3月のライオン 前編
様々な人間が、何かを取り戻していく
優しい物語です。
全ての巻の裏表紙に書かれていることば。
「3月のライオン」といってまず頭に思い浮かぶのは、川本家の“ふくふく”なあたたかさ、おいしそうなごはん、個人的にはそっちだったりします。壮絶な人間ドラマが圧倒的気迫で描かれていることも当然知っているのだけど、羽海野先生のタッチもあってか、イメージとしては“優しい物語”のほうが強い作品のように思います。
さて、この実写版。いきなりお通夜のシーン(それも親子の遺体が川の字に並ぶ、ショッキングな映像)、続けて火葬場のシーンと、かなりダークな幕開け。原作では途中途中で描かれる義実家のエピソードが劇中の多くを占め、有村架純演じる“魔女”香子も頻繁に登場します。川本家のあたたかさに触れるシーンは意外なほど少なく、すぐに引き剥がされて盤面に向かい合う零が印象的です。
冒頭のお通夜〜火葬場シーンを見せられてすぐに思ったのは「ああ、これだけのことがあったんだよな」ということ。漫画では伝えきれない“リアル”なんだなと。主人公は幼くして両親と妹を事故で亡くした、文字で書けば、言葉で言えばそれで終わってしまうことが、生身の人間を使って描写されるとそのニュアンスは全然変わってくるように感じました。零の過去をこれでもかと具体的に描いたことが、この映画の説得力(なんて陳腐な表現しか思い浮かびませんが)を高めてくれています。
幼くして肉親を失い、義実家でも居場所なく生きてきた主人公。彼の居場所を作ってくれる川本家の三人娘もまた、母と死に別れ、父から逃げてきた人たち。羽海野タッチがあたたかくて忘れかけているかもしれないけれど、そんな過去のもとに繰り広げられている物語なのだということを思い出させてくれる、衝撃的なくらいの実写化作品でした。描きすぎだと思う人もいるかもしれません。あたたかさの描写が少ないと思う人もいるかもしれません。個人的には、この実写化における取捨がとても好きです。
てなわけで、将棋ドラマのほうにはまったく触れられてませんが、既に長くなったためこのへんで。しかもまだ前編。来週から始まる後編も覚悟して臨もうと思います。この映画めちゃくちゃ精神力吸い取られるので、前後編ハシゴして観ようなんて考えないほうがいいです(笑) わたしは観賞後、甘い缶コーヒーを衝動的に買って飲みました。