353log

主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「転校生-さよなら あなた-(2007)」雑感

f:id:threefivethree:20200526195937p:plain

ついにオリジナル未見のままリメイクを観てしまいました。まだまだ続くよ大林作品履修期間。今回は2007年公開『転校生-さよなら あなた-』の雑感です。蓮佛美沙子さんの映画初主演作!

あらすじ

幼少期を過ごした長野へ尾道から越してきた斉藤一森田直幸は、転入先のクラスで幼馴染の斉藤一美蓮佛美沙子と偶然再会する。その日の放課後、幼い頃よく遊んだ水場でうっかり池に落ちたふたりは[脚注:うっかりすぎだろ]、どういうわけか心と身体が入れ替わってしまう。困惑しながらも騙し騙しで当面を乗り切ろうとしていたが、一夫の心を持った一美の身体はいつしか不治の病に冒されており──

雑感

さて、まずこれは大林監督の超代表作とされる1982年公開の『転校生』が圧倒的オリジナルとして君臨している上でのセルフリメイク作品なわけですが、このオリジナルの『転校生』は「大林作品のなかでも非常に見やすい」などと言われているわりに配信が全くなく、「非常に見にくい」作品なのでございます。そんな事情でオリジナル未見での感想となることご了承ください。

転校生 [DVD]

転校生 [DVD]

  • 発売日: 2001/04/21
  • メディア: DVD

※最近までDVDも在庫なしが続いていたはずですが、今見たら潤沢に入荷していたので(特需で増産してくれたのかも)観るすべありますね。でも買うならBlu-ray出るまで待ちたい……。

大林ワールドの異様さを再認識できる作品

ここまで概ね年代順に大林作品を追ってきました。70年代、80年代、90年代、そして2000年代。『時をかける少女(1983)』におけるキャラクターの喋り方は「古風」だとよく言われますが、1986年生まれのわたし的には、果たして83年にあの喋り方がどういう印象を受けたのかというのは肌では感じられないわけです。

それが、今回こちら2007年公開の本作、びっくりするくらいフィルモグラフィ初期のテイスト、特に学校の描写なんかはそのままやっておりまして。良く言えば「妙に元気はつらつ平和な学び舎」、悪く言えば「なんじゃこりゃ」。「2007年のリアル」は肌でわかるので、どう考えても異様だということがよーく理解できた次第です。そして80年代に大林作品を観た人も「80年代のリアル」に照らし合わせて多かれ少なかれ「なんじゃこりゃ」と思ったであろうことが想像つきます、これでようやく。

大林作品で非常に印象的な「思春期の少年少女がよく喋る(それも年齢錯誤、時代錯誤なノリで)」っていうのすごく好きなんですが、本作に関しては2007年にこれ公開するもんじゃないよ!と正直思ってしまいました(笑) 普通の青春映画と思って観にきた人は面食らったんじゃないかしら……。まあ『時かけ』もそうだったのか……。大部分が乾いた笑いと気まずさと、しかし最後には丸め込まれて感動しちゃうのも、同じだな……。

なお、さも不満かのように書いてますが、まったくまいっちゃうなあ、という感じでたいへん満足しています。この感覚こそがきっと大林作品。

入れ替わりのクオリティは要審議

『転校生』は、後世に大きな影響を与えた「元祖入れ替わりもの」。80年代にオリジナル版がヒットし、2010年代には最たる後継作品『君の名は。(2016)』が空前の大ヒット。日本人は男女入れ替わりものがお好き、ということが証明されました。

オリジナル版では小林聡美さんと尾美としのりさんが入れ替わるふたりを演じていて好演であろうことは想像に容易いのですが(こういうところで未見による説得力の無さが出る)、本作はちょっと、そこんとこは難ありかなあと思いました。

ここまで書くタイミングがありませんでしたがわたくし本作のヒロイン斉藤一美さんこと蓮佛美沙子さんのお顔がたいへん好みでございまして、じつは大林作品の履修始めたときからずっと観たいの我慢してたんですよね。それでようやく観て。この流れだと蓮佛さんに何かダメ出しをしそうですが、ありません。蓮佛美沙子さま最高です。好きです。

