアラブ独立闘争」ということになるのですけど、とにかくわたし世界情勢とかそういったものに学生時代からこのかたとことん興味がなかった人なので、映画を観て初めて関心を持ちつつも理解はまったく追いついていないという状態です。でもとてもおもしろく鑑賞しました。

完全版227分ということで、長いのは間違いないです。んでもって前述の通り予備知識も何もないのでしばらくは何がどうなるのか全然わからないのですが、そのうちなんとなくわかってきて「ロレンス、こいつスゲーんだな?!」ってなります。序盤、ハウェイタットと合流するところで「さっき仲間が増えるって言ってたのこれのことか!すげえな!」みたいになります。

白い肌の英雄エル・オレンスに黒い肌の魅力的な戦友アリ、壮大な砂漠の映像美、砂漠を制するものがアラビアを制す!という命がけの砂漠横断、圧倒的な数のラクダや馬、などなど見どころ沢山の前半。わかってくるととても痛快で楽しいです。寝るつもりだったけど休憩またいで後半も観ちゃおうかな?と意志がゆらぐ程度には楽しいです。

しかし後半。これまで「この人は何かやってくれそう」「この人は英雄だ」と思って見ていたロレンスの優しい顔が、徐々に情けない泣き顔に見えてきてしまいます。英雄として見ていたいのに! 英雄として見れなくなってくる! きわめつけは例の「暴行」シーンと、そのあと陸軍基地に帰ってきたときの佇まいですね。なかなか戸惑う光景です。この戸惑い案件に関しては、何も知らずに観た方が物語に集中できて、かつ後から「ああ!」となれていいかなと思います。

わりと胸糞エンドではあるんですが、急降下ではなく長尺でしっかり描いていること、「バイク」をうまく使って作品をきれいにパッケージングしていること、非常にスケールの大きな話であることなどから(ロレンスなど点である)、そこまで胸糞ッ!という感じではなかったです。「ほう…!」ぐらいの感じ。ただし無茶を言うならロレンスはせっかく巡り逢えたアナザースカイでそのまま幸せに暮らしてほしかったなあと思っちゃうのでそっちの世界線で誰か何か作ってほしいです(笑)

意を決して鑑賞した感想としては、難しい部分も多かったけれど徐々にのめり込んでいけるような面白さがあり、ロレンスに良くも悪くも主人公としての魅力があり、どこでもドアでアラビアの砂漠に放り出されたような映画体験ができ、砂漠の恐ろしさと美しさがこれでもかというほど表現されており、などなど、つまりとてもよかったです。だいぶ変わった味わいの作品ではありましたが、観てよかったと思えました。また再上映してくれたら、ぜひとも映画館での前方で観てみたいです。

加えて、お馴染み町山さんの映画塾宇多丸さんのシネマハスラーなど(いずれもYouTubeへのリンク)を聴くと、観て感じた以上にすごい作品なのだな〜〜という学びがあるので併せておすすめです。このおふたりの映画解説はわたしのなかで非常に大切な副読本的存在となっております。

(2018年154本目)