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主に映画の感想文を書いています

踊る結婚式(1941)

フレッド・アステアリタ・ヘイワースをパートナーに迎えた一作目。原題「You’ll Never Get Rich」。いや、邦題で損してる気がしたので原題も書いておきます(笑) どう訳せばいいのかわからないけど。

あらすじ

振付師のロバート(フレッド・アステア)は、女癖の悪い興行主に巻き込まれてダンサーのシーラ(リタ・ヘイワース)とのスキャンダルをでっち上げられ、彼女の婚約者に殺されかける。ちょうど徴兵が来ていたので逃げるように軍隊へ入るが、無関心なはずだったシーラのことをいつしか想うようになる。そんななか、軍の基地で暮らすロバートのもとへ突然シーラが現れる。じつは彼女の婚約者は軍の大尉だった。

大傑作ではないかこれは

びっくりしました。もう20作以上アステア映画を観ているけれど、万人に魅力が伝わるような決定的な一本というのを決めかねていて、でもこれはかなりその条件に近いかもしれない…。非常におもしろかったです。

オープニング、「徐行してくれ」と運転手に告げ、車窓に見えるビルボードを使ってのタイトルバック。それが終わると「もういいぞ」と車を走らせ本編に入ります。まずここからセンスがいいな!と超好感なんですが、その第一印象を裏切らずに最後まで(いや、最後はちょっと微妙か)ずっとキレッキレの脚本・演出。とにかくウィットに溢れてる! アステア映画でこんなに声出して笑ったのは初めてかも。ビリー・ワイルダーみたいなセンスを感じます。

だいぶ異色のアステア映画

第二次世界大戦の真っ只中ということで、本作の主な舞台は軍隊の基地です。なんとアステア演じる振付師ロバートは徴兵され、基地での慰問公演(セルフ慰問だけど)がクライマックスのシーンとなります。この頃アステア本人もこのような慰問ツアーに参加していたそうなので、当時の状況をそのまま映画にしたような作品ということになるんでしょうか。

本作のアステアはほとんど軍の制服姿。特に大尉の制服がたいへん似合っていますがこちらは上官からこっそり拝借したもので、実際は営倉に入れられっぱなしのペーペーです。明らかに通常の宿舎より広々としてて快適そうな営倉、そのだだっ広い床で幾度も見せるタップは絶品! また、出征時の駅でのお見送りフォリーズも軍隊とは対照的に華々しくて楽しいです。隊列ダンスからディゾルブしてのリアル隊列とか、やはりセンスがいい。

踊りは見どころ沢山ですが、アステアがロマンティックに歌うようなシーンは少ない、というかほぼ皆無?だったような。そのぶんミュージカルっぽさが薄く、代わりにこれは監督の個性なのかわかりませんがコメディ色が強いです(軍隊のワル仲間が愛おしい)。キレッキレのコメディとキレッキレのダンスが楽しめます。

ちなみにまったく同じ時期の同じようなお話として「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー(2011)」を連想しました。第二次世界大戦中、本作中のアステアと同じく体重の足りなかったスティーブ・ロジャースは軍の慰問担当的な仕事として「キャプテン・アメリカ」を演じます。

リタ・ヘイワース推しになります

本作でアステアのパートナーとなるのはリタ・ヘイワースリタ・ヘイワースといえば個人的には「マルホランド・ドライブ(2001)」のカミーラがとっさにリタ・ヘイワースのポスターを見て「リタ」という偽名を口走るくだりのイメージが強いのですけど、ご本人は初めて拝見しました。あの、めっちゃくちゃ美しいですね。この美しさ、凶悪ですよ。Wikiの写真も最高。

ジンジャー・ロジャースのようなブロンドではない暗めの髪色(赤毛らしいですがモノクロなので黒に見えてそれがまたよい)と長身なスタイルから、シド・チャリシーを連想しました。シド・チャリシーといえば「バンド・ワゴン(1953)」にて劇中と同じくアステアが身長差を気にしていたことが有名ですが、リタ・ヘイワースともやはり初対面時は身長に関するやり取りがあったようです。まあとにかく、踊る姿も惚れ惚れしてしまいます。釘付けとはこのことです。推します。

なお、リタ・ヘイワースはアステアの友人の娘だそうで。友人の娘さんと恋仲を演じるのはどんな気分だったんでしょうね(笑) しかし悲しいことに彼女はアステアよりも早く亡くなってます(それも一ヶ月前。うまくいけばアステアの耳には入っていないかもしれません)。歳の近いシド・チャリシーや、「マルホランド〜」にも出ていたアン・ミラーが2000年代まで生きたことを考えると、87年没は早い…。

幸い、美しい映像が多く残されているはずなので、出演作をこれから観ていくのが楽しみになりました。本作「踊る結婚式」は単品のDVDも出ていないようでアステア作品にしては不遇の扱いですが、個人的には五つ星つけたいくらいの傑作です! おすすめ!

(2018年137本目)