ということはもうひとり、「一夫くん」のほうですね。監督の演出がよくないのか役者本人の技量や解釈の問題なのかがわからないのでなんとも言えないところなのであえてキャラクターに対する不満点を述べますけども。一美ちゃん、入れ替わってもそうはならないだろという違和感がかなりありました。入れ替わる前の一美はもうのっけから強烈に飛ばしまくりの男勝りなキャラじゃないですか。それが、入れ替わったら妙にしゃなりしゃなりとステレオタイプな女の子像になっちゃうわけです。そこが結構ノイズになってしまったなあと。

ただこれに関しては前向きな解釈も考えました。ふたりの心と身体は完全に入れ替わったわけではなく、たとえば一美の身体には歌唱力や想像力が残っておりそのコラボレーションであの歌が生まれてるんですよね。それで言うと、入れ替わる前の一夫はそれなりに口調を荒げることもあるものの全体のイメージとしてはおとなしめな印象を受ける(第一ボタン閉めてるし)。ならば彼の身体に入った一美が少しおとなしくなるのも腑に落ちる。反対に、一美の身体に入った一夫が元の性格よりてやんでいな感じになるのも納得できる。問題は、細かい演出をつけないと噂の大林監督がそこまで細かい演出をつけているかどうかという点(笑)

はみ出し雑感
  • 「死にいたる病」は『SADA(1998)』にも出てきたなあ。他にも出てくるのかしら。

  • 子供達しか知らない、という状況が結果的になんだかすごくよかった。エピローグを観ていると何か通過儀礼のメタファーのようにも感じる。

  • 元カノと今カレが混ざってくることによるなんとも言えないあのくすぐられる感じがたまらぬ。

  • 蓮佛ちゃんの脱がし方がなかなか、フェチが強い。設定上は自分で触っているわけなのだが、いや〜〜〜!!!だけどさ〜〜〜!!!ってなる(もちろん嫌いじゃない)。

  • 相変わらずのドリーズーム使いがブレない。

  • 事前に知っていた「斜め」については案外違和感なく見れた。というのも、わたしが写真を撮るときの癖によく似ていたから。画角を広げるために傾ける癖。何枚もそれが続くとクドくなる。そのクドいのをやったのが本作。でも意外とクドくなかった。

  • ほんの数カットしか映らないラストの尾道、それでも一見して「尾道!!」と分かるすごさよ。あんな、おそらくなんてことない港町の光景であろうに。これは尾道に対する大林監督のものすごい貢献だ。

  • いつも以上に冒頭の「A MOVIE」が効いていたなあと思った。斜めになって始まるところ、大林監督の言葉で幕を閉じるところ、そして2007年にこの演出!というところなど、「映画だよ!」感が一段と強かった。

  • ラストで直筆サインとともに現れる監督からのメッセージ。この頃にはかなりめそめそ泣かされていたのもあり、この映画を作った人はもういないのだなあと不思議な気持ちになった。でも、「人の命には限りがあるが、物語の命は永遠だろう。」そういうことなのである。

そんなわけで、ぐじゃぐじゃ書きつつ結局のところ「よかった」のです。もし「セルフリメイク版から観ても大丈夫かしら」と思っている方がおられたら、他の作品を何本か観てからであれば大丈夫だと思うわよ、と申し上げておきます。いきなりこれから観たら、たぶん2007年の映画とは到底思えないはずなので……。

(2020年79本目/U-NEXT)

転校生 -さよなら あなた-

転校生 -さよなら あなた-

  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video
PrimeVideoでも会員特典で観れます。これはキービジュアルが作品のイメージと相違ないレアパターン。ふくれっ面の蓮佛ちゃんが可愛い。

「ヘイル、シーザー!(2016)」雑感

f:id:threefivethree:20200524090638p:plain

コーエン兄弟監督の映画ヘイル、シーザー!を観ました。出演はジョシュ・ブローリンジョージ・クルーニースカーレット・ヨハンソン、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー(2018)』のオールデン・エアエンライク、ほか。

あらすじ

1950年代ハリウッド。マニックスジョシュ・ブローリンは、スタジオ内のスキャンダルなどあらゆる問題を片付ける「解決屋」。撮影中のスターが失踪してしまったり、不慮の妊娠をしてしまったり、それをゴシップ屋が嗅ぎ回っていたり……と彼の一日は大忙し。早朝には日課のように教会へ立ち寄り、今日もまたハリウッド中の罪を背負って懺悔する。

