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主に映画の感想文を書いています

晴れて今宵は(1942)

「踊る結婚式(1941)」に続く、フレッド・アステアリタ・ヘイワースのコンビ2作目。監督は「ロバータ(1935)」も手がけたウィリアム・A・サイター。

あらすじ

裕福な家に生まれ育った四人姉妹の長女が結婚した。交際相手のいる三女と四女は追うように結婚したがるが、上から順番にという父親の方針によりお預けを食らっている。しかし肝心の次女マリア(リタ・ヘイワース)は美人だというのに「中身が冷蔵庫」で男っ気が皆無だった。どうにかしてくれという末娘たちの頼みから父親は「無名の求愛者」をでっちあげ、自ら書いた嘘のラブレターと花を娘に送り続ける。凍った恋心を蘇らせるためだった。

初めは鼻にもかけなかったマリアだが、次第に手紙の主へ興味を持ち始め、父親がうっかり送り忘れていた時には心を病ませた。同じ頃、仕事を求めてナイトクラブのオーナーである父親に接触を試みていたダンサーのロバート(フレッド・アステア)は、ひょんなことから手紙の配達役となり、何も知らずに指定先へ届ける。久しぶりの贈り物に胸を高鳴らせた彼女はロバートこそが「求愛者」であると誤解し恋心に火をつけるも、彼を良く思わない父親は慌てて猛反対。仕事を与えることと引き換えに娘を幻滅させろ、とロバートに命ずるのであった。

罪深きリタ・ヘイワース

「踊る結婚式(1941)」「ギルダ(1946)」と続けざまに観てきまして、ただただリタ・ヘイワースを拝みたいだけの男になっております。本作は萩尾望都の初期作品を思わせるようなお嬢様たちとパパと、みたいなお話でとても華やか。早くも冒頭から美人四姉妹の着飾った姿で始まりますが、そんななかでも登場した瞬間「別格」のオーラを放っている次女マリアことリタ・ヘイワース。わたしジンジャー・ロジャースとかは未だに他の人と間違えたりするので、いかに圧倒的ルックスかということでしょう。

のちの「ギルダ」でとても印象的だったバックライトはこの頃もふんだんに使われていて、赤毛が白黒に映えます。「ギルダ」ほどの妖艶さは出していないものの、美しすぎることには変わりありません。アステア演じるロバートも、アステアの役柄としては珍しく「あっちを向いていてくれないか。見られると何も言えない。心臓が止まりそうだ。」なんて言うほどクラックラ。まあもう、そういう脚本にせざるを得ない罪な美貌なのですよリタ・ヘイワース

もちろん彼女の場合は美貌だけでなく、ダンサー上がりゆえの見事なダンスも見ものです。「踊る結婚式」の冒頭でもアステアに寸分違わず食らいついてくるダンスをしており驚いたものですが、今回もキレのあるダンスから優雅なダンスまで大いに魅せてくれます。ただ、吹き替えなのに歌のシーンがやたら多いのはちょっと気になります(笑) ミュージカルだから仕方ないか。

アステア映画の楽しさを噛みしめる

競馬好きなダンサーという役のアステア、これはつまり本人通りということで。アステアは副業で馬主もやっていたほどの競馬好きです。なぜかアルゼンチンが舞台の本作では、「NYでは人気ダンサー」なアステアも無名のダンサー。どうにかナイトクラブで仕事をもらおうとオーナーのオフィスで芸を披露するシーンがあるのですが、これが絶品。アステア曰く「見て、気に入れ!」

思わず前かがみになり、あんぐりと口を開けてしまうようなパフォーマンスです。ほんとね、こーいうやつが、アステアはすごいんですよね!! 「恋愛準決勝戦(1951)」の帽子掛けダンスとか、他にも山ほどあると思いますけど、長回しで一体何テイク撮ったんだろうと思わせるような超絶小技の畳み掛け。あ〜〜アステアはすげえなあ〜〜楽しいなあ〜〜と嬉しい溜め息が出てしまいます。

ちなみにこのダンスは、スタジオ近くの葬儀場の一室を借りてリハーサルしていたのだそう。自伝で覚えのあったエピソードですが、これだったとは。

コロンビアの敷地内は当時いろいろな撮影で満杯で、リハーサルの場所を見つけるのが難しかった。リタとわたしはまずしばらくのあいだ、ハリウッドの街の市民会館で稽古をした。それから実際の撮影が始まるまでの残りの時間、スタジオの近くで使用可能だったのは、サンタモニカ大通りに面したハリウッド墓地内にある、葬儀場の一室だけだった。そこは建物の二階にある談話室のような部屋で、広大な墓石の海を見下ろすことができた。最も華やかで、最もグラマラスなエンタテインメントを、この驚くべき仕事場で考案することになっているという事態を、わたしたちは大いに笑い話にした。

(「フレッド・アステア自伝」p327より引用)

アステア映画を観たあとは必ずこの「フレッド・アステア自伝」の該当箇所を読み返しているのですが、アステアの語り口が軽妙で何度読んでも楽しめます。ファンには非常におすすめの一冊です。

フレッド・アステア自伝 Steps in Time

フレッド・アステア自伝 Steps in Time

この自伝を読んでいると、いかにアステアが常に新しいパフォーマンスを模索していたかということが伝わってきます。もう20本以上アステアの作品、それもざっくり言えば似たようなタイプの作品ばかりを観てきているのに、観るたびにこれだけ長文を書けてしまうほど楽しめているというのは、まさにそのアステアの努力があってこそと言えるでしょう。

ザビア・クガート

舞台のブエノスアイレスがタンゴの本場だからか、ラテン音楽の巨匠であるらしいザビア・クガートと彼の楽団が全編通して出演しています。序盤のアテフリじゃない(とはいえ別録りかもしれませんが)演奏シーンは本物のバンドならでは。ドラム(当時のティンバレス?)のヘッドに手を押し付けてピッチベンドさせる奏法、マレット4本持ちのマリンバ演奏、しっかり3-2を刻むクラーベの女性などなど、わたしアマチュア打楽器奏者なのでそういうところばかり見てしまいますけどしっかりリアルな映像になっております。

バンドリーダーのクガートは助演男優賞レベルの出演をしていて、じつに芸達者。途中でクガートが似顔絵を描いているシーンがありますが、彼はかつて漫画家だったのだとか。それも新聞社の漫画家ということなので風刺漫画家ってことでしょうね、実際このシーンが風刺画ですから納得です(笑)

といったところで。脚本的には「踊る結婚式」同様にラストで「ん?」と少々腑に落ちない感じになったりもしつつ、麗しきリタ・ヘイワースと常に新しいフレッド・アステアを堪能できるとてもよい作品でした。

(2018年142本目)