雑感

これはひとつ前の『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2015)』から繋がるかたちで観た作品です。『トランボ』について調べていた際に町山智浩さんが本作とあわせて「この2本の映画は互いに補い合ってひとつの物語になるところがある」と紹介していたので、それならば、と続けて鑑賞しました。

ただ、想像していたような「同じ時代を違う視点から切り取った映画」とはちょっと違って、町山さんの言う「奥の方でつながっている映画」という表現が確かに適切かなと思いました。正直、難しい映画でした! 『トランボ』は比較的堅実なノンフィクション、対するこちらはコメディで一見わかりやすく楽しめそうなものですが、笑いには教養が必要ということなのでしょう。

思った以上に理解できないまま終わるのは悔しいので、こういう時はやはり町山さんに頼るのがお決まりです。町山さんが不定期に音声配信している「映画その他ムダ話」という映画解説があり、そこに上がっていた本作の解説音声を聴きました。有料ですが、ひとつの映画に1時間前後も割いてみっちり解説してもらえるのは大変ありがたく、わりと頻繁に利用しています。

これがですね、小ネタの解説程度を期待して聴き始めたら非常に感動的な考察となっておりまして、そういう話だったのかーーーーと目から鱗。同時に、こんなの解説してもらわなきゃ絶対わかんないよ!というお手上げ感。もし本作を観てあんまよくわかんなかったな、と思った方がおられたら必聴です。

そんなわけで、本作の物語に関して自分の言葉で語れることは無に等しいので割愛させていただきます(笑)

ハリウッド名作再現ものとしての楽しさ

自分の言葉で語れるのはせいぜいこれぐらい。といってもお話の中心にある『ベン・ハー(1959)』的な映画のことは明るくないのでいきなり飛ばすとして、最初におっ!と思ったのはスカーレット・ヨハンソンによるこのシーン。

f:id:threefivethree:20200524081329p:plain

これは、元競泳選手で「水着の女王」と呼ばれた女優エスター・ウィリアムズの代表的なシーンを模しています。ちょっと意味わかんないくらい大掛かりでゴージャスな「水中レヴュー」というジャンルが一時期あったのでございます。

また、水兵さんたちが飲み屋で踊りまくるシーン。こちらはものすごく出来のいいナンバーで思わず見入ってしまいましたが、模しているのは言わずもがなの歴史的スーパーダンサー、ジーン・ケリーのパフォーマンス(動画は一例。水兵さんの格好はこの時期よくあります)。

こういったハリウッド超黄金期を一望するには、MGMミュージカル映画のハイライトシーンを一挙に振り返っていくアンソロジー作品『ザッツ・エンタテインメント(1974)』がおすすめです。とにかく開いた口が塞がらないほど度肝を抜かれる映像のオンパレードで、所詮「昔の映画」でしょ、と思っていたものに平伏すること間違いなしです。

ザッツ・エンターテイメント(字幕版)

ザッツ・エンターテイメント(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

『トランボ』とのあれこれ

本作には『トランボ』で描かれた「ハリウッド・テン」と思わしき10人くらいの男性たちが登場しますが、彼らの役どころはなんと「誘拐犯」。ジョージ・クルーニー演じる誘拐されたスター俳優が彼らの唱える共産主義に毒されて帰ってきて、バカ!目を覚ませ! とビンタされる、あくまでそんなお笑い要素でしかありません。

『トランボ』は共産主義者たちの目線から見た世界、本作は真逆の目線から風刺的に見た世界。ま、いろんな思想があるよ、ってことみたいです。それにしても確かに、『トランボ』観てなかったらあの誘拐集団なんて完全に意味不明だっただろうな……。

他には、ヘレン・ミレンが『トランボ』で悪どく演じたコラムニストのヘッダ・ホッパー(をモデルにした人物)も登場。『ハン・ソロ』のオールデン・エアエンライク(好演!)に頭を抱える監督は町山さんによればジョージ・キューカーがモデルとのことで、Netflixドラマ『ハリウッド』とも繋がっていきます。

ちなみに監督のコーエン兄弟、『ブリッジ・オブ・スパイ(2015)』では脚本を手がけておりまして、全く奇しくもここ数本の鑑賞作品が全部繋がってしまいました。

(2020年78本目/PrimeVideo)

ヘイル、シーザー! (字幕版)

ヘイル、シーザー! (字幕版)

  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: Prime Video
ヘイル,シーザー! [Blu-ray]

ヘイル,シーザー! [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/04/21
  • メディア: Blu-